第29話 俺も強い武器が欲しいってお話

 決闘は終わった。結果的には俺の勝ちだが……。


 あの後、ウィリアムは病院に救急搬送された。命は助かるとの事だったが、頭に刺さった触手による脳への後遺症や心の傷は今後様子を見ないと分からないらしい。何れにしても学院は辞める事になるだろうとの事だ。


 黒い触手に腹を割かれた先生も命の心配は無いとの事だった。よかった。


 あの決闘の後、観客席に人がいなくなってから、透視を使って眼鏡を探し出した。壊れていなくてホント良かった! 


 競技場から教室に戻ると、俺の周りにはクラス全員が集まって来ていた。リックやローランドが俺の頭を揉みクチャにして喜んでいる。


「アベルは学院最強なんじゃないか?」

「ああ、俺もアベルには勝てる気がしないな」


 リックやローランドがそう言うとみんなが頷いた。しかし、実はそうでも無いんだわな。


「あんたらさ、見てて気が付かなかったの?」


 おっ! レベッカさんは気が付いたか。


「確かにあたしもアベルには勝てる気がしないけど、負ける気もしない。アベルには決定力が無いんだよ。殺し合いならアベルは強いかもしれないが、フォルティオンベルの様な競技バトルだとアベルは強すぎる。有効打が殺生って訳にはいかないからね」


 またフォルティオンベルか。なんだっけそれ?


「そういや、そうだな」

「確かに攻撃力なら俺達の方が上か」


 リックやローランド達も納得した。俺に足りない物は攻撃力。【急所】のスキルは相手を殺すためのスキルだ。ウィリアム相手に【急所】は使えなかった。


 そして新たに覚えた【正鵠視】。これなら狙いところを選べる。


 差し当たって強い武器が欲しいところだ。ウィリアムが使っていた剣は強く硬かった。魔法の力で強化されていたんだろうな。


「でもよ~、其れでもアベルはあの吸血装甲を相手に無血勝利なんだぜ」

「無血じゃない。鼻血出してた」


 ルフィアさん……其れは言わないで! みんなが爆笑しているじゃないの!


「なあリック。強い武器ってどうやったら手に入るんだ?」

「強い武器か。まあ武器屋でも買えるが、かなり高いぞ」

「……お金かあ」


 婆さんから貰ったお金は多少あるが、武器を買う程のお金は無い。


「みんなは?」


「俺は家から持ってきたな」「俺もだ」「私も」「僕も」


「…………」


 ああ、皆さん、貴族や騎士の家だったよね……。


「金を稼ぐならダンジョンだな!」


 ダンジョンか! リックの言葉に胸が弾んだ。冒険者の聖地! 子供の頃に憧れていた場所だ!


◆ 


閑話


(以下R15です。本編に影響しませんのでとばしても大丈夫です)


《夜 女子寮 女子会》


「アベル君凄かったね」「めちゃめちゃ速かったよね」「私は全く見えませんでしたわ」「戦ってた時のアベル君って……」


「「「カッコ良かったよねえええ!」」」


 うわ~。アベルが女子好感度上がってる~。でも仕方ないよね。今日のアベルはホントカッコ良かった。あんな姿を見せられたらそうなるよね。


「でもアベル君って……」「そうなのよねアベル君って……」「はあ~」


 みんながアベルを推せない理由……。


「「「アベル君って村人なんだよね~」」」


「父様からは貴族のいい男を連れて帰って来いって言われてるし……」「家もそうだよ~」「あたしの家は商家だから貴族か騎士がいいって……」


 アベルは名も無い小さな田舎の村出身……。多くの女子は貴族や名家のお嬢様だから村人とのお付き合いは認めらそうに無い……。それは私も……きっとお父様に反対される……。


「では私がアベルを貰います」


 えっ!?


 相変わらずの無表情でぼそっと、とんでもない事を言ったのはルフィアだった!? 

 ル、ルフィア? な、何それ?


「「「えええええええええええ!?」」」


「ちょ! ちょっとルフィア! 何言っちゃってるのよおっ!!」


 驚いたのは女の子達も一緒だ。いつもは以心伝心している双子のソフィアさえも驚いている。


「当家は出身には拘らない。役立たずの貴族の血に父上も親方様も興味は無い」


 ああ~! 確かにそうだよ~! ルフィアならお父様も納得しちゃう!


「欲しいのは力。類い希な能力。そして子種」


 こ、こ、子種?


「私ならアベルの白い「「「きゃあああ!」」」もゴックン出来る」


 な、何? みんなの声がうるさくてよく聞こえ無かったよ? な、何をゴックンするの?


「ちょっ、ちょっとルフィアあああ!」

「何、ソフィア?」


「だったら私でもいいんだよね!」

「ソフィアが? ソフィアはゴックン出来るの?」


「で、出来るよ!……多分」

「私は毎晩毎晩、白いミルクにハチミツとアロエを混ぜて色合い、とろみ、ねっとり感を調合して特訓しているのよ。貴女に私を超えるゴックンが出来るのかしら?」


 女の子達全員が赤い顔でモジモジしている? 何? 何なのゴックンって?


「出来るよ! わ、私、頑張る! 私はゴックンでルフィアを超えてみせるわ!!」

「もし貴女が私のゴックンを超えられたら考えてあげる」


 だから何なのよゴックンってえええ!?



《おまけ》


「なあミアさん」

「何?」

「最近、夜に何飲んでるんだ?」


 毎晩ミアさんは俺に隠れて何かを飲んでいる。今夜も俺のベッドの鉄扉にガチャリと鍵を掛けた後に、ガサゴソトクトク~とコップに何かを注いでいる音が聞こえた。


「べ、別に何でも無いわよ!」


 まあ、いいか。





「う~、アロエがネバネバする~」


 ゴックン

 

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