第16話 俺が戦う理由は……ってお話(第一章最終話)

 ミアさんが瞳を見開き俺を見ていた。


 俺に突き飛ばされ、芝生に転がり倒れたソフィアさんも呆然と俺を見ていた。


 俺の胸には奴の剣が深々と刺さり、突き抜けた背中からは血がボタボタと流れ落ちる。


「君から来てくれるとは嬉しいね」

「時間が無かったんでね……」

「どうやら僕の勝ちみたいだね」


 男は爽やかなイケメンスマイルでニヤリと笑う。俺は胸の痛みに耐えて男の右腕を左手で力強く掴んだ。


「そのセリフは俺が死んでから言ってくれ」


 未来視で見た俺が死ぬまでの時間はほんの僅かだ。ほぼ即死に近い状態で、俺の胸には剣が刺さっている。その僅かな時間で俺はコイツを殺す!


 俺は右手のダガーで男の顔を一突きして男を殺した。そして男の頭が霧散して、男はその場で甦った。


 コイツは俺が握る腕からは絶対に逃れる事は出来ないんだ。


「き、きさ……」


 未来視を使い男の甦りのタイミングで頭を刺して殺す。


「……離せ」


 殺す。


「……手を」


 殺す。


「……離せ」


 殺す。


「……クソッ」


 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!


 男の切り札であった時間停止では此の状況を打破出来ない。時間停止は確かに強い。時間停止中は自由に動ける。しかし今の状況では何も出来ない。時間停止中での魂の回帰が使えない事は今での戦闘で分かっていた。更に時間停止中は自分以外の非干渉物は動かす事も、壊す事も、殺す事も出来ないからだ。


 だから俺はだけは絶対に離さない!


 この左手には俺の命の最後の力が宿っている!絶対に離さないからなァッ!!


 未来視を使い男の復活のタイミングで男を殺す! 何度でも殺す! 殺す! 殺す! 殺す!


「……バカな」


 殺すッ!


「この僕が……」


 殺すッ!


「……止めてく」


 殺すッ!


「……や……」


 殺すッ!!


「………………」


 殺すッッ!!!!


 俺は甦らなくなった男の首にダガーを深々と突き刺した。既に俺の血は背中だけではなく、胸の前からも大量に流れ出ている。


 何故俺はここ迄頑張って立っていられたんだろう?


 何故俺は自分の命を掛けて戦ったんだろう?


 学院に来て僅かしか立っていないけど楽しかった。一人で山にいた時よりも何十倍も楽しかった……。


 婆さん、ゴメンな。でもさ、俺はミアさんを守りたい。少しの時間しか一緒に過ごしていないけど、ミアさんは凄くいい人なんだ。久しぶりに人の温かみを感じていたんだ。


『アベル、お前の父ちゃんと母ちゃんは魔物に襲われて死んじまったよ。他の狩人仲間を逃して死んじまったよ。でもね、父ちゃんは母ちゃんを庇う様に死んだって話しさ。まあ、それだけは褒めてやるかね』


 父ちゃんの血かね。俺も女の子を庇って死ぬみたいだ。でもさ、俺がそうしたいんだ。

 

 だから……いいよな……婆さん。


 ミアさんも……ソフィアさんも……無事だ……。


「よか……た……」









 目覚めた部屋は俺の二段ベッドでは無かった。……この部屋は……学院長先生の部屋か?


 生きてた………………。涙が瞳から自然と零れ落ちた。生きてたんだな俺………………。


「アベルさん!」


 寝ている俺の目に青い瞳に空色の髪の毛の女の子が映る。


「アベルさん! 大丈夫ですか!」

「……あ、うん……、えっと……ルフィアさん?」

「ソフィアです! ソフィアですよアベルさん!」

「ゴメン、ソフィアさん。……俺は……?」


 すると部屋の扉が開きミアさん、コレットさん、ルフィアさんが入って来た。


「アベル~~~~~!」


 ミアさんが寝ている俺に覆い被さって来た。俺の頬にミアさんの頬が重なる。ち、近いよミアさん!?

 そして俺の頬がミアさんの涙で濡れた……。


「……俺……生きてたんだな……」


 俺の目からも涙が流れミアさんの頬を濡らした。ミアさんは俺の耳元で大泣きに泣いている……。

 俺はブランケットから手を出してミアさんの頭を優しく撫でた。


「ミアちゃん! アベル君は怪我が治ったばかりだから胸に乗っちゃ駄目よ!」


「……あ、……ゴメン。痛かった?」


 あれ? 胸は痛く無い? ミアさんが俺から離れたので、半身をベッドから起こして胸を撫でる。


「……痛く無い……な?」

「コレットが治してくれたの。コレットじゃなかったらきっと治せなかった」


 コレットさんが? コレットさんを見るとニコッと笑ってくれた…………ガッ!?


「な、なあ…………」


「なあにアベル?」


 ベッドの脇に立つミアさん、その隣のコレットさん、ソフィアさん、ルフィアさん…………。


 眼福です!!


「俺の眼鏡は?」


 みんなの顔が見る見る林檎のように真っ赤になっていった。


「アベルの」

「アベル君の」

「アベルさんの」

「アベルの」


「「「えっちいいいいいいいいいい!!」」」



◆◆◆◆◆

【作者より】


第一部が終わりました。

ここまでお付き合い頂きありがとうございます(^^)


【透視】ネタはカクヨムではあまり見かけないお話のようです。カクヨムの検索では数件しかなく、現役異世界は『豪勇魔眼』だけです。


 つまりは埋もれ系ネタですが、出来るだけ面白く書きたいと思います。


 本作のドラゴンノベルス賞にエントリーしてますので、10万〜15万字でエンディング目指します。


 あと三分のニ、頑張って執筆しますのでお付き合いのほど、宜しくお願いします(^^)


 面白いと思って頂けましたら、目次ページのタグからレビュータグで、☆を★に評価よろしくお願いします。


★1でも跳んで喜びます!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る