第14話 ヤバい奴がやってきたってお話

 学院長先生の部屋から出て部屋に戻った。コレットさんも一緒だ。


「お茶を煎れるわね」


 簡易キッチンへと行こうとするミアさんを、コレットさんが「私がやりますからミアちゃんはソファーで座っててよ」と言って、コレットさんがキッチンへと行った。


 三人でお茶を飲んで一息つく頃に扉を叩く音が聞こえ、俺が扉を開けると空色の髪の双子のルフィアさんとソフィアさんがいた。どっちがどっちか分からないが。


「「ミレリア様はいらっしゃいますか?」」

「ああ、いるよ。どうぞ」


 部屋の中へ二人を招き入れる。コレットさんが「あらあら」と言って二人のお茶も用意する。俺とミアさん、テーブルを挟んでコレットさん、ルフィアさんにソフィアさんがソファーに座る。


「ミレリア様、此方をどうぞ」


 あっ! 昨日公園に投げ捨てたミアさんの袋! 中には昨日ミアさんが着替えた服が入っていた筈だ。


「ついでに貴方のも」


 俺の買い物袋もあった。


「サンキュー、…………ルフィアさん?」

「ソフィアです!」

「スマン……」


 だって銀髪の双子はどっちがどっちか、分からんのだから仕方無いよね? ん? 俺はソフィアさんの顔をまじまじ見ると、目の下に可愛いホクロが有るのを見つけた。なるほど! ホクロが有る子がソフィアさんだな。


「何をジロジロと見てるんですか!」

「いや、目の下に可愛いホクロが有るなって」

「可愛い!? それ以上不埒な事を言ったら殺しますよ」


 ソフィアさんにギロりと睨まれてしまった。可愛いって不埒な言葉だったのか! そうなのか!?



「ねえ、アベル君って未来視が使えるの?」

「ああ、良くて一分程度先の未来迄だけどな」

「それでも凄いよね」

「アベルは危ない」

「アベルは危険」


 はい? 俺って危険なの?


「アベルは透視で危ない」

「アベルは加速を使うから危険」

「アベルのギフトはおかしいから危ない」

「アベルは未来視を使うから危険」

「アベルはミレリア様の裸を見たから殺した方がいい」

「アベルはミレリア様に足蹴にされた時に絶対に見てるから殺した方がいい」

「アベルはミレリア様と同じ部屋に住む羨まし者だから殺した方がいい」

「アベルはミレリア様と二人でお買い物なんて羨まし者だから殺した方がいい」

「「アベルは今すぐ即刻速攻殺した方がいい! ミレリア様ご指示を!」」


 え~~〜~!? 俺殺されちゃうのかあ!?


「落ち着きなさい二人とも」

「「でも~~~」」

「アベルは私の命の恩人なのよ」

「「ブ~~~~~~」」


 双子の二人がキッと俺を睨む。何やらこの二人には嫌われているようだ? 俺、この二人に何かしたっけ?



 女子寮周辺の警備体制が強化され、暗くなっても見回りをしている警備員のライトがあちらこちらに見える。

 俺は戸締まりを確認してカーテンをしめた。


「これだけ警備されていれば大丈夫だな」


 ミアさんを安心させるように言っては見たが、ミアさんはソファーに座り不安な顔をしている。


「うん。私は大丈夫だよ。(ボソボソ)アベルもいてくれるし……」

「ん? 何だ?」

「な、何でも無い! ほら、他の女の子達が狙われたらと思うと心配で……」


 確かにこの女子寮には七十人の女子生徒が暮らしている。女性警備員による寮内警備もされているから大丈夫だと信じたい。


 しかしこれだけの警備体制をとっていたにも関わらず奴は襲撃して来た……。



「「ミレリア様! 逃げて下さい!」」


 そろそろ寝ようかとミアさんとソファーで話していた時に双子のルフィアさんとソフィアさんが部屋に飛び込んで来た。


「ソフィアもう近い!」

「分かってるルフィア!」


 焦り顔のソフィアさんが俺達を飛び越えてベランダの窓を開ける。


「逃げますミレリア様……」


 呆然とするソフィアさん。入口の扉を開けたルフィアさんの背後にあの男が立っていた。


「……速過ぎる」


 もの凄い美形顔の男。背は高く細い体付き。青い豪華な服がやたらと似合う。


「やっと僕のデザートに出会えたよ」


 爽やかでいて虎肌の立つ微笑みを浮かべる男はミアさんを見ている。


「君を公園で見かけた時に喰べておけばよかったと後悔していたんだ。君みたいな絶世の美少女はそうそういないからね。それに君を食べれば僕は最強になれるからね」


 何を言っているんだコイツは!?


「……ギフトイーター」


 ミアさんが呟く。ギフトを喰べる者? そんなギフトが有るのか?


「ギフトイーターだって!? 僕をそんな輩と一緒にして欲しくないね。僕は美を食する者! ビューティーイーターさ! ギフトはおまけで喰べているようなものだよ。美しい人を喰べると僕はより美しくなれる! 素晴らしいギフトだよ!」


 白い歯を光らせて爽やかに微笑む男。コイツはヴァンパイアでも魔族でも無く人間だ。但しコイツの魂いは悪魔よりも悪魔だった。


「コイツの目を見るな! ソフィアさんはこれを!」


 俺は紫色の魔眼封じの眼鏡を外してソフィアさんに投げる。ミアさんは俺の横でガタガタと震えている。眼鏡はソフィアさんに渡した方が有効だった。


「折角の魔眼封じの眼鏡を女の子に渡すとは、うん、美しい行動だね! 素晴らしいよ。君は加速だけで僕に勝てると思っているのかな? 昨日は不意を突かれただけなんだけどね。だいぶ勘違いをしているようだね」


 男の目が妖しく光。麻痺の魔眼だ。


 デビルアイに属する魔眼は相手の瞳から侵入して脳を支配すると言われている。麻痺は行動停止を相手の脳に命令する。魅了は惚れさせ、デスは脳の活動停止を命令すると言われている。


 危険極まりないデビルアイ対策として魔眼封じの眼鏡が作られた。紫色の特殊な水晶が魔眼の力を遮断してくれる。そしてもう一つデビルアイが効かないものが有る。


 【加速視】! 【未来視】!


 加速視によるゆっくり流れる時間を使い、僅か先の未来を見る。コイツの行動……時間停止!?


「ヤバい! コイツは時間を停めるぞ!」

「僕の魔眼が効かない!? 君も魔眼使いか!」


 魔眼ホルダーに魔眼は効かない。お互いの魔眼の力が相殺される為らしい。


 俺は【未来視】の中で見た一つの解はこの場から逃げる事だった。この場で戦闘した場合……ルフィアさんが俺達の盾となって殺される。


 【加速視】!


 ゆっくり流れる時間の中でミアさんを抱きかかえてベランダを目指す。判断力と行動が早いソフィアさんもベランダから飛び降りる。


「アハハッ! 今度は逃がさないよ!」



 

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