第15話 ロカの狙いとは......?
職場へと向かう、反対方向の列車が到着した。
今度こそ人波に押されず一駅で降りられるように、電車の奥には向かわず、次に開くドア付近にとどまる小夜美。
それでも、やはりラッシュ時である事に変わり無く混んでいる電車内で、次の駅に着いても、周囲にいた少しの人々に押されながら降りる事となった。
駅から出た時、見慣れた街並みに安堵を覚え、いつも通りに歩き出した。
十数分程度だが、職場に遅刻した小夜美は、店長に少々叱咤された後、遅れて周りに迷惑をかけた分を取り戻そうとして、いつもより機敏に動いた。
(冒険には憧れるけど、一度でも仕事すっぽかして、自由に振る舞ったが最後! また一から戻って、慣れない場所で道に迷いながら職探し地獄が始まる! 無職の間は、出費抑えなくてはならない引き籠り生活になる! そんなのはイヤだ!)
急ピッチで溜まっていた仕事をこなし、遅刻して仕事が遅れた分は、何とか追い付いた小夜美。
(結局、生きていき為には、飽き飽きしていても、慣れたこの仕事を続けてゆくしか無いのかな......? 私は、あの王女と違って、脱出という後先考えない行動なんて無理だから)
それでも、見せられた夢から、今まで知らなかった世界をサーミ王女が知った瞬間の心の動きは、小夜美にも、まざまざと伝わって来た。
(あの王女......あんな、まだ思春期くらいの少女なのに、隣国の国王とはいえ、自分の祖父母より高齢くらいの老人と結婚させられる生まれながらの宿命だったなんて!
そんな事は、外の世界を知ってしまってからは、ただの苦痛でしかない!......ロカが協力してくれたから、飛び出せたんだ! 彼女はその後、追っ手に捕まったとしても、その行動に出て、自分の意思表示をした事を決して後悔してないはず!)
その前の映像や夢で見たサーミ王女が、自分の過去世かどうかまだ漠然として、確信出来ない状態だったが、彼女の取った行動には、明らかに共感出来た小夜美。
そして、彼女の唯一の協力者であるロカが、再び、サーミ王女の生まれ変わりとされている自分の前に現れた。
そうなった理由をまず知りたいと思った小夜美。
(元々は、私は地球人ではなく、何とか星人なのだから、その星に戻るのが最終目的なのは分かるけど、私はレベルが足りないとか言っていた。......とか何とか言いつつ、実は、ロカは、何とか星人の私のせいで犯罪者になったのだから、私への復讐を企んでいるとか......? 私が、永遠に何とか星に、戻れないように仕向けているとか。よくよく考えて見ると、それは無いかな......? そもそも、ずっと地球人として生きて来て、何とか星人とは無自覚の私が、仮に単独で自分の星に戻る事を想像で思い付いたとしても、それを実現出来る手段なんて持ち合わせてもいないはずだし......)
今まで見て来た形式的な接し方をして来たロカと、夢の中のお人好しな素振りのロカを比べると、同一人物とは思い難かった小夜美。
それでも、あのロカが、自分に報復する事が目的で、わざわざ飛来しているようには見えない。
(まあ、同一人物かどうかなんて、ロカよりもむしろ私の方がギャップ大き過ぎるような気がしないでもない。あの豪華絢爛な衣服の可憐で上品なサーミ王女とは、似ても似つかないのに、彼女が過去世の私とは......。ロカも、地球人としての私を初めて見た時に、そう感じて、かなり失望したのかも知れない。あの時、なぜか、過去の私と似ているなんて言ったりしていたけど、そんな事あるわけない!)
無表情な事が多かったロカだったが、予想外に見せていた笑顔をふと思い出した小夜美。
(あのサーミ王女だった時の私は、年配者に囲まれて生活して、人間は皆、年配者だと思っていたのに、初めて外に出て、ロカのような青年を見た時に、どう思ったんだろう? あんな風に手なんて繋いで逃げちゃって......ああ、そろそろoff時間が切れてしまう! ここで何度も使っていたら、本当に必要な時に無効になってしまうから、いい加減、off機能を使うのを控えなくては!)
小夜美は、ロカにモニタリングされていても支障の無いように、無難な事を考えようとし、仕事中は、より仕事に無心に打ち込んだ。
「稲本さん、今日は、遅れた分も、いい笑顔でなかなか良い仕事していたね~! お疲れ様~! 良かったら、この後、飲みに行かない?」
バツイチの店長が、たまに気が向いた時に有るような感じで、小夜美に話しかけて来た。
いつもなら二つ返事で断るところだったが、家に帰り1人になると、また妄想状態が始まりかねない。
off機能を使おうにも、たった1時間の枠しか無いのだから、トイレやお風呂の時間まで残しておけない可能性を考え、仕方なしに店長の誘いに乗った。
「私、飲めないので、食事だけならいいですよ」
一応付き合い程度には飲めない事は無かったが、美味しい食事の方が断然好ましかった小夜美。
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