20:解らないなら目印を付ければいいじゃない
食事を終えてから、私はサロンに双子の護衛を呼び出してお話をしていた。
まず最初に二人に髪留めを差し出したのよ。
赤と青のコンコルドタイプの髪留めを一つずつ、ワンポイントにそれぞれの色に合わせた小さなルビーとサファイアがあしらわれている以外、デザインはまったく同じものね。
差し出されたそれを見て二人は「?」と小首を傾げていた。
「お好きな方を指差してみて」
そう問いかけて「せーの」と合図を送ると、指先は赤と青に綺麗に分かれた。
良かったわ、同じ方だったらどうしようかと思っていたのよね。
右の、きっとメレーヌが赤で、左の、たぶんイレーヌが青かな?
実は彼女たちは学園の席と同じように、意識的にその立ち位置を取っているようなのだ。これはきっと私に分かりやすいようにと言う彼女らなりの配慮だと思っている。
ただやっぱり確信はないので、
「その髪留めをプレゼントするから着けてくれるかしら?
本当に申し訳ないのだけど、やっぱりあなたたちは見分けが付かないのよ」
と、お願いしたの。
すると彼女たちは嬉しそうに、自分が選んだ髪留めを手に取り前髪に差してくれたわ。
前髪半分を耳の方へと流すように、赤の髪留めを右に向かって差したのが……
「メレーヌよね?」
「はい!」
そして同じく青の髪留めを左に向かって差したのが、
「イレーヌね」
「はい!」
やっぱり当たっていたみたいね。
でもこれでひと目で分かるようになったわ!
「ついでにこういう物もあるのだけど?」
調子に乗った私が差し出したのは、先ほどと同じ配色の二色のピアスだった。
「「この様な高価なものまで頂いてよろしいのですか?」」
心配そうに尋ねてくる双子、久しぶりのステレオね。
「えぇ構わないわよ。だって命を守ってもらってるんですもの。
ただし一つだけ条件があるわよ」
少しだけ凄んでそう言うと、途端に緊張した表情を見せる双子たち。
一拍置いてから続けて私が言った条件は、『護衛と言う立場ではなく、友達として普通に話してね』だった。
そういうと彼女たちは嬉しそうに、それらを手にとってまったく同じ笑顔を見せたわ。
その後、私は彼女たちの話を聞いたのよ。
例え護衛とは言えど、素性も知らないのは失礼じゃない?
「わたしたちはブノワ家の姉妹です。
年齢は実は今年で十九歳になります」
えっ、まさかの年上ですか!?
そもそも彼女たちは十八歳で卒業する学園に通っていい年齢ではなかった。
「いえいえ、わたしたちはただの護衛ですので年齢は気にしないでください」
赤の髪留めをつけたメレーヌが慌ててそういった。
「違うわ、友達よ」
「あ、はい。友達ですから気にしないでね?」
「えぇ分かったわ」
私がそう言うと、双子は嬉しそうに笑った。
「ところで、勉強不足で分からないのだけど、ブノワ家はどういった家なのかしら?」
爵位を言っていないのできっと騎士の家だと思うのだけど、私はそちら方面に明るくなく騎士団長の家名くらいしか覚えていないのよね。
おまけにジェレミー先輩繋がりで偶然覚えただけなので誇れる知識じゃあない。
「父上は歩兵団の団長をしてるよ」
青の髪留めをつけたイレーヌがそう教えてくれた。
「歩兵団というのは騎士団とは違うのかしら?」
当然ジルダの知識の中に軍の編成のことなんてなかったわ。
ジルダたる記憶では、騎士団と近衛兵と親衛隊の三つしかなくて、その関連や関係性はまったく不明瞭だったわね。
「騎士団というのは俗称だよ。中には騎兵と歩兵、他にも弓兵や工兵など一杯いるけど、父上は複数ある歩兵団の一つを率いてるよ」
「つまり部隊長ってことかしら?」
「そう思って貰って問題ないよ」
ちなみに彼女らは父ブノワの歩兵団とはまったく関係なくて、王妃様の親衛隊に所属しているそうだ。
じゃあなんで名乗ったのよ? と、思った後に、家名について突っ込んで尋ねたのは私だったわねと反省したわよ。
それよりも私は、彼女らが王妃様じきじきに指名されたと聞いて驚いていた。
「へぇぇ、二人とも優秀なのね!」
「恥ずかしながらそうではなくてですね。今回は学園に入る必要がありましたので、ただ若いという理由で選ばれました」
そういってメレーヌは恥ずかしそうに苦笑した。
なるほど確かに、ごもっともな理由で納得したわ。
翌朝、朝食の席で二人に会うと、二人の耳には昨日のピアスが着けられていて驚いた。
渡しておいてなんだけど、一体なにで開けたのかしら……?
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