第25話 決闘が始まったってお話
放課後の競技場はほぼ満席だった。学院始まって初の決闘という事や、俺が魔眼を使わないって事で、女子生徒も安心して見る事が出来るからだとか? 何だか切ないな……俺。
競技場には幾つもの白い壁で出来た遮蔽物が設置されていた。広い所で三十m、狭い場所ではかなり密集している。昨日迄は無かったからこの決闘の為に設置されたようだが何でだ?
そしてウィリアムだ! 俺とは二十m近く離れて対峙している。満面の笑みがムカつく! やられた感が満載だ!
俺は学院の学生服に片手剣。対するウィリアムは顔以外はほぼフルプレートの鎧に右手には剣、左手には連射式クロスボウを握っている。顔が無防備なのは頭への強打は禁止行為だからだろう。
「おや? 君は随分と軽装だね~」
「お蔭様でね!」
ニヤニヤ笑うウィリアム。
「僕は言ったよね? 禁止事項はギフトの使用のみってえええ、ヒヒヒ」
ニヘラな勝ち誇った笑み! ああそうでしたね! 武器も防具も魔法も制限無かったよね!
観客席もガヤガヤとしているが、ウィリアムが違反行為をした訳では無い。多分、観客席のリックは『汚ったね~!』とか言っていると思うけどね。
「二人共いいか?」
立ち会いの先生が俺とウィリアムの中間位置で始めの合図を告げた。
ウィリアムは左手のクロスボウを即座に撃ってきた。俺は右手の遮蔽物へと身を躱す。
俺の利点は軽装な事だ。遮蔽物を使いながらウィリアムへと近付く。
ウィリアムは連射式クロスボウを三発撃った所でクロスボウを捨て、剣を両手で握りしめる。
えっ!
重装備のウィリアムが軽快に走ってくる。って言うか速いィィィ!?
アレだけの重装備にして有り得ないスピード!
「アハハハ! 我が家に隠されていた秘蔵の鎧だ! 素晴らしいだろう田舎者ッ!」
マジックアーマーか!?
近接するウィリアム! 俺の剣とウィリアムの剣が金属音を立て火花を散らし打ち合いを重ねる。
流石は貴族だ! 流れる様な剣裁きだ! とはいえパターンが少ないかな? 数合重ねる中でウィリアムの癖を見極める。
リックやローランドの様な実践的な剣では無く、型にはめられた剣裁きだ。これなら、と思っていたら俺の剣が悲鳴を上げ始めていた。
受け流していたつもりだが、どうやらウィリアムの剣はただの剣ではなさそうだ。鎧だけでは無く、剣もマジックウェポンかよ!
俺は一旦距離を取り、剣を正眼に構える。刃こぼれが酷いな。
「アハハハ! 逃げたな田舎者! 謝るなら退学だけは許してあげるぞ!」
「いや、それは遠慮しとくよ」
ミアさん達は選挙戦をめいいっぱい戦い、当選したんだ。ここで理不尽に俺の枠をウィリアムに譲るわけにはいかないよな。
「後で後悔するなよ!」
ウィリアムが上段から斬り掛かってくる。脇の下には当然装甲は無い。ウィリアムの剣が振り降りる前に、ガラ空きになっている脇の下に突きを打ち込む。
「ゥワギャアアアアアアーッ!」
カウンターで入った俺の突きだが、鎧下のアンダーシャツも防刃性が高く貫通はしなかった。しかし悲鳴と共にウィリアムは後方へ吹き飛び、転がりながら遮蔽物に激突した。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいい~!」
右脇の下を左手で押さえ悶絶している。見ていて可哀想になってくるが、決闘だから……いいんだよな?
立ち会いの先生も「ウィリアム、終わりにするか?」と確認したが、「わ、私の勝ちなら終わりにしてもいいぞ」と相変わらず訳が分からない。この状況でお前の勝ちは無いだろ!
ふらふらと腰砕けで立ち上がるウィリアム。しかしその瞳は俺への怒り辛みで殺気だっている。ウィリアムの口から血が流れている。転倒した時に口の中を切ったようだ。
「よくも、よくも、よくもよくもよくもオオオッ!」
叫ぶウィリアムの口から流れた血が鎧に付き消えた。えっ!? 消えた? ウィリアムの鎧が赤く光?
ウィリアムが剣を振り翳し突っ込んでくる。速い!? 襲歩程の速さでは無いが、さっきまでとは一段速さが違う。その速さに戸惑った俺はウィリアムの剣を剣で受けてしまった。
金属音と共に俺の剣が半ばで砕ける。更に追い打ちをかけるウィリアム。その剣は体捌きで右に交わし、空いた顔面を左拳で殴り付けた。
「グハアッ!」とよろめき鼻血を巻き上げて後ずさるウィリアム。
「き、貴様あああ! 審判ッ! 反則だッ! 頭への強打は反則だあ!」
立ち会いの先生は首を横に振る。頭への強打は武器による致死性の強打だ。鼻血パンチぐらいじゃ反則にはならない。
左手で鼻を押さえるウィリアム。指の隙間から鼻血がタラタラと滴り落ちる。そして鎧に落ちた鼻血は鎧の中に消えていった?
ウィリアムが着ている鎧が赤黒い光を放ち始める。ウィリアムがその光に気付くには冷静さが欠けていた。
その赤黒い妖しい光は更に強く輝きを増していった。
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