04:手口は同じ
「なあジルダ、話を聞いてくれよ」
あれから一週間、毎日欠かすことなく私の元へ通いつめて謝罪を繰り返すリオネル。
そろそろ許してあげようかしら……
な~んて私が思うとでも思って?
覆水盆に返らず、一度無くした愛が戻るわけないじゃないの。
リオネルのことは壊れたラジオだと思うことにして、私は自分の今後の予定について思案していた。
今朝、机の中にあった手紙の刻印、間違いなくこれはビノシュ子爵のもの。
と言うことは、リアーヌからの手紙ね。
子爵令嬢の彼女が、侯爵令嬢の私を呼びつけるというのは不敬なので、手紙の内容は『お話があります。都合の良い日時を教えてください』と言った先触れだった。
以前まとめた前世の記憶ノートを見ながらゲームの事を思いだす。
設定では、彼女は私と同じヒロインの攻略対象の相手の一人だ。その相手は小動物系の後輩、子爵令息シャルロね。
二人は正式な婚約こそしていないけれど、幼馴染で仲が良くお互い口約束ではあるけれど、将来の結婚を誓い合っていたわ。
リアーヌも私と同じく寝取られ役のモブキャラという位置づけ。
ではジルダの記憶だとどうかしら?
リアーヌは不思議と私に縁があったみたい。公爵令嬢のミリッツァ様が開いたお茶会に向かう際に、彼女の馬車が故障して通りかかった私の馬車に同乗したのよね。
その時に本や劇の話をしたのだけど、お互いの趣味が同じで本の貸し借りや一緒に劇を観に行ったりしたのよ。
それ以来、私はリアーヌが本当の妹のように接してきたわ。
お兄様しかいない私にとって、妹のような彼女は物凄く嬉しい存在だったの。もちろん彼女も満更ではなくて、私のことはジルダお姉さまと呼んでくれていたわ。
でも、私が婚約破棄されて、同じ頃にシャルロがあの女に靡いた辺りから疎遠になって、呼び名もよそよそしい感じに変わってしまったわ。
お互いが気落ちしていたことから、相手を思いやることが出来なかったのよね。
それが今になって手紙を貰うということは……
もしかしてリオネルに関係することかしら?
『明日、学校の終わりに我が家にて。
久しぶりに一緒に帰りましょうね』
なるべく以前の姉妹関係に近い口調で、手紙を返しておいたわ。
※
翌日、学校が終わると私はリアーヌを馬車に乗せて屋敷に帰ってきた。
でも馬車の中では彼女は緊張しっきりで特に会話らしい会話は無かったわね。
残念だわ……
家に帰ると、同じ時刻に合わせたのだろう、物腰がスマートな壮年の身なりのよい男性が我が家を訪ねてきていた。
「お、お父様!?」
「始めましてレディ。私は陛下よりビノシュ子爵の名を頂いております。リアーヌの父です」
きっと伝え聞いていなかったのだろう、リアーヌが驚きの声を上げていた。
「ここで話すことも無いでしょう。屋敷へどうぞ」
私は執事に応接室を準備するように指示をだした。そして、お父様かお兄様のどちらかを呼ぶように伝えたの。
常に二人が一緒に不在になることはないように取り計らっているので、きっとどちらかは居るはずなのよね。
部屋に入っても目立った会話は無かった。
私が淹れて貰った紅茶を飲んでいると、ノックと共にお兄様が入ってきたわ。
「ジルダ、逢いたかったよ」
そう言いながら片膝をつき、私の手を取って口付けをするお兄様。
まったくもう。片手を取られると紅茶が飲みにくいのよね。
それに驚いてリアーヌが変な目で見ているからこういう事は止めて貰えないかしら?
居住まいを正したお兄様。
ビノシュ子爵閣下を促せば、彼は娘が懇意にしていたお相手、つまり子爵令息のシャルロの話を始めたの。
よくよく聞けば、シャルロは次男で将来はリアーヌと結婚してビノシュ子爵へ婿入りする予定だったとか。
近い未来、爵位を失う予定の次男坊が、リアーヌと結婚して子爵位を得るはずだったのに、それを蹴ってまで他の女に熱を上げるなんてあの童顔令息は多分に頭がお花畑のようね。
「シャルロめはうちの娘を手酷く扱いました。そんな娘の悲しみを省みず、未だのうのうと一人の娘に熱を上げていることに我慢がならない。
そこでです。最近ベネックス伯爵家のご令息が、かの娘から冷たくあしらわれているのを聞いております。
それはジルダ様の助言によって成されたのだと教えて頂きました。
ぜひとも、エモンの
「なるほど、あの糞ガキと同様にエモン子爵のガキも路頭に迷えば良いというのだな?」
歯に衣を一切着せないお兄様の発言に、私はギョッとしたわ。
しかしビノシュ子爵閣下は、目の笑っていない笑顔で、
「端的に言えばどの通りでございます」
と、クククととても低い声で笑ったのよ。
こわっ!
そんな自分の父親の表情を見て、リアーヌも少々引き気味だったわね。
そして同じくお兄様が影のある笑顔で、
「分かった。ビノシュ子爵閣下は大船に乗ったつもりでいてくれ」
と、相談されたはずの私をまったく無視して話が進んでいったの。
私はビノシュ子爵らが帰ったあと、お兄様に聞いてみたわ。
「ねぇお兄様。どのようにしてシャルロに分からせるのかしら?」
するとお兄様は、笑いながらこういったわ。
「彼の領地の周りには、我が家と懇意の貴族がたくさん居るのだよ。
我が家は侯爵だ。そしてシャルロのエモン家は子爵。
侯爵と子爵ならばどちらに付く方が良いかは、貴族ならば容易に判断できるだろう。つまりそういうことだよ」
お兄様は長々と興に入って話しているけれど、やろうとしているのは前回と同じく通行税の増加による圧迫だった。
「要するに、前と同じことをやるのね」
説明が長いのよとばかりに、呆れてそう呟けば、
「なっ同じじゃないぞ!? 伝手を使って遠隔で経済制裁を行うのだ!」
手で果実を採るのが前回で、別の者に果実を採らせるのが今回ってことか。これってうちが侯爵家だからできる力業よねー。
一応理解できたわ。
しかしお兄様はまだ話したりないらしく興奮冷めやらぬご様子。
でもこれ以上聞けば話が長引くのは明白なので、「お兄様って凄いわね」とお世辞を言って部屋を出た。
部屋の中から「うぉぉぉ~」と言う歓喜の雄叫び声が聞こえたけど、『あれは他人。知らない人』と三回唱えつつその場から離れたわ。
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