第12話 初めての城外
近衛兵に同情を得たと思えたサーミ王女は、次の瞬間、ありったけの勇気を奮った。
「お願いが有ります! 私とこのまま駆け落ちして下さい!」
今まで身内にも家臣にも、何一つとして願い出た事など無かったサーミ王女の、初めての強い願いだった。
「サーミ王女様、どうぞご冷静になって下さい。一介の近衛兵に過ぎない私如きに言うような発言ではありません」
突然の予期せぬ王女の発言に、近衛兵は耳を疑いながら、その願い出から退こうとした。
「私にとっては、身分など、この際、関係ありません!」
「それ以前に......私には、もう少し昇進した時に、プロポーズする予定でいる恋人もおります!」
サーミ王女の境遇には痛く同情するが、自分と恋人との未来の為に、何とか王女の考えを改めさせようと諭す近衛兵。
「あなたに、恋人がいても構いません! 駆け落ちというのは、
「サーミ王女様を城外に脱出させるような事をすると、私も王女様も国家反逆罪で逮捕されてしまいます!」
近衛兵の『国家反逆罪』という重い響きを聴き、一瞬、体の動きが固まったサーミ王女だったが、その決意は揺るがなかった。
「従者達に見付かりさえしなかったら、大丈夫です! 協力をお願いします!」
「サーミ王女様の命令と有らば、私の立場上、従う他は有りません。ですが、たった今しがた会ったばかりの私に対し、この先ずっと、いつ見付かるか怯えながら生きて行く道を強要しようとしているのですか?」
そう言われ初めて、自分がたまたま城外で出会った臣下の運命まで、王女という権限で、狂わせてしまおうとしている、自分の身勝手さに気付いた。
「......そうですね、確かに、私の為に、あなたの人生まで犠牲には出来ません。私は、1人で行く事にします! ただ、私は、今まで、お城から外へ出た事が無くて、この辺りの地理が全く分かりません。なので、どこをどう進めば良いかだけ、アドバイスして頂けますか?」
王女の覚悟を知り、同行する事は出来ないが、協力だけなら出来ると思い、近衛兵は内ポケットに忍ばせてある国内の地図を出した。
「サーミ王女様は、地図の読み方をご存知ですか?」
近衛兵が出した地図を目にしたサーミ王女。
「これが、我が国内の地図なんですね」
初めて見た地図に目を輝かせ、地図に記されている記号などは、サーミも既に学習済みのものばかりで安心した。
「地図を作った時点から、少し経過してますので、変わっている場所も有るかも知れませんが」
「これで、大丈夫です! 記号も分かります! この地図を頂けますか?」
「お役に立てるのでしたら、どうぞお使い下さい」
慣れない手つきで大事そうに地図を折り畳んでしまおうとするサーミ王女。
その小さな手が震えている事に気付いた近衛兵。
サーミ王女がこれから実行しようとしている事に心細さを感じながらも、後には引けない様子を感じ取った近衛兵は、頼りなげなサーミ王女をたった1人でそのまま行かせようとしている自分に対し、苛立ちを感じ始めた。
「やはり慣れない道程を1人で進んで頂くのは心配です。追っ手の心配が無い所までは、私がご一緒しましょう」
「本当ですか? そうして頂けると、私は大変助かりますが......もしも、従者達に見付かった時には、あなたの昇進どころか、犯罪者にしてしまいます......」
親切に自分の為に動いてくれようとする近衛兵の厚意を受ける事に罪意識を感じずにいられないサーミ王女。
「その可能性が大きかったとしても、こんな外の世界を知らない王女様を1人で行かせる事に比べると、気持ち的にはとても楽です」
「ありがとうございます! あなたに導いて頂けたら、心強いです!」
これから成し遂げようとしている事を考えると、自分1人では無理を感じていたサーミ王女。
「ここは、人目に付きやすいので、裏道を通りましょう。被り物は決して脱げないように手で、しっかりと握って下さい。」
近衛兵は被り物を握っていない方のサーミの右手を取り、入り組んだ石畳の街並みを人の気配の少ない方を選びながら進んだ。
異性と手を繋ぐという行為が初めてだったサーミは、戸惑い、とっさに近衛兵の手を振り払った。
「差し出がましい事をお許し下さい。距離を置いて単独に動くよりも、仲の良い風を装った方が、周囲からも見付かりにくいかと思いました」
近衛兵の意図を汲まず、自分の判断で振り払った事を申し訳無く思えたサーミ王女。
城外に出てから目にして来た男女達は、恋人同士が多いようで、もっと身体を寄せ合いながら歩いていた。
「そういう狙いが有ったのですね。気付かずに、すみませんでした。私は、異性と接触した事が無かったので、つい反動で振り払ってしまいました」
「サーミ王女様に違和感が有るのでしたら、手を繋がないままで、はぐれてしまわないよう、出来るだけ短い距離を保った状態で、先に進みましょう」
不快そうな顔も見せずに、近衛兵が提案した。
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