14:王宮からの呼び出し

 度重なる調停、調停、調停!!

 マエリスあいつ、なんであんなに問題起こしやがるのかしら!! と、少々はしたない表現が出たのも仕方が無いじゃない。


 調停を繰り返したお陰で私にも気づいたことがあった。

 どうやらマエリスあのこは、私とは違う扱いでここへ転生しみたいね。


 当初は彼女の突飛な行動は、プレイヤーたる設定ゆえと思っていたのだけど、どうやら彼女は本当に理解していないのだと思えてきた。

 日本の知識のままで行動して、こちらの世界の知識なんて一切必要としていないようなその行動は確かに目に余る物がある。

 だから彼女には私のジルダたる部分が無いのではと推測し、ならば転生の仕方が違うのだろうと思ったのだ。


 前世でも国が違えば常識が違うのが当たり前なのに、異文化でその知識が得られていないと言うのは、酷い転生の仕方もあったものだと、流石に同情せざる得ない。

 しかし注意しても学ばずに一切聞かないのは、彼女自身の問題であるから、そこはしっかりと責任を取ってもらう必要があるだろう。



 さてと、やっと辿り着いた週末、明日から二日間は学園がお休み。

 つまり調停しなくて良いのよ。やったわね!


 喜び勇んで屋敷へと戻ると、執事からお茶会のお手紙を手渡された。

 これはもしかして……


 出来ればアントナン様とは会いたくない!


 確率は1/3とか~思いながら裏を返せば、そこにあった刻印は驚きの王家の紋章だったわ。

 これで確率は1/2になったのね。


 しかし封を開けて手紙を読んでみると、差出人は王妃様だった。

 王妃様と言えば、王宮のパーティに始めて参加した際にご挨拶しただけの、私にとっては雲の上の存在の人。


 そんな人が私を名指し・・・でお茶会に誘うわけが無いわ。

「ねぇこの手紙はお母様宛てではないかしら?」

 そんな疑問が沸いたのも至極当然の話よね。

 侯爵夫人のお母様ならば、王妃様主催のお茶会にも何度か出席されていもの。おまけに二人は仲が良いと聞いているわ。


 しかし執事は、

「いえ間違いなくジルダ様宛てでございます」

 自分の仕事に間違いは無いと自信を持って返してきたわ。




 私が王妃様のお茶会に誘われたことは、すでにお母様には伝わっていた。

 それの意味することは、お誘いは自動的に出席になり、食事の時間は、急遽ドレスの試着会に変わったと言うことよ。

 家中のドレスを引っ張り出してきて私は着ては脱いで、脱いでは着てを繰り返していた。さらに今からでは作る時間が無いのだからと、レディメイドのドレスまで数着購入してきて、アレがいいこれはどう? と、それは夜半過ぎまで続いたのだった。

 ちなみに決まったのは、屋敷にあった見たことも無い新品のドレスだったわ。

 お母様のものにしては色が明るすぎておまけにデザインが若々しくて派手だし、っと、失礼。

 たとえお母様でも女性に年齢の話はタブーだわ。

 でも私、こんなドレス持っていたかしら?


 翌朝。

 決定したドレスに針を入れて、最終仕上げを終えた侍女ルイーズの瞳は、どこかやりきった感じで完全に座っていた・・・・・わ。


「さぁ、お嬢様、これを、どうぞ」

 流石に眠いのだろう、血走った赤い目で、まるでゾンビのように這い寄って来るルイーズに恐怖を覚えて、後ずさる私。

 その後、ルイーズからドレスを受け取った別の侍女により、無事に着せて貰ったわ。

 ルイーズは着用した私の姿を見て安堵の笑みを浮かべたまま、動力がなくなった人形のように崩れ落ちた。



 身だしなみも終えて、王宮からの迎えの馬車に乗る私。

 どうしてこうなったと、すでに失われつつある貴重な休日の一日を思って頭を抱えていた。







 私が案内された場所は、王宮の庭園が見渡せるテラスだった。


 また誰も居ないのかしら~と思っていたのだけど、今回は今までとは違っていて、既に王妃様が席に座って優雅に紅茶を飲んでいらっしゃったわ。

 フェルナン殿下と同じ銀髪の王妃様。

 あら、よく見ると王妃様の方が少し明るい髪かしら?


 私が案内されてくると、王妃様はそのままの姿勢で、「よく来てくれたわね」と、言って優しく微笑んだ。

 そして突然に呼び出してごめんなさいね、と、謝罪を頂く。


「本日はお招きありがとうございます。

 アルテュセール侯爵家のジルダと申します。どうぞジルダとお呼び下さい」

 緊張の中、何とか噛まずに自己紹介を終えた私は、少し安堵して表情を和らげた。

 すると王妃様は、ちょっとだけ怪訝な表情を見せたわ。


「?」

 すぐにその表情は消えてしまい。私は薦められた席に座った。



 私にも紅茶が入れられ、作法どおりお茶を頂く。きっと優雅に見えるはず。

 昨晩ドレスが決まった後のさらに夜遅くの時間にお母様に呼び出されて厳しく躾け直されたのですよ?


「もう三人来るので、それまで少しお話しましょうか」

 そう言われましても、王妃様と何を話せばいいの!?

 私のジルダの部分の記憶をもってしても、王妃様に相応しい話題と言うのが出てこない。私が少しパニックになり始めた時、王妃様が先に口を開いた。


「うちのフェルナンと仲が良いそうね。二人の時はどういった話をするのかしら?」

 そ、そう来たか~

 しかしそんなに仲良く話した記憶は無く、もちろん会話と言う意味でだが……

 そんな訳で、私は馬車の中で聞いたフェルナン殿下のお話をしたのだった。もちろんカエルの話は無しよ。


 ちなみに彼から聞いた陛下と王妃様の話をすると、ところどころで顔を顰めるシーンがありまして、どうやら内緒の話だったみたいね。



 遅れたのか、最初から遅れるように設定していたのか、残りの三人が来たのは私が来てから一時間後のことだった。

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