15:上手く笑えない人たち

 遅れてお茶会にやってきた三人とは、第二王子のフェルナン殿下と、そしてオーランシュ大公の子息オディロン様。そして最後の一人は、ケヴィン先生の元奥さんのフロリーア様。

 私のドレス姿をみて、さらっと「今日は一段とお綺麗ですね」と言ったのはオディロン様。流石は一流の紳士だけあって言い方もタイミングもスマートだったわ。

 そして遅れて、ついでに言うと慌ててフェルナン殿下が「お、お綺麗です、ね」と、顔を真っ赤にして言ったわ。

 紳士っぷりは全然だけど、年下の子が一生懸命って感じで好感度は高かったわね。

 二人に、笑顔で「ありがとうございます」と返しておいたわ。



 挨拶を終えるとフェルナン殿下が素早く私の隣へと座った。

 なぜここに? と思ったのだけど……


 オディロン様は私の向かい側、つまりお誕生日席に座る王妃様の逆隣だ。そしてオディロン様の隣にはフロリーア様が座る。

 そうなると、フェルナン殿下の位置は確かにここでよい気がする。だって王妃様の逆側のお誕生日席は大きなテーブルだけあって、相当向こうですしね。



「さぁ全員揃ったみたいだから、楽しい・・・お話をしましょうか」

 そう言った王妃様の瞳はまったく笑っていなかった。フェルナン殿下がたまに見せる黒い笑顔、なるほど母親譲りなのねと、変なところで納得したわ。



 話の内容は大きく一つ、当然マエリスの件でしかない。

 この三人が来た時点で王妃様は、どうやら逆ハー存続派のようなのだけど?

 王妃様に何の利点があるのかしら。


 最初に話したのは、ケヴィン先生の事だった。

 オディロン様は、先生の破滅を望んでいたのだけど、私にはその手段も策も持ち合わせていない。まずはもう少し詳しい話を知りたくて、ケヴィン先生とフロリーア様が別れた経緯を聞いた。

「辛いとは思いますが、別れた経緯を教えて頂けますか?」

 そう聞くとフロリーア様はビクッとして肩を震わせている。それを気遣って、オディロン様が話し始めた。



 聞いた内容はゲームの攻略どおりの話だった。


 まず最初にヒロインが道端である手紙を手に入れる。

 その手紙にはバルテレモン侯爵、つまりケヴィン先生の名が入っていた。

 親切にそれをケヴィン先生に届けると、実は彼の妻と男が密かにやり取りしていた恋文だったという話だ。

 浮気を疑うケヴィン先生を影ながら支えるヒロイン。

 いつしかそれが愛に変わって、ケヴィン先生は妻と離婚してヒロインを選ぶのだ。


「恋文は本当のことなんですか?」

「いえ、違います。

 あれは私の友達の令嬢が別のお方宛に書いた手紙です。

 自信が無いから見て感想をくれないかと言われて受け取った物ですが、それをわたしの不注意でどこかに落としてしまいました。

 まさか、ケヴィンがそれを拾うなんて」

 そう言い終えると彼女は泣き崩れた。



 もちろん彼女は正直にこのことを伝えたそうだ。

 そしてケヴィン先生は、『信じるよ』と言ったそうだが……


 ゲームの攻略だと、まず手紙を届けるとケヴィンルートが開く、続いて彼を慰めると手紙の真偽はストーリーから消えて、妻が浮気したから離婚したと話が繋がるのだ。

 ヒロインがケヴィン先生を慰めずにルートを放棄すると、いつしか手紙の誤解が自然に解ける強制イベントが発生してケヴィンルートが消滅するのよね。

 あら嫌だ、ヒロインって病気をこじらせる病原体みたいじゃない!?


 そして今回は逆ハールート、『そのことを言っても彼に信じて貰えなかった』と、フロリーア様が言ったそのままに、ヒロインに攻略されるために誤解は解けなかった。


 ゲーム補正と言う奴かしら?


 ゲーム中はイベント通りに流れて、それに抗うすべは無いのだろう。

 しかし今はエンディングを迎えた後のゲームでは語られていない時間軸。だったら誤解を晴らすことは可能だろう。


「まずはフロリーア様の不名誉を晴らしましょう」

 と、これには皆が頷いてくれた。


「ケヴィンはどうするのだ?」

「そうですねー、教師と生徒でどろどろの昼ドラみたいな展開でもあれば楽なんですけどねー」

 教師と生徒と聞いて連想したのがそれだった。長い入院生活の暇の中、お約束どおり期待を裏切らない昼ドラとか火スペとかは大好物だったのよ。

 まぁぶっちゃけ手詰まりで、少し投げやりに呟いてみただけだけどね。



「昼ドラ、それはなんだ?」

 しかしオディロン様は何故かその単語が気になった様で、私に問い掛けてくる。


「教師が複数の生徒に手を出したとか、生徒を妊娠させたとかそんな話ですかね?」

 って、私はなに『妊娠』とか答えてるのよ! と、言い終えた後にジルダの部分の記憶によって自爆級の失言をしていたことに気づいた。


 唖然とした表情で見つめてくる瞳が三つ。

 何故か王妃様だけは興味深げな表情なのが逆に怖いわ。


「す、すみません。はしたない言い回しでしたわ」

 と、私は取り繕うように謝罪したのよ。


 そんな謝罪のなか、一人だけ取り憑かれたかのように呟くオディロン様。

「……昼ドラ、昼ドラ」

 そこには真顔で『昼ドラ』を連呼する美形の青年がいたわ……

 こわっ!


 そしてしばらくすると、

「ジルダ嬢、面白いヒントをありがとう。

 後はわたしがやってみよう」

 そう言ってニヤリと最近よく見る真っ黒けの笑顔を見せたのよ。


 おかしいわね、私の周りって素直に笑える人が居ないのかしら?

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