第33話 強敵!最強冒険者って話
ゆっくりと時間が流れる加速世界。ミアさんの号令でみんなが集まろうとする中、ゾンビシーフが早くも動き出す。
俺はゾンビシーフに近接して頭、胴、腕と斬り掛かる。
な、なんだ? 斬ったはずなのに斬れていない。
俺が戸惑っている間に、ゾンビシーフが手に持つダガーを横薙ぎして俺に斬り掛かる。
ゆっくりと時間が流れる加速世界ではその攻撃が当たる心配は無い。俺は身を屈めて躱しながらゾンビシーフの足をショートソードですくい転倒を狙う。
【未来視】!
俺は未来視でゾンビシーフの僅かな先の未来を見る。ゾンビシーフはつまずきながらも、床に付いた左手で体を跳ね上げ宙返りで着地する。場所的にはみんなから離れるから良しとしよう。
ゾンビシーフから目を離し振り向くと、ゾンビ騎士が大きなタワーシールドを構えてミアさん達に向かって走り出している。しかも速い! 加速世界の中でさえ速く駆けるゾンビ騎士。
襲歩、いや襲走か!?
騎士の多くは襲走を使うとローランドは言っていた。【襲歩】のギフトの派生スキルが【襲走】だ。襲歩と襲走の違いは余動の有る無しだ。
【襲歩】は狙った位置で止まれるが、【襲走】は余動がある為に止まる事が出来ない。
余動を生かした【襲走】によるシールドアタック。狙われているのは……ミアさんか!
俺はゆっくり流れる加速世界でゾンビ騎士に斬り掛かる。フルプレートアーマーとはいえ、太腿裏には装甲は無い。
太腿裏に数回斬り掛かるもゾンビ騎士の突進は止まらない。っていうか太腿裏には傷一つ付いていない。さっきもゾンビシーフを斬り付けたが傷一つ付かなかった。
「止まれえええええッ!!」
ゾンビ騎士の腰にしがみ付いたり、タックルしたりしてみたが、ゴールドタグプレートを持つ最強冒険者のゾンビ騎士のフィジカルは半端なく強くて、その突進を止められそうにない。
ミアさんとゾンビ騎士の距離が近い。俺はゾンビ騎士の突進を止める事を諦め、ミアさんに駆け寄り、抱きかかえて避難させた。
「アベル?」
加速視を解いた瞬間、ゾンビ騎士は壁に激突し、壁が崩れて埃が立つ。
みんなは状況が分からずに埃が立ち込める壁側を一瞬見るが、その間にもゾンビ戦士とゾンビシーフが動き出している。
更に扉の奥からは魔法の炎の塊が幾つも飛び、黒い霧状のモノが流れ込んできていた。
「戦士は俺とローランドで何とかする!」
合流を諦めてリックとローランドがゾンビ戦士に向かって走り出す。
「シーフは私達が倒します!」
ソフィアさんとルフィアさんも素早い動きのゾンビシーフと剣を交える。
「カウンターマジックだ、リリアンさん!」
「分かってますわ~!」
マルセルとリリアンさんは飛んでくる火の塊を魔法で迎撃して相殺させていた。
「あの黒い霧は死霊魔法の毒霧よ! みんな吸わない様に気を付けて!」
コレットさんがみんなに注意喚起した後に光魔法を唱え始めた。
「炎槍獄竜激!」
レベッカさんが埃の中でゆらりと動くゾンビ騎士めがけて、炎燃える竜が如く、鎖で繋がれた多節槍の槍が一直線に伸びていく。
俺は抱きかかえていたミアさんを床に降ろすと、疑問に感じている事を聞いてみる。
「ミアさん、アイツらには打撃が効かないのか? 俺が斬っても全く傷が付かないんだが?」
「多分、
ミアさんの話しによると、不滅の加護とは裂傷、切断、骨折等を防ぐ魔法との事だった。ダメージによる傷は負わないが、そのダメージ換算によるスタミナが削られる。つまり俺の攻撃も無駄じゃなかったって事にはなるが、厄介この上ないヤバい魔法だ。
「ミアさんッ!」
俺はミアさんの手を掴み、大きく横に跳躍した。ミアさんが立っていた場所を、またしてもゾンビ騎士が襲走によるシールドチャージで駆け抜ける。
更にゾンビ騎士は走る余動の力で壁を蹴り、激突を回避すると同時に俺とミアさんの方へ空中からの上段斬りで斬り掛かってくる。
未来視で予測していた俺はミアさんの手を引っ張りそれも回避した。
物凄い轟音が響き、空中から振り下ろされたゾンビ騎士の剣が俺達がいた場所の石畳みを粉砕する。
未来視で次のゾンビ騎士の攻撃を見る。襲歩で近接してからの斬撃。
「レベッカさん! 俺達がいる所に槍を突いて!」
ゾンビ騎士が一瞬で近接するが、俺はミアさんを引っ張りながら後方へバックステップ。ゾンビ騎士の剣が空を切り、レベッカさんの槍がゾンビ戦士の頭部を捉えた。
しかし異様なまでのフィジカルの強さと不滅の加護によってレベッカさんの槍は弾かれる。
未来視で次の攻撃を確認。
「レベッカさん防御! ミアさんは斬り込んで!」
「「はい!」」
ゾンビ騎士は俺が見た未来通りにレベッカさんへ上段から鋭い剣筋で斬り掛かるが、防御体勢をとっていたレベッカさんが長槍で受け流す。
ゾンビ騎士の体が僅かに体勢を崩した所に、ミアさんの剣がゾンビ騎士の頭部を斬り付ける。ミアさんが持つのは魔法付与により威力と切れ味が向上している魔法の剣だ。硬いヘルム越しからでもゾンビ騎士のスタミナを削り取る。
「ミアさん! バックステップ!」
ゾンビ騎士がタワーシールドを振り回しミアさんを狙うが、ミアさんはバックステップでそれを躱す。
加速視と未来視で他のみんなの戦況も確認する。なるほどな! 俺は二階層に繋がる階段へと走り出した。
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