第15話 加速視vs時間停止!どっちが強ええかって話
ベランダから飛び降り直ぐに未来視を使う。このまま逃げた場合……ソフィアさんが時間稼ぎでこの場に残りアイツに殺される。
「ソフィアさん! 俺におぶされ!」
コクりと頷いたソフィアさんが俺の背中におぶさった。オッ! 意外と大きいな! って今は其れ処ではない!
【加速視】!
ゆっくり流れる時間の中を俺は全力で走る。あの男も時間停止を繰り返し俺を追い掛けてくる。
高速鬼ごっこの始まりだ!
加速視の中で未来視も併用する。後方から時折炎の玉や雷と矢が飛んでくるのを先見して、その射線を交わしながら走る。ギフトイーターのアイツは魔法も使えるようだ。
「……凄い……」
背中のソフィアさんが何か呟いている。わずかに加速を落とし、会話が出来る速度にする。
「ソフィアさん! 武器は有るか!?」
「剣とダガー。ダガーなら貸してあげる」
「助かる!」
「音が近付いて来ている。アイツの方が早い」
「分かるのか!?」
「うん」
まずいな。魔力を注げば加速時間を伸ばせるがそれはジリ貧だ。俺の魔力が切れて殺されるだけだ。
「ミアさん! 死んでも生き返るギフトって何だ!?」
抱きかかえているミアさんは、俺の首に両手でしがみ付き青い顔で震えている。昨日の今日だ。昨日の恐怖がぶり返している。
「ソフィアさん!」
「多分、魂の回帰のギフト。魔力が尽きるまで何度でも蘇る」
「酷えギフトだなオイ!」
「普通のギフトは魔力を使わない。魂の回帰は魔力を使うから回数制限が有る。しかも魔力消費量が大きい」
「つまり何度も殺せばいつかは死ぬって事か」
「そうなる」
「殺るしかないな」
「うん」
◆
僅かな魔法灯が灯る人のいない夜の公園。走り続けた俺は昨日来た公園に辿り着いた。
芝生の上にそっとミアさんを下ろす。青い顔のミアさんは声にならない声で俺を引き留める。
「ソフィアさん、ミアさんを頼む」
コクりと頷くソフィアさん。ソフィアさんはダガーを俺に投げた。其れを俺はキャッチして鞘を抜く。
「もう来るよ」
ソフィアさんが公園の暗闇を見ている。暗がりに聞こえる足音。ミアさん達から距離を取るため、俺も足音の方へ歩き出す。
「鬼ごっこは終わりかい」
「まあな」
「加速に魔眼、君もギフトイーターかい?」
「そんな化け物んじゃねえよ」
「ふ~ん。君に少し興味が湧いた。君も喰べてあげるよ」
魔法灯の灯りのもと、奴は爽やかな笑いに白い歯が光り、腰に提げていた細身の剣を抜いた。俺はダガーを右手で構える。
【加速視】! 【未来視】!
ゆっくり流れる加速時間。未来視で見るのは奴の時間停止後の姿、場所、状況だ。
ふと気が付けば奴は俺の正面にいた。俺の加速時間中でも、奴は時間を停止させ、あたかも瞬間移動したかのように距離を詰めてくる。
奴の剣が既に俺の胸に当てられている。
「さよなら」
ニコッと、爽やかなに笑う男。
【加速視】!
加速視に魔力を大量に注ぎ、突き刺さる一瞬を引き延ばす。奴の背後に回り首をダガーで斬り裂き殺す。
体から垂れ下がる首が霧散し、新たな頭が現れ奴は甦った。再生速っ!
「
そしてまた時が止まった。
時間停止のギフト。最強級の超激レアぶっ壊れギフトだ。時間停止の有利な点は、【加速】や俺の【加速視】と違いタイムラグが発生しない。時間停止中は術者は自由に動ける。無敵じゃん! って勘違いされやすいが、実はそうでも無い。
時間停止の世界で動けるのは術者だけ。術者の非干渉物は時間軸に固定されているため、動かせない、壊せない、殺せない!
だから奴は時間停止中に俺を殺せる段取りをし、時間が動いた瞬間に俺を殺す。まあ無敵ちゃあ無敵だが。
だから俺は未来視で殺される俺の未来を探し、その瞬間に加速視に魔力を注ぎ込み僅かな瞬間を引き延ばして奴を殺す。
奴はまだ俺の未来視に気付いていない。
奴は時間停止を繰り返し、俺はひたすら加速視で引き延ばした時間で、幾つも有る未来の分岐から俺が殺される未来を探しだし、奴の攻撃を交わして殺す。
俺は既に奴を十回は殺している。しかし奴はまだ魂の回帰を繰り返していた。
「なるほど……分かって来たよ。君の魔眼は未来視だね! だから尽く僕の攻撃は直前で躱され僕は殺される。二百年生きて来てこんなに殺されたのは初めてだよ!
うん、うん、凄いよ君ぃ! 加速も未来視もレアギフトじゃないか! しかも最高の組み合わせだ!
君はメインディッシュに昇格だよ! 久しぶりの大ご馳走だ。美味しく喰べさせて貰うよ」
狂気的な喜びの顔で、お前何言っちゃってるんだ。ギフトイーターって初めて聞いたがとんだ化け物だな! 二百年とか人間止めてやがる!
男が消えて距離を取る。俺の未来視が黒い炎の魔法を見ていた。直撃は当然俺の死だ。
俺の死に繋がらない未来の為に俺は左に走る。俺が今まで立っていた地面が突然黒い炎をあげて燃えだした。
俺が加速視で走りさった地面は次々に黒い炎で燃えていく。奴との距離を詰めたいが、奴の姿が時間停止を使って、瞬間移動のように点々と移動している為に距離を詰められない。
しかし奴も俺を捉える事が出来ない。イライラ感を募らせた顔が見て取れる。俺の未来視が有り得ない未来を見た。
「それはヤバいっての!!」
奴は背中からドラゴンのような翼を生やして夜空に舞い上がる。そして上空から極大の黒い炎の塊りを地上に叩き付けて、辺り一帯が消失したって未来だ! 目的、忘れてやがる!
俺は加速視に魔力を注ぎ加速時間を伸ばす。ここに来てこの魔力消費は痛いが、奴を止めないとミアさんもソフィアさんも死んじまう!
「時間を止めるなよタコ助ぇーッ!」
祈りながら俺は距離を詰めて男の頭にダガーを突き立てた。ダガーが刺さった男の頭が霧散する。ふと気が付くと離れた場所に復活した男が立っていた。
「アハハハッ、ゴメンゴメン。つい全員皆殺しにしちゃう所だったよ」
死んで甦ったせいか、男は冷静さを取り戻していた。
「僕の魔力もそろそろ危うい。当初の目的だけは完遂させて貰うよ」
ミアさん! 奴がミアさんを狙う! 加速視と未来視でミアさんを取り巻く数十の未来を見る。しかし、どの未来に於いてもミアさんは無事だった!?
男の時間停止で姿が消えて、男が現れた。
「クソがッ! そっちかよ!!」
男はソフィアさんの前に姿を現した。奴の剣はソフィアさんの胸に突き刺さろうとしている。ソフィアさんは全く反応出来ていない!
通常の時の流れなら一秒にも満たない時間でソフィアさんは死ぬ。俺は加速視に魔力を大量に注ぎその僅かな時間を引き伸ばす。
全力で走った。未来視で幾十もの未来を見る。既に奴の剣がソフィアさんの服に刺さっている。俺の魔力が尽き欠けた状況でソフィアさんを、そしてミアさんを救う最適解は……!
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