第4話 パサラミト星人

 自身の予想が外れてくれる事を祈りながら、宇宙人の返答を待つ小夜美。


「ズバリ、ソウデス! 貴方モマタ、我々ト同ジ、パサラミト星人ナノデス!」


 抑揚は平坦なままだが、ボリュームがアップした声で答えた宇宙人。


 宇宙人と遭遇する状況は憧れていたものの、自分も、これらのグレイ型宇宙人と同じ容姿を持つ宇宙人だったというのは、信じたくはない小夜美。


(そんな~! 今は地球人の姿をしているけど、実は私も、元々は、そんな姿をしていたって事なの......? それは、あまりにも、抵抗がある!! ......私が想像していた宇宙人は、地球人と似たような感じの容姿だったから、ショック大き過ぎる~!!)


「本当に、忘れてしまったようですね......」


 悲観に暮れた様子で、頭をブンブン振っていた小夜美の前に、また1人、今度は日本人と言われても違和感のないようなオリエンタルな容姿と、日本語の話し方をした男性が現れ、小夜美は目を見張った。


(この人、グレイ型じゃない宇宙人? 目も耳も鼻も口も、ちゃんと普通に付いていて、その辺歩いている人達と変わりない感じ。しかも、時間差翻訳の片言の日本語のようなしゃべり方じゃなく、母国語のように日本語を流暢にはなしている! もしかして、どこからか現れた日本人? 私、特殊な映画のセットの中にでも入り込んだのかな......?)


 小夜美は、自分の体が乗せられている台の横にいる2体のグレイ型宇宙人と、日本人男性そのもののように見える不思議な男性を見比べた。

 その納得いかない状況に、自分が『ドッキリ』系の番組のようなセットの中にいるのだと無理やり思い込もうとしていた。


「忘れているって......?」


 男性の容姿に気を取られ、話した言葉の意味に疑問を持つのが遅くなった小夜美。

 その親しみある日本人の風貌をした男性の言葉に対して、心の中ではなく、ついそのまま疑問を声に出していた。


「しばらく、様子を見ているうちに、貴方がここにいる経緯を思い出してくれたらと期待してましたが、すっかり地球人として生きる事に定着してしまったようですね」


 残念そうな表情を浮かべながら言った、日本人風男性。


(ここにいる経緯って......? 一体、何の事?)


 男性の言葉の意味が、さっぱり分からず混乱する小夜美。


「何なの~? もうこの辺で止めてくれないと、ホントに頭パニックになる~! このアブダクションのような設定は、テレビのドッキリ系の番組で、私をただビックリさせる為の演出で、あなたはホントは、日本人なのでしょう?」


 男性の話し方が、小夜美の思い込みに反し、日本人としてではなく、宇宙人として話しているように思えてならないが、取り敢えず、この状況を早く止めさせたかった。


「演出ですか? ......よく分かりましたね、お見事です! 確かに、彼らは演出だから、もう必要ないですね」


 そう言って、瞬時に2体のグレイ型宇宙人を消して見せた日本人風男性。


「えっ、もしかして、2体とも殺したの? .....そんな事をするなんて、人の命を何だと思っているの!」


 その瞬間技で、ドッキリ系の番組の収録などではなく、やはり宇宙人なのだと確認させられた小夜美。

 仮に本物の宇宙人なのだとしても、自分の仲間だったはずのグレイ型宇宙人を瞬殺してしまったのは、どうしても解せなかった。


「彼らは、演出用にわざと用意しました、僕の分身です。元通り、彼らを僕の身体に戻しただけで、決して殺したわけではないので、安心して下さい」


 残虐さを感じさせないような丁重な物言いの日本人風男性。


「あの2体グレイ型の宇宙人が分身という事は......あなたは今、日本人風の容姿にしているけど、それもまた演出で、本体は、さっきのグレイみたいな外見という事なの?」


 地球人より高度な文明を持つ本物の宇宙人と分かったものの、この日本人風の姿もまた演出のように思えてきた小夜美。

 容貌から日本人と話しているつもりで、つい気を許して。発言してしまった事が愚かしく思えてきた。


「よくお分かりで。そうですね、確かに、今のこの姿も演出です。親近感が湧いてくれる事を期待して、貴方達日本人に近い容姿で試してみました。もしも、ご要望と有らば、この姿にもなれます」


 目を疑うような早業で、先刻のようなグレイ型宇宙人に変わり、驚いて顔が引き攣った小夜美。


「あ、あなたは一体、何者なの?」


「さっきも申し上げた通り、パサラミト星人です。名前は、ロカイーステと申しますが、それでは長いのでロカとお呼び下さい」


 (ダメだ~! ......頭の中でバルサミコ酢と、名前のロイズと六花亭がこだましてしまって、こらえきれない~)


「貴方は、言葉の響きから、すぐ食べ物系に結び付けるのですね」


「な、なによ! 仕方ないじゃない、今までずっと食べる事にしか生き甲斐見付けられない生活を続けて来たんだから!」


 勝手に思考を読み取られた上、食い意地が張っていると見下されているように感じられ、憤りながら言い返した小夜美。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る