04:お茶会の事情

 王太子の婚約者になった私はお茶会へ参加する事が殆ど無くなっていた。

 以前であれば、月に二度程度の頻度で、屋敷で開いたりどこかへ出向いたりとしていたのだが、今はまったく無くなった。


 ここ数ヶ月は、唯一王妃様が開くお茶会だけに参加していたのよ。


 そして本日、それを風の噂で聞いたらしい王妃様から、直接理由を尋ねられたわ。


 私は将来の王妃と言う立場から、屋敷でお茶会を開くと招待状の出した出さないの有無で今後の力関係の縮図になるのではと、懸念していることを告げた。


 そして別の屋敷へ行ったときは、自分が来る事で相手の屋敷に迷惑が掛かるのではと言う事も伝えたのよ。つまり私とえにしを結びたい貴族が殺到するのではと言う懸念よ。


「あらあら、ジルダは随分と真面目なのね。もっと気楽に考えなさい」


「しかし私が参加すれば主催の家にも迷惑が掛かりますし……」

「いいじゃないの、その分、その家では普段出会わない貴族との縁が手に入るのだから」


「そういうものでしょうか?」

「そんなものよ」

 そう言うと王妃様は「ふふふっ」と楽しそうな笑みを浮かべたわ。


 そして、

「今のように減らすのは失策ね。むしろ参加する回数を増やせば良いのよ。そうすればどこでも会えるのだからすぐに落ち着くはずよ。

 それにね。今の内に経験を積んでおかないと、将来苦労する・・・・・・わよ」

 そう言って王妃様は目の笑っていない笑顔を見せたのよ。


 さらに王妃様は続けたわ。

「そうそう、王宮でお茶会を開いても良いわよ。

 貴女用の部屋はもう用意してあるし、わたくしが許可しますよ」

 婚姻はまだ三年後だと言うのに、もう王太子妃わたしの部屋が用意されている事に驚いた。


「いえ大丈夫です。王宮でやるのなら屋敷でやりますわ」

 そう言って断れば、

「あら残念」と言って楽しそうに笑った。

 これはきっと本気で言っているなーと、思ったけど気づかない振りをさせて貰ったわ。







 後日、私は早速、仲が良いリアーヌのお茶会に参加する事にした。その噂は誰が撒いたのか、すぐに他の令嬢の口に上がるようになり、気づけば皆が知る事になっていた。


 そんな噂の渦中となるリアーヌからは、

「申し込みの人数が増えすぎて、お母様が嬉しい悲鳴を上げてました」と教えて貰った。

 子爵の開くお茶会に、侯爵以上の上級貴族から問い合わせがあったそうだ。


「その分、格を上げないとですけどね。お母様はとても楽しそうでしたよ」

 なるほど、王妃様の言う通り、私が気にしすぎたのだと思った。

 ただ、格を上げる為に掛かった費用はやはり負担になるのだから、あまり同じ相手ばかり選ぶのは気をつけようとも感じていた。




 そしてアルテュセール侯爵家にて、

「お母様、我が家でお茶会が開きたいのですがよろしいでしょうか?」

 侯爵夫人たる母にそう尋ねてみると、お母様は、その言葉を待ってましたとばかりに、とても嬉しそうに承諾してくれた。


 ただし、

「お忍びで王妃様が来る事になっているから、よろしくね」

 と、特大の爆弾を落として……


 お母様と名前で呼び合う王妃様が、以前から私がお茶会を開く際は誘ってくれるようにと話を通していたらしい。

 そんな訳で、王妃様宛てに招待状を書いたのだが……

「自分で王宮に持って行ってね」

 書き終えた封書をつき返してくるお母様。

 だったら直接渡すなら口で言えば良いじゃないとか、考えちゃダメらしいわ。


 招待状を貰った王妃様は、「楽しみにしているわね」と、笑っていたけどいつも通り目は……、ね?




【後日談1】

 リアーヌの開いたお茶会の出席者に私と何故か王妃様がいたので、参加した貴族はかなり驚いたらしい。

 でも屋敷の前でうちの馬車に乗ろうとしたら、先んじて王妃様が乗っていたのを知った私の方がもっと驚いた思うわ。

 なおリアーヌのお母様ししゃくふじんは王妃様を見て卒倒しそうになっていたので、今回は流石の王妃様も反省したみたい。



【後日談2】

 屋敷に来た王妃様は質素なドレスを着て参加されていた。

 どうやら変装のつもりのようだが……もちろん一発でバレたわよ。


「どうして分かったのかしら?」

 しきりに不思議そうなに首を傾げる王妃様。

 侯爵家のお茶会に来るような貴族で、王妃様のお顔を知らない者は流石にいないと思いますよとは、もちろん言えなかったわね。

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