19:vsヒロイン②

 席の位置からなのか、私が双子のお世話役をするようにと決められてしまった。


 ちなみにベルニエ先生がおどけながら、

「第二王子の婚約者様に大変申し訳ないのですが~」

 と、下らない冗談を言い出したので、

「そういう言い方をなさるのなら、今後は私もそれに見合った態度を取りますがよろしいですか?」

 と、睨みつけてやったわ。


「悪かったよ、アルテュセール嬢。彼女らを頼むなー」

 先生はすぐにいつもの態度に戻って、そう言いながらひらひらと手を振りながら教室から出て行ったわ。



 お世話役になった私に双子の彼女らは金魚の糞のごとく着いて来たわ。


 なんとお花を摘みに行くときまでね……


 流石にそこまではどうかと思って、二人にそれとなく文句を言えば、彼女らは突然真剣な表情を見せてこういったのよ。

「実は王妃様の命令でジルダ様を護衛するように言い付かっております。

 窮屈かと思いますが、ご容赦ください」とね。


 だから時期外れの転校生、おまけにクラスも同じなのね。そして席替えのくじを作ったベルニエ先生もそのタネは判らないけどグルなのね。


 私は今の自分の危うい立場は理解しているつもりだ。

 だから、これ以外の返答はないだろうことを返す。

「分かったわ。申し訳ないけどお願いね」

 そういって彼女らに頭を下げた。


 そういえば三人で真剣な表情をつき合わせてるけど、ここトイレなのよね。



 私の噂のこともあっただろうけど、私より頭一つ大きな、同じ顔をした双子を連れて歩いていた私のことは気づけば学園中で噂になっていたようだ。


 もはやどこへ行っても視線を感じるわ。

 むぅ~落ち着かないわね。







 そして食事時。

 食堂に入るとザワっと周囲から聞こえてくる。

 違和感を感じて周りを見ると、なるほど今日はマエリス軍団がまだ席に着いていなかった様で、ほんの少しだけ遅れて私たちの後からやってきたみたい。



 普段なら平然と順番を抜かしていくはずの彼らだけど、今日は前に列を守る私が居ることで順番を飛ばすのに躊躇している感じかしら?


 アントナン殿下は、どうやら私とは話したくない様で顔を背けているわ。

 リオネルは……うん、どうでもいいわね。私は見なかった。

 ケヴィン先生は教師なので列を乱すのは反対みたい。

 ジェレミー先輩は、あら、私じゃなくて双子の二人を見てるみたいね。これはアレよ、武闘家同士が『むむっアイツできるな!』って感じ合うやつじゃないかしら!?


 そしてマエリスは、列の先に私を見つけるとツカツカとこっちに歩いてきたわ。


 自然に見えるように装うが、しっかりとその進路を塞ぐ双子の壁。

 しかし彼女はそれを手で押しのけつつ、「どきなさいよ!」と叫んでいた。ここで私が双子に視線を送ると、彼女たちは少しだけ隙間を空けて彼女を通したわ。


 双子の間を何とか抜けたマエリスは、私に向かって、

「モブ子の分際で上手くやったみたいじゃない。

 ねぇどうやってあの根暗の第二王子を落としたのよ。もしかしてその無駄に育った体でも使ったのかしら?」

 どうやら列の近くではその声が聞こえたようで、ザワザワっと波立った。そして懸命な彼らは少し距離を置いたみたい。


 そして私はと言うと。

 彼女が何を言っているのかちょっと分からないわね?


 根暗な第二王子って誰のことよ?

 フェルナン殿下は、生意気盛りのやんちゃな男の子で、私は彼が根暗なところなんて見たこと無いわよ。


 それに無駄に育った体って……、確かに病気でガリガリだった前世の私に比べれば、今の私は健康的で胸も大きいのだけど、別に普通じゃないかしら?

 そしてチロっと彼女を見て、全てを合点した。

 まな板とは言わないけど、ゲーム設定に比べればとても貧相な物だったわ。

「ふっ」

 あら失礼。思わず勝ち誇って鼻で笑っちゃったわ。


「どこ見て笑ってんのよ!!」

 一瞬で激昂したマエリス。

 どうやら気にしていたみたいね。


「ふふっごめんなさい。私って思ってることが顔に出るタイプみたいだわ」

 もちろん嘘よ。

 悔しいけど、みんなには何考えてるか分からないってよく言われるわね……


「覚えてなさいよ!」

 と、顔を真っ赤にして捨て台詞を吐くと、取り巻き連中のところへと帰っていったわ。


 小さな声だけど「おぉ~」と、周囲から賞賛の声が聞こえてきて満更でもなかったわね。

 ただ、取り巻き連中の視線が超怖いんですけど……







 学園が終わり屋敷に帰る段になると、さらに驚くことがあった。何故なら双子が私の馬車へと乗り込んできたのだ。

「あら、もしかして屋敷まで護衛してくれるのかしら?」

 それ以外に考えられずにそう聞いてみたわ。


 すると彼女らは不思議そうな表情を見せて、

「もしや、お聞きになっていませんか?

 本日からわたしたちは、アルテュセール侯爵家でお世話になるのですが……」

 と、事務的な話は姉のメレーヌが代表して話すことに決めたようだ。

 大変分かりやすくなったわ。



 二人を連れて屋敷に戻ると、確かに王妃様から話は通してあったみたい。

 ……ただしお母様だけに。


 そして私の部屋の隣にはちゃっかり二人の荷物が運び込まれていた。

 なお私の部屋は階段の手前で、隣は一つだけ。

 そしてその部屋は確か昨日まではお兄様の部屋だったはずなのだけど?


「ふふふっジルベールには領地の視察に行って貰ったわ」

 文句を言いそうなジルベールおにいさまに用事を言い付けて不在にする、その間に部屋を勝手に変えてしまう。

 お母様って怖いのね……



 食卓に若い娘が三人座るとそれはもう華やかだったわ。

 口に出すと『四人でしょ』と、睨まれることになるのでもちろん言わないわよ。

「ははは、今日は若い娘が三人もいてとても華やかだねぇ」

 あっ愚か者が地雷を踏んだわ。

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