08:そして三光
物事には二度あることは三度あると言われることがございます。
って、寄席っぽく言ってみても、まったく気分は晴れないわね!
オディロン様との密会の後、再び届いていた怪しい封書。
今度こそアントナン様からの呼び出しでしょ、これ?
そんな訳で昨日に続いて、再び見知らぬ貴族の開くお茶会へとやってきたのよ。いっそのこと行かなきゃいいのだけど、断った後の方が怖くて無理だったわ。
テンプレ通りに庭に通されて、それで誰もいなくて。
紅茶は出されるのだけど、きっと良い茶葉なのに薬物とかが怖くて飲めずに、手も付けずに放置する。
ああ勿体無い……
それで五分も待てば、お相手のアントナン様がスッとやって来……
「はぁ!?」
「なんだお前は、人の顔を見て突然失礼だな?」
現れた人の顔を見て、すっきょんとうな悲鳴を上げた私にそんな辛らつな言葉を浴びせたのは、第二王子のフェルナン殿下だった。
国王陛下譲りの金髪が眩しく『陽』と称される兄のアントナン殿下とは違い、フェルナン殿下の髪は王妃様譲りの銀髪、対して『月』と称されている。
えぇぇ、なんでここにフェルナン殿下がくるのよ!?
軽くパニックが入った私を他所に、フェルナン殿下は何故か私の隣へ座ったのよ。
ソファが彼の体重を受け止めて軋んで我に返る。しかし『正面に座りなさいよ!』なんて王族相手に言えるわけがない。
ぐっと言葉を飲み込んでそれを見逃すと、フェルナン殿下はしきりに顔を動かして何かを探し始めた。
視えちゃいけないモノでも視えるのかしら?
私がそんな風に首を傾げている間に、彼の顔はどんどんこちらに迫ってきてピタリと止まった。目がバッチリと会って慌てて背けたわ!
それにしても近い!!
でも言えない。
うむぅ悔しいわね……
既に座られてしまったのだから我慢するしかなくて、
「失礼しました。少々驚きまして、まさかフェルナン殿下がいらっしゃるとは思いませんでしたので」と、取り繕った。
横向きながら……、うぅこれ首が疲れそうだわ。
「ふん、まぁ良いだろう。
話をしていいか? それとも先になにか雑談でもするか?」
プチ俺様ぶるフェルナン殿下。
年下の少年の妙に大人ぶった態度が可愛らしくて和んだ私は早々に落ち着きを取り戻すことが出来た。
「手紙でお話があると伺っていますので、まずはそれをお聞きしますわ。
ただその内容がお願い事でしたら、いったん返答は保留させて頂きますよ」
三度目ともなれば、そりゃあこの後の流れは当然見えてくるわよね。
だから私は、先んじてけん制しておくことにしたのよ。
「その口調、そして俺を誰かと間違えたことを考えれば、もうほかの誰かから依頼されていると言うことだな」
あらこの子鋭いわ。
年下の少年だと思って侮っていた自分の気持ちを、上向き方向へと修正する。よくよく考えれば彼は王族だ、王宮でその手の教育は腐るほど受けているに決まってる。
危ない危ない、だたの年下って侮っちゃ駄目だわ。
う~ん黙秘も肯定、言い訳しても肯定でしょうね。
最初の失言の時点でもう詰んでるみたい。これは失敗したわね。
「さぁどうでしょう。ご想像にお任せいたしますわ」
この場はこれがもっとも無難だろうと考えてすっとぼけておいた。
「俺からの話は簡単だ。
アルテュセール侯爵令嬢、この件から手を引け」
確かに簡単だった。言い終えた彼は私の目を見て、その返答を求めてきた。
覗きこんでいっそう近くなった殿下を避けるために、少し後ろの仰け反りながら、
「確認させて頂きますが、この件と言うのはアントナン様を含む五股の件の仲裁と言うことでよろしいですか?」
私はこれっぽっちも仲裁しているつもりでは無いのだけども、世間での私の評価はどうやらこのようになっているのよね。
「その通りだ。
これ以上の仲裁をせず、流れるままに放置して欲しい」
「理由を聞いても良いでしょうか?」
すると彼はニヤリと年不相応に黒い表情で笑ったのよ。
「聞くと戻れなくなるが、それでいいか?」
「いえ、良くないです。
聞きたくありませんから、もしこれ以外に用事が無ければ私は失礼します」
そう言って私はさっさと帰ってきたのよ。
後ろから感じる彼の視線に気づかないまま……
※
屋敷に戻った私は今の状況を整理することにしたわ。
私が聞いた依頼は三つ。
最初が王太子アントナン様から『ハーレムを破壊しろ』と言う依頼ね。
逆ハーエンドのその先のドロドロを楽しむ為には、この依頼を受けると楽しみが無くなるから真っ先に却下したい奴よね。
それに私のジルダの部分も、あの女が王妃になるのが気に入らないって言っているから、このまま手を出さずにハーレムが破たんするのを見守りたいのよね。
続いて大公子息オディロン様から『ケヴィン先生の破滅』を依頼されたわ。
ゲームファンとしては出来れば受けてあげたい依頼なのだけど、難易度が高くて無理なのよね。
そもそもケヴィン先生は侯爵閣下だもん。同爵位とはいえ令嬢ごときがおいそれと手出し出来る訳ないわ。じゃあお父様なら~って話だけど、力が同じ時点でどっちが勝つかなんて分かんないわよね。
だからこれは保留する以外にないわよね……
さて最後が第二王子のフェルナン殿下から『ハーレムは放置しろ』と言う依頼ね。
逆ハーエンドの観察も出来るし私にとって一番利害の一致した依頼だわ。何と言っても、これきりなーんもしなくて良いというのが楽でいいわよね!
でも待って、フェルナン殿下はその先に何を視るのかしら?
最後の依頼は相反するとして、最初の依頼と二つ目の依頼はやや被る感じか……
この時点ですべてを受けるのは不可能よ。
それにしても、何が駄目って。
どれを断っても私を軽く害せる権力を全員持っていることよね……
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