第18話 アベルの笑顔が見たいから私も頑張る!ってお話
《学生食堂》
あ、アイツ何やってんのよ!
昼食の時間、アベルを誘おうとしたら、私が声をかける前に教室を出て行ってしまった。私も四日間休んでいた事もありクラスの女の子達と一緒に食堂に行ったんだけど……何? 何、この放送?
突然流れたお昼の放送。放送委員(仮)の女の子とアベルの声? 食堂にいる生徒も突然の放送に吃驚している。
『事件のあらましを伺ってもいいですか?』
『はい。事の始まりは週末にミアさんと二人で街に買い物に出かけた時でした』
『え! ミレリア様とお二人で! デートですか!? デートですよね!?』
『いや、ミアさんに誘われただけですよ?』
な、何言っちゃってるのよアベル!
「ミアちゃん、やっぱりデートだったんだ~」
「ち、違うわよ! アベルも違うって言ってるでしょ!」
「へ~~、ふ~~ん」
な、何よコレット、その目は!
放送もなんか変な方に話しが行きそうだったけど、アベルが何とか話しを戻してくれた。ほっ。
『あの男はギフトイーターだった。美少女達を食べてニ百年の時を生きてきたとんでもない野郎だ』
『やはり強かったんですか?』
『麻痺の魔眼に闇魔法や雷魔法、極め付けは時間停止と魂の回帰』
『時間停止! 魂の回帰!』
明かされたあの男の恐るべきギフト。どちらも伝説級のギフト。今、この世界で使える人がいる可能性すら低い幻のギフト。
同席している女の子、ううん、この放送を聞いている全員が驚いている。
『あ、アベル君はよく勝てましたね……』
ニ百年生きて来た男のギフトは絶対無敵。普通、そうとしか思わない。私じゃ勝てない……、父の騎士も……、王都の聖騎士でも勝てない相手なのに……、アベルは勝った……。
『俺の加速視と未来視の魔眼のお陰だな』
『加速視? 未来視? ……アベル君の魔眼ってエロ視でしたよね』
『え、エロ視違っが~う! 透視だ! 透視!』
『女の子が裸で見えるんですからエロ視です!』
食堂に笑いが広がる。でもその笑いを最後にみんなは真剣に放送に耳を傾けていた。
『俺のギフトは透視だけど、派生スキルで幾つかの魔眼が使えるんだ。先日の診察眼もその一つさ』
『それでどうやって無敵の時間停止と魂の回帰に勝ったんですか?』
それからアベルが語った戦いは、何て言うか、凄いって言うか、私達が知る戦闘とは全く次元の違う戦闘だった。
アベルは加速視で時の流れをゆっくり見て、同時に未来視で自分が殺される未来を探す。
アベルが見る一分先迄の未来。未来は幾つも存在して、その中でアベルが殺されるベストな形の未来を探し、その未来にあの男を誘導する。
例え時を止められても、殺される時には時間停止は使えないから、そのタイミングで加速時間を伸ばして、あの男の裏を付き、あの男を殺した……。何回も何回も殺したとアベルは言う。
『…………』
放送室の女の子が声を失っているのが分かる。だって食堂もみんなが声を失っているから。
有り得ない戦闘……。アベルにしか出来ない戦い。ニ百年生きてきたあの男でさえ予想出来ない戦い方……。
『でも最後に俺は失敗したんだ。奴の言葉に惑わされた。奴はミアさんを狙う。俺はそう思ってしまった。ミアさんが襲われる未来を未来視で探した。幾つもの分岐からひたすら探したが、そんな未来は見えなかった。気が付いた時にはソフィアさんの胸にアイツの剣が突きつけられていた』
『…………』
誰も声を出さない……。出せない……。
『ほんの僅かな時間、一秒にも満たない無い時間を加速視で引き伸ばし、ひたすらミアさんが、ソフィアさんが助かる未来を、あの男が死ぬ未来を探してソフィアさんの元に走った。そして見つけた答えが俺が死ぬ事だった』
……何で? 何でアベルは死ぬ未来を選んだの……。 知らぬ間に私は涙が流れていた。
『……あ、アベル君は……し……死ぬ事が……怖くなかったんですか……』
『あの時はそんな事は考えていなかったよ。ただミアさんを、ソフィアさんを守りたい。その気持ちしか無かった』
私の体の中が、心の中が熱くなる。……何? この熱い気持ちは何? 分かるのは涙が止まらという事だけ……。
そして語られたあの男とアベルの死の瞬間……。苛烈で凄絶で凄惨な結末……。
同席しているクラスの女の子……、ううん、食堂の女の子達が凄惨な結末に恐怖して脅えていた。
『……俺はこの学院が好きだ。友達が、生活が、毎日が好きなんだ。戦い終わった時に気付いた。俺が戦えた理由はミアさんやソフィアさん、コレットさんにクラスのみんなが笑って暮らせる学院が好きなんだって』
『ふ~』と息を吐くアベルの呼吸がスピーカーから聞こえた。
『今、俺の怪我のせいで選挙運動が出来なくて困っている友達がいます!』
えっ!?
『選挙運動が出来なくてクラスの雰囲気も悪くて、クラスから笑顔が消えています!』
金縛りが解けたように食堂がザワザワとし始めた。あ、アベル?
『俺に出来る事はみんなにお願いする事だけしかない。午後の演説会にみんな来てくれ! みんなが来てくれたら、きっとクラスに笑顔が戻るから! よ、よろしくお願いします!』
あ、アベル……。その為に放送室に行ったの? 確かに今日の教室は雰囲気が暗かった。選挙活動最終日なのにやれる事が無かったから……。
だから、だからアベルはアベルが出来る事をやった……。みんなの笑顔の為に……。
私は私がやれる事をやったの? 私だってみんなの笑顔が見たい……。
アベルの笑顔が見たい!
私は席から立ち上がりリック君を探した。
「リック君!」
私の声にリック君が振り返った。
「リック君! 私はあの作戦をやるわ! 私は私が出来る事をやり尽くすわ!」
リック君がサムズアップでニヤリと笑う。彼の瞳にも涙の跡が見えた。
「私もやるよミアちゃん!」
「「私もやりますミレリア様!」」
コレットが席から立ち上がるとルフィアとソフィアも立ち上がった。
えっ!?
「「「私達もやります!!」」」
食堂にいたクラスの女の子達も立ち上がっちゃった!?
アベルの声にクラスの女の子達も答えてくれた。
「ありがとう、皆さん……」
嬉しい涙が溢れ出て頬を流れ落ちる……。
「が、頑張りましょう!」
「「「はい!!」」」
「……恥ずかしいけど」
「「「…………はい」」」
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