第32話 魔の三階層の真実ってお話
「「「ネズミが消えた!?」」」
「「「え?」」」
俺は【透視】で、双子の美少女姉妹のソフィアさんとルフィアさんは【超聴】で三階層に放したネズミの動きを確認していた。
そして開いていた扉が消えて、三階層の入り口の扉が新たに現れた瞬間に七匹のネズミが姿を消した。
「いる」
「もっと奥の方」
広範囲で音を聞き分けている二人の方が、位置を捉える事に関しては、透視よりも優れている。
奥の方? 俺は透視の範囲を広げてみると、確かに七匹のネズミが見えた。しかしさっきいた場所からは結構離れている。
「何が起きたの?」
「ネズミはいた……。でも何で行き成り?」
俺はみんなに、俺が透視で見ていた場所から離れた位置に、ネズミが瞬間的に移動した事を告げた。
「転移のトラップかな~」
「だったら土の中に飛ばさないかな」
「じゃあ~転移通路ぉ?」
「アベル君の話だと、移った先はただの通路みたいだよね。何か意味が有るのかな?」
魔法組のマルセルとリリアンさんは俺よりもダンジョンに詳しい。転移トラップや転移通路等の、俺が知らない事を話している。
そしてルフィアさんとソフィアさんが俺に出来る事を教えてくれる。
「アベル、情報共有は重要」
「アベル君、私達はみんなよりも遠くの事を知る事が出来るけど、理解出来る事は自分の知っている事だけ。だから正確にその事を人に知らせる事で、色々な事を考える事が出来るんだよ」
「なるほどな。じゃあ俺はどうしたらいい?」
「そうだね。アベル君、他に変わった事はある?」
マルセルに言われてネズミ以外のモノを透視で見てみる。
「さっきとモンスター達の位置も違うな」
俺が確認していたオークやゴブリン、更にはゾンビとなって彷徨う冒険者達。さっきとは全然違う場所にいる。
「……ど~いう事かなぁ?」
「……扉が閉まった時に何かが起きたのかな?」
「ん~、扉か~」
リリアンさんが前に出て扉を調べ始める。
「リリアンッ! 前出ちゃダメえええ!」
三階層のネズミを透視で見ていた俺は、レベッカさんの声に釣られて、迂闊にもリリアンさんを見てしまった……。巨メロン! 凄ッ!!
「アベルううう! なに鼻血を出してるのかな~!?」
何故かご立腹のミアさん!?
「事故だ! 事故!」
「羨まし過ぎるぞ眼福男!」
「いや、だから事故だって!」
リックが俺にヘッドロックをして頭をグリグリ攻撃する。俺は藻掻きならリックの腕を外そうとするが、流石はリックだ! がっちりホールドされた両手は岩のように硬かった。
「ネズミが消えた」
「左側奥に移動!」
「「「え?」」」
◆
あれから1時間が経った。
「また入れ替わったな」
帰らずの迷宮の魔の三階層。一度入ったら二度と戻れないと言われ、発見から二百年もの間、未踏破ダンジョンとなっていた。その理由は約十分毎に入れ替わる区画にあった。
三階層は縦百m、横五十m程度の長方形の階層になっていた。この階層は幾つかの区画に分かれている。それらが十分毎にランダムに入れ替わるのだ。
その結果、一度入ってしまえばランダムに場所が変わる為に、入口も出口も現在地さえも分からぬままに三階層を彷徨う事になる。中にはモンスターもいるし、食料や体力、精神力には限界がある。
こうして数多くの冒険者達が倒れ、今はゾンビとなって三階層内を徘徊している……とミアさん、マルセル、リリアンさんは語った。
田舎者の俺は「ほうほう」と頷き、脳筋の三人は「ふむふむ」と頷いた。
「レベッカは~脳筋じゃあ無くて~、胸筋だよね~」
「胸筋はあなたでしょ!」
「これは筋肉じゃあ無くて〜、脂肪だよ~。レベッカに脂肪は無…ガハアあああ!」
リリアンさんはレベッカさんのジェットアッパーで天井高く舞い上がって行きました……。
◆
「じゃあ扉を開けるぞ」
リックとローランドが三階層の扉を開ける。そしてマルセルが部屋の中に番号を書いた紙を投げ入れる。こんな事をかれこれ数回繰り返している。
そして約十分で扉が閉まり区画の配置が変わり、俺は透視を使って番号を追跡する。
「五番は中心から右側に飛んで行ったな。マルセル準備はいいか?」
「うん、いいよ」
俺は紫色の魔眼封じの眼鏡を掛けて、マルセルに一番から五番までの現在の場所を教える。マルセルが手に持つ紙には、長四角が描かれていて、枠の中に俺が番号を書き加える。
空いてる時間には各番号周辺のマッピングも進めるが、これは区画の向きが飛ぶ毎に変わるので難航している。
「よし、次開けるぞ」
それは一瞬の油断だった。俺はマルセル達とマッピングをしていた為に床に座り込み眼鏡も掛けていた。
リックが開けた片側の扉から飛び出して来たゾンビファイター。
反応が速いローランドが【襲歩】のギフトでゾンビファイターの前に立ち、ゾンビファイターのツーハンドソードと初擊を打ち合うが、一合でローランドが吹き飛ばされる。
ゾンビファイターの頭の上を飛び越えてエントランスに躍り出た軽装のゾンビ戦士。
いや、ゾンビシーフか?
こちらもすかさずソフィアさんとルフィアさんが相対する。お互いが素早い剣で打ち合い始めた。
そしてゆっくりした足取りで現れた重装備のゾンビ騎士。
フルプレートアーマーにタワーシールド、右手には光り輝く銀色の大剣。そして死してなお纏う強者のオーラ。
更にゾンビナイトの後方から炎の魂が飛来してエントランスに着弾する。業火と爆風で俺達は吹き飛ばされた。
エントランスの壁に散り散りに飛ばされた俺達。みんな、何とか立ち上がる。あの爆風の中でも吹き飛ばされずに立ち続けるゾンビファイター達……。
「ヤバいぞ! コイツらゴールドだ!」
口に出したリック。それは俺達も気が付いていた。
三人のゾンビ達の首元に最強冒険者の証、ゴールドタグプレートのネックレスがキラりと輝く。更に三階層の部屋にはまだ二体の人影が見える。
「態勢を立て直すわ! みんな一回集まって!」
「「「オウ!!」」」
ミアさんの声にみんなが呼応する。しかし相手は待ってはくれない。だから俺に出来る事は、
「加速視!」
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