第7話 インプラント
アブダクションされた人の話や、SF小説や映画の中では、そんな事を見聞きしていた事は有ったが、まさか、自分の身を持って体験する事になるとは、夢にも思わなかった小夜美。
「はい、これは、貴方にとって必要な事です。怖れる事などありません。地球人の身体としても、施術は予想より痛くないものですので、ご安心下さい」
「嘘よ~、そんな事! 頭にヘンな物を入れ込むのに、痛くないわけがない! 第一、そんな異物を入れるなんてイヤ!」
暴れて施術を避けさせるよう反抗したいが、手足が拘束されている状態では、思うように動けない。
「これを゜病院で取り出してもらおうと試みて、X線とかスキャンしても映らないので、無駄だという事を覚えておいて下さい」
軽い口調で話を進めるロカに、愕然となった小夜美。
そのロカの手により、道具を使う事無く、小夜美は何も抵抗できないまま、左耳の後ろに小さな金属製の物をアッと言う間に埋め込まれていた。
(インプラントされるなんて、真っ平御免だったけど......ロカの言う通り、全然痛くも痒くも無いし、思ったより全然異物感も無い......ホントに不思議......宇宙人の能力って、想像の域を超えている......)
実際にインプラントされているのかも疑問に感じるほど、今までと感覚上、何ら変わり無い事を認めた小夜美。
「晴れてパサラミト星に戻れるようになった時には、もちろん、このモニターは外しますので、今だけの辛抱と思って下さい。これによって、私は離れていても、貴方の状況はよく観察出来る事になりましたので」
心では必死に抵抗しようとしているが、それが無駄な事は、今の小夜美の不自由な身体の状況が物語っており、既に諦めにも似た心境になってしまっている小夜美。
(私、この人に24時間、何から何まで監視される事になるの? 24時間って、お風呂やトイレもって事なの? そんなの、すごく嫌なんだけど! そういうのって、明らかにプライバシーの侵害じゃない! でも......今更、宇宙人相手にそういう事言っても、通用しないか......)
小夜美の不満顔を見る以前に、まずその気持ちが、ロカにダイレクトに伝わっていた。
「そうですね、これは確かに、プライバシーの侵害に該当しそうです。分かりました。こうしましょうか。貴方が私に対し、観察されたくない行為中は、心で『off』と唱えたら、それ以降の5分間はモニタリングされない状態になります。もっと長くしたい場合は、その5分後が経過しないうちに、もう一度『off』と唱えると良いです。そうしましたら、約10分間は観察を停止します」
そのロカの言葉で、やっと小夜美が、晴れた表情になった。
(なんだ、そういう設定に出来るならばよろしい! こうなったら、よ~し、ずっと『off』『off』唱え続けてやるんだから!!)
ロカに監視される時間を極力減らそうと考えた。
「ただし、offに出来る時間は、限られています! offに出来る時間は、1日最長で1時間までと制限されています。ですので、残り時間の事をしっかりと考えてから、唱えるようにして下さい」
喜んだのも束の間、ロカの補足説明によって、急に顔が曇った小夜美。
(1日たった1時間って、そんなの少な過ぎる~!! お風呂だけでも30分は必要だし、トイレだって、着替えだって加えたら......たった1時間で間に合うかどうかって感じじゃない?......でも、唯一の救いと思えるのは、私には彼氏とかという存在がいない事。お一人様という事について、普段は少し引け目を感じていたけど、そういう営みの時間を考えずに済むという面では、本当に不幸中の幸いと思えるわ~! それだったら、きっとoff時間が足りなくなっていたものね! あ~、良かった、良かった~! 私、そうなる事を見越して、お一人様だったに違いない! 先見の明が有るんだ~、私って!)
いろいろ考えた挙句、楽観的に捉えている様子の小夜美を見て、ふと微笑んだ表情になったロカ。
「そういうところ、変わってないですね」
「何だか、不愉快! そうやって、人の心を勝手に覗き見して、私の知らない、異星人の時代の私と比べるのって、止めてもらえない?......大体、何よ、自分だけちゃっかり物知り顔で澄ましていて!」
ずっと小馬鹿にされ続けている気がして、怒りをぶつけた小夜美。
「そう感じられていましたなら、失礼しました! 以後、気を付ける事にします」
まだ少し笑っている様子のロカ。
(あっ、でも、この宇宙人、笑うんだ......ロカの笑っている顔、初めて見た......笑っていないと、ロボットのように無機質な感じなのに、笑った途端、何だか親しみを感じてしまうような表情に見えて来る......ううん、しっかりしてよ、私! ロカは、全て計算済みに違いないから! あの笑顔に騙されないようにしないと!)
ロカの笑顔によって、気持ちが緩んで来そうになるのを抑えた小夜美。
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