第5話 まさかの自分も......

 侮蔑されたと思い、小夜美が反論すると、ロカは意外にも、それ以上は気に障るような発言は無かった。


「貴方が、お怒りになるのも、もっともですね。私も、貴方の立場なら、そういう発言を聞かされて、良い気分ではいられません」

 

 会話を交わしているうちに、ロカが、グレイ型宇宙人の容姿にも関わらず、先刻のグレイ型宇宙人とは違い、丁寧かつ流暢な日本語を使いこなし、その容姿のギャップに違和感を感じずにいられなかった。


「さっきまでとは違って、日本語がとても聞きやすいのだけど。あなたの元々の姿は、そのグレイ型宇宙人なの? それとも、さっきの日本人型宇宙人?」


 小夜美自身もそのパサラミト星人だというのなら、願わくば、後者でありたいと思い確認した。


「あなたがまだ存在していた当時のパサラミト星人は、地球人、そうですね、どちらかというと、西洋人に近い容姿をしていました」


「私がいた当時は地球人型の容姿だったのに、今は、グレイ型に進化したってことなの?」


 小夜美には、という意味が解せずにいた。


(......その外見上の変化を進化どころか、むしろ退化とか劣化と思えて来るくらいだけど......それは単なる私の好みの問題であって、宇宙的には、そういうグレイ系への進化が当然って事はないよね......?)


 地球人相手には、そのままだと言葉足らずだった事を自覚したロカ。


「地球にとってはまだずっと先の予定ですが、パサラミト星は既にアセンションしております。それに伴い、アセンション出来たパサラミト星人は、シェイプシフターとなりましたので......」


 ロカは分かりやすく説明したつもりが、小夜美は余計に混乱していた。


「アセンション? シェイプシフター......? それは何の事なの?」


 聞き慣れない言葉に、顔をしかめた小夜美。


「アセンションは、次元上昇の事です。パサラミト星は、以前は地球人と同様に3次元の惑星でした。ですが、アセンションを果たした今は、次元が変わり、5次元の惑星となってます」


「惑星がレベルアップした? そんな事って、現実的に有るの?」


 ロカが、理解出来るはずの言葉を選んで説明したが、まだその内容に付いていけずにいる小夜美。


「地球もアセンション済みでしたら、この言葉の意味くらい、貴方にも、すぐ理解出来るはずですが、今はまだ説明しても、かなり難しい状況かも知れないですね」


 ロカの言い方で、また見下されたように感じられたが、小夜美には、まだ知りたい事が残っていて、何とか我慢した。


「それじゃあ、もう1つの、シェイプ何とかというのは......?」


「シェイプシフターは、どのような姿にも変容可能という事です。私に例えますと、先ほどの日本人型にも、グレイ型にも、地球上にいる全ての動物に姿を変える事が出来るのです」


 シェイプシフターに関しては、すんなりと理解出来た小夜美。


「それって、すごく便利! それなら、私も、その星に戻ると、そのシェイプ......なんだっけ?」


「シェイプシフターです」


「そう、私も、そのシェイプシフターになれるという事なの?」


 グレイ型になるのは気が進まないが、シェイプシフターなら大歓迎と思えている小夜美。

 

「残念ながら、今のあなたのままでは、パサラミト星へは戻れません」


「......何よ、それ! 無理やり、アブダクションして拘束して、私は地球人ではなくて、そのバルサミコ酢だかサラミだか、よく分からない星の人間だって言っておきながら......このままでは戻れないって、どういう事?」


 小夜美は、卑下されているような話の内容を聞かされ続けているうちに、感情を抑え切れなくなった。


「まずは、貴方がこの星に流された理由を思い出す事が先決ですね。ただし、今日はもうこれ以上は、貴方にとって許容量オーバーになると思うので、お休み下さい」


「またそれなの? どうせ、私は、地球でも、その星でも出来損ないって事なのね! ......もう、何なの? ......何だかわけわからなさ過ぎて疲れた!」


 手術台のような設備は、歯科の椅子のように、背中の部分が60度くらいにリクライニングになり、やっと両手を解放された。


「少し熱いかも知れないですが、どうぞ」


 ロカは、ティーカップに透明感の有る青色の液体を注いで、小夜美に差し出した。


「これは何? キレイだけど、自然界に無いくらい、すごく毒々しい青い色をしている......私が、こんな出来損ないだからって、まさか毒を盛るつもり?」


「人聞き悪い事を言わないで下さい。これは、パサラミト星では人気の有る薬草茶です。鎮静効果と安眠効果が有ります」


「ふ~ん、本当なんだか~?」


 ロカからティーカップを受け取り、その匂いを嗅ぐと、少しスーッとするメンソール系の香りがして来た。

 口を付けて、恐る恐る飲んでみると、ミントティーとよく似た味わいにホッとしながら飲み続ける小夜美。

 緊張が解れた勢いのまま、飲み終わるか終わらないうちに、その薬効通り、眠りの世界へと落ちて行った。

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