第19話 レベルアップ
久しぶりの休日。
いつもなら、朝早くから、たまっていた洗濯や掃除、スーパーで広告品の食材を買いに勤しんでいた。
それを適当に料理して、午後からはゴロゴロしながら、ネット三昧するのが常だった小夜美。
(低いレベルにいる自分の現状が分かっているのに、いつも通りに過ごしていたら、レベルアップどころか、急降下しそう! ロカは、教えてくれなかったけど、どうやったら、レベルアップ出来るのかな......?)
部屋のどこかに、そのヒントが無いかと見回してみた。
(取り敢えず、やっぱり家事だけは先にしておかないと! 休みが終わりかけてから一気に、まとめてやるのは面倒くさい.....)
洗濯機を回している間に、掃除機をかけ、残った時間は、ネットで、『自分磨き』を検索した。
(なるほど、自分磨きは、外見的なものと内面的なものが有るのね。う~ん、宇宙人の感覚からすると、多分、内面の方がより重要なはず!)
そこは、今までの経過からも確信していた。
(内面を磨くとは......一般的には、習い事、資格取得、読書、マナーや教養を身に付ける、規則正しい生活、身体に良い食事......どれもこれも、何だか、宇宙人が求めるものとしては、違っているような気がする。美術、音楽などの芸術作品に触れる......それは、確かに目にも耳にも心にも良さそうだけど、何だか私にとっては敷居が高いような......? うん、現実的に、そこまで金銭的な余裕無いし......)
頭の中で、色々考えながら、洗濯物を干し終えた小夜美。
食材の買い出しも必要で、外を歩きながら考えているうちに思い付くのを期待した。
(off!! ロカのケチ!! ちょっとくらい教えてくれたって、いいのに~! せめてヒントだけでも教えてくれたら助かるのに~! 自分は宇宙人だから、分かりやすいかも知れないけど、私は違うんだから、手加減してよ~! レベルアップっていっても、漠然とし過ぎて、何から手を付けていいのか、さっぱり分からないじゃない!)
offモードにして、ロカへの不満をここぞとばかりに並べた。
(......でも、その何の手掛かりも無い状態から、自分で少しずつ何か掴んで歩んでいくのが大事なんだよね、きっと。安直に行こうとして、誰かに聞いてしまうと、私個人のレベルアップから遠ざかってしまうのかも知れない。だから、ロカは、教えたくても教えるわけにはいかず、私が自ら、その方法を見出すのを待っているのかな......?)
ロカにあたっても仕方ないと思えて来た、小夜美。
(もしかすると、必要なのは、大きな何か1つではなく、小さな事1つ1つの積み重ねが大事で、いつか功を成すのかも知れない......なんて事もあるのかな? それとも大きな何か1つだけで成せる? ......それより、何だかおかしいと思ったら、今朝は、新聞読んでなかった!)
玄関に行き、新聞入れをチェックしても入っていなかった。
休刊日の場合はその前日のチラシの中に、大きく休刊日の広告が入っているが、昨日はそれを見かけてなかったから、休刊日ではない事は確かだった。
少し面倒に思いつつも、持ち前の接客で慣れた明るい声で、新聞配達店に電話し、不快さを感じさせない人当たりの良い話し方で、住所と名前を伝えた。
新聞店には、「急がない」と伝えたが、5分後には配達員が謝りながら持参し、お詫びのゴミ袋と電話代の10円を手渡された。
せっかく早くに届けられたからには、折り込みチラシを見て、今日の特売品や、買う物をチェックし、エコバッグを持参して出かけた。
スーパーでは、通りすがりの人が落とした食材を拾って陳列し直したり、他の買い物客が戻し忘れた買い物かごを自分のと合わせて、所定の位置に戻した。
前方から、何人かが歩いて来た時に、横に避ける人とそのまま退けない人がいるが、小夜美は前者だ。たまに、対面側の人も同じ方向に避けてしまい、申し訳なさそうに「すみません」と詫びるタイプ。
今日も、人通りの多い道で、それを何度も繰り返した小夜美。
今時は、優先座席ですら、目の前に年配者や乳児を抱いている人がいても、譲らず健常者に見える若者がスマホを見続けている光景が当然なご時世。
小夜美は、離れた座席に座っていても、荷物を置き席を確保して立ち上がり、座っていた座席を、明らかに席を必要としているような人に譲る事を健常者の義務と考え、その状況に置かれる度に、自然に実践していた。
誰かが持っていた物を落としたり、風で舞い上がってしまい、困っている様子を見ると、急いでいても立ち止まり、最後まで拾い集めて手渡してから、全速力で走って、目的地まで遅れた分を取り戻した。
自転車置き場で沢山の自転車が将棋倒しになって困っていたり、年配者が手漕ぎ車を倒して、元通りにする事が出来ずにいると、駆け付けて、加勢する。
道を聞かれ、教えても分かりにくい位置の時には、分かりやすい場所に出るまで、自分も同行して案内する。
こんな些細な小さな親切の積み重ねは、意識せずに身に付いていた事だが、そのような蓄積こそが、まさか自分のレベルアップに繋がって行く事になっていたとは、小夜美自身、その時は気付けずにいた。
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