11:塩対応
私の話を聞き終えたフェルナン殿下は、考える素振りを見せたまま固まっていたわ。
そして公爵閣下はというと、
「私は娘の復讐を望んでしまうから意見を控えさせて貰おう」と、仰られたのよ。
その後は誰もが意見を言うことなく、食事の時間が終わったわ。
あてがわれた部屋で休んでいると、深夜にも関わらずノックの音が聞こえてきた。
いくら前世と記憶が混じろうが、この時間に簡単にドアを開けるほど私の常識は失われていない。
この世界には勧誘撃退用の便利なチェーンロックが無いので、ドアを開けずに「何か御用ですか?」と、に問い掛けたわ。
「僕だ、ドアを開けてくれないか?」
声色からどうやらフェルナン殿下のようだ。
しかしいくら相手が解ったからって『はいどうぞ』なんて言える時間じゃあない。
「お断りいたします!
明日の朝、改めてお尋ねください」
冷たくあしらって私はさっさと眠ることにしたわ。
ドア越しに「ええっ!?」と不満そうな声が聞こえたの気のせいよ。
朝になると公爵家の侍女数人が現れて、拷問器具のコルセットをこれでもかと締め付けられた。コルセットを付けた時点で予想していたけれど、秋に相応しい濃いめの緑いろのドレスを着せられた。
髪を結いあげて顔にも化粧を施されてやっと解放。
昨日は夜分だったので致し方が無かったが、二日連続で普段着っぽい服のままで公爵閣下の前に出るのは不味かったのでしょうね。
着せられたドレスはどうやら新品ではないようで、私もミリッツァ様も標準的な体系だからきっと彼女のドレスなのでしょうね。
そんな訳で朝から気合の入ったドレスを着せられた私は、執事の案内で食事の部屋へと連れて行かれたのよ。
部屋に入ると、公爵閣下とフェルナン殿下は既に着席済み。もちろん一緒に来たフェルナン殿下も昨日の服ではなく、ちょっとした礼服を身にまとっていたわ。
男性は準備が早くて羨ましいわね……
二人は私のドレス姿を見て、
「よく似合っている。私の娘かと見間違えたよ」と公爵閣下が言った。
私の娘=褒め言葉と思っている辺りが、私のお父様と同類っぽくて少しモニョっとしたのは内緒にしておこう。
私の中で公爵閣下の株が少し下がっていた頃、フェルナン殿下はというと私を見たまま赤面して固まってたわ。
「うぉっほん」
彼は公爵閣下のわざとらしい咳払いで我に返り、「綺麗です」と、一言だけ呟くように言ったのよ。
それがお世辞ではなく素の言葉だったので私は少し動揺して、「あ、ありがとう」と赤面して顔を逸らしてしまった。
くっ不覚だわ……
朝食の席でフェルナン殿下は昨日よりもさらに近かった。
正直に言えば、食事を食べるのに邪魔なほどの距離ね。
「殿下、食事が食べにくいので
はっきりとそう告げると、捨てられた子犬のような表情を見せて、ほんの
まだ近い! と、言いたいのをぐぬぬぅと我慢したのよ。
食事を取りながら、フェルナン殿下は昨日の話について自分の意見を告げてきたわ。
「オディロン兄さんの依頼は時期を見て受けるべきだと思う、ただし受けるのはそこまでだ。あのハーレムは必ず破たんさせなければならない。だから馬鹿兄貴とジェレミーには最後まで争ってもらおうと思っている。
そのまま二人で最後まで突っ走ってくれれば、こちらも楽で良いんだがそれは無理だろう。だからさ、もう一人居ると万全だと思わないか?」
すると彼はニヤリといつもの黒い表情で笑ったわ。
黒い笑顔でそう提案してこられても逆ハーメンバーは全部で五人。既に二人が脱落しているからいまは三人しかいない。
オディロン殿下の依頼を受けてしまえば現在の三人から一人減るので二人しか残らない。簡単な引き算なのだから、こればかりは間違いようが無かった。
「三人と言われても、別の人が立候補する以外で増えるなんてありえませんよ」
「その別の人に心当たりでもあるのかね?」と公爵閣下が言った。
「ありませんね。
この際ですフェルナン殿下がサクラとしてで参戦されてはいかがですか?」
冗談めかしていたが、これはかなり不敬な発言だったと気づき、言い終えてからしまったと後悔したわ。
そして当然、フェルナン殿下はお怒りになったのよ。
「なんで俺があんな糞女の相手をしなければならない!
それに俺ははっきり言っただろう。ジルダ嬢、俺は他ならぬあなたに婚約を申し込んでいるんだ!」
それを聞いた公爵閣下は、「ほぅ」と興味深げな言葉を漏らしていた。
そして私はというと、前回の二人きりの時と違い、公爵閣下の前で面と向かって言われて今回ばかりは赤面せざる得なかったわ。
この爆弾によって、私は決して少なくは無い打撃を受けたのだけど、それよりも自ら暴走して盛大に自爆したフェルナン殿下の方がダメージは大きかったようね。
しばし沈黙。
まだ赤面しているのだけど、フェルナン殿下は改めて自分の意見を言ったわ。
つまり暇人のリオネルが復帰すれば良いと。
「ですがいまさらリオネルは無いでしょう。
そもそもリオネルが一度振られた相手に再び戻るとも思えませんし、何よりマエリスの態度が元に戻る保証もございませんわ」
「以前あれだけ盲目的に愛していたのだ、きっとリオネルは彼女に戻っていくはずだ。
そしてマエリスだが、教師ケヴィンが抜けたとしたらどうだ。
数が減ればきっと焦るだろう。その時にリオネルがまだそんな態度を見せ続けていたならあるいは、どうだろうか?」
「やってみても良いですけど、確率は限りなくゼロでしょうね」
結局私たちはダメ元でもやらないよりはマシと言うことで、計画を進めることにしたのよ。
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