第3話 未知との遭遇

 少し前まで、押し潰されんばかりの強圧と目も開けられない豪風を持ち前の想像力で耐えていた小夜美。

 解放後に待っていたのは、想像していたものとは、かなりかけ離れた状況だった。


 小夜美が学生時代から長年待ち望んでいた、宇宙人との接触という点では、遠からずなのかも知れないが、どうにも目の前の状況把握がし難い。


 何度も瞼の開閉を繰り返し、次に目を開いた時点で、状況が変わっている事を何度も期待し続けていた。

 それほどまでに、小夜美の眼に映った光景をそのまま受け入れる事は難しかった。


(どうしたら、こんな事になるのだろう......? 何か行き違いが有ったに違いない! だって、私は、自分の仲間である宇宙人に引き上げられる予定だったのに......)


 小夜美は手術台のようなものに横たわり、その手足を拘束されていた。

 手術台の近くには、いかにもレーザーが出そうな器具を持ったグレイ型宇宙人2体が立っていた。


(待ってよ~!! これじゃあ、まるでアブダクションされているみたいじゃない!!)


 小夜美は、無駄だと分かりつつ、手足を動かそうと試みたが、やはり、ビクともしなかった。


(圧倒的に不利なこの状態は何なの? 大体、このいかにも宇宙人という見かけをしてる奴らは、一体何者なのよ!)


 その似通っていて、全く区別が出来なさそうな2体を交互に睨み付ける小夜美。


「我々ハ、宇宙人デアル」


 抑揚の無い機械的な声を発した宇宙人。


(その決まり文句、本当に言うものだったとは......! そんな場合じゃないと分かっているんだけど、無性に笑えてくる~!! それよりも気にするべきは、当然と言えば当然かも知れないけど......私の思考が読まれている事!!)


 相手が地球まで遥々やって来た宇宙人ならば、高度な科学文明が有り、テレパシーを使えて相手の思考も手に取るように分かるはずとは分かっていても、一方的に心を読み取られるのは、不本意な小夜美。


「ズット、貴方ノ思考ト、行動ヲ観察シテマシタ」


 もう一体の宇宙人も、同じような機械音的な発声をしてきた。


(まあ、そうでしょうね、この状況は......はぁ、こんなことなら地道に働いて地球人として生き続けていた方が、どんなにか良かった......)


 宇宙人に呼びかけるという馬鹿な行動を取った自分に後悔した小夜美。


(あのレーザーのような器具を使ったら、難無くスパッと身体切り刻めそう......まさか、解体して防腐剤のような液体漬けの瓶に入れられて標本にされてしまう? あの宇宙人達の星に持ち帰られて、学校の授業に使われてしまうとか......? ラボとかで、臓器バラバラにされて、研究材料にされてしまうとか......? ちょっと待ってよ~!! 私は善人ではないにしても、そんな仕打ちをされるほどの悪業を積み重ねたわけじゃないんだけど!)


 都合の良い妄想が得意な小夜美でも、今回ばかりは、なかなかポジティブな憶測は思い浮かばず、重々しい絶望感が心を占めて来た。


「我々ハ、地球カラ300万光年離レタ、高度ナ文明星デアル『パサラミト星』カラ来タ宇宙人デアル。貴方二対し、ソノ様ナ、野蛮ナ事ナドハ、決シテ、スル事ナドナイ。安心セヨ」

 

 小夜美の心に思っている事に、返答する時の時差で、その機械的な抑揚の無い日本語に翻訳するのには、時間が少し必要な事が分かった。


(「安心せよ」なんて言われても、どうしたら安心なんか出来る? この状況は、安心にはほど遠い......第一、パサラミトなんて、聞いた事も無いような星名だし......本当に存在しているの? 何だか、パラサミトって、バルサミコ酢とサラミに思えて来る~! あ~、お腹空いたな~)


 パラサミトで、バルサミコ酢とサラミを連想し、顔が緩ませる小夜美。


(それで、私をどうするつもりなのだろう......? 残念ながら、私、自分が宇宙人と思って生きて来たし、普通の地球人とは、かなり言動がズレているから、私なんかを地球人の代表としてサンプルにして持ち帰るのは、全く意味無いと思う! もっと平均的な思考をしているような日本人を選び直してよ~! 翻訳の時差が有るのに、どうだ、この怒涛の反論攻撃は!)


 これだけ思うところを立て続けに頭に思い浮かべたからには、宇宙人達は翻訳に慌てふためき、しどろもどろになるに違いないと読んだ小夜美。


 ところが、宇宙人達は至って冷静沈着な対処ぶり。


「心配ナサラズニ。我々ハ、貴方ヲ、サンプルトシテ、パサラミト星ヘ連レテ行クツモリハ、アリマセン。貴方ガ、自身ヲ、宇宙人ダト思ウノモ、アナガチ間違イデハ、アリマセン。ナゼナラ、貴方ハ、トウニ忘レテイマスガ、実際、貴方ハ、宇宙人ダカラデス」


 宇宙人は言葉を慎重に選ぶかのように、ゆっくりと要点を漏らす事無く話した。


(えっ、今、私が、『宇宙人』だからって言っていた? まさか、私も、実は、そのバルサミコ酢とサラミのような名前の星が出身の宇宙人だったって事なの......?)

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