優秀な伯爵令嬢は、婚約者に気に入られたい。

タルト

ローネ

 清廉潔白・才色兼備で知られるアルノー伯爵令嬢ローネは、伯爵家のために嫁がなくてはならなかった。ローネとしては不服だったが、伯爵家の娘として産まれた以上は拒むことはできなかった。


 ローネが12歳のとき父親である伯爵に呼ばれた彼女は、結婚相手が決まったと聞かされる。ローネはただ言われるがままに顔合わせの支度を調え、王都の近くにあるルークス公爵領に向かったのだった。


 後日、顔合わせの場にいたのは、淡い金髪と翡翠色の瞳の優しそうな少年だった。

 ローネは、少年に向け優雅に挨拶をする。

「お初にお目にかかります。ローネ・アルノーと申します。どうぞよろしくお願い致します。」

 言い終えて一礼すると、目の前の少年の顔が緊張でより強ばる。

「は、初めましてローネ様。僕は、ライム・ルークスといいます。よろしくお願いします。」

 ぎこちなく一礼したライムを見たローネは内心で嘆息するが、それをおくびにも出さず

「はい。よろしくお願いします、ライム様。」

 そう言うと、にっこりと笑ったのだった。



(噂には聞いていたが、ここまでとは.....)

 公爵は内心、とても驚いていた。わずか12歳、自分の息子よりも1つ下の少女が、完璧に近い所作で挨拶をしたのだ。二人が婚約に至ったのは、残念ながら優秀とは言い難いライムを支えられる女傑を求めていた公爵の思惑と、格上の家と姻戚関係を結びたがっていた伯爵の利害が一致したためだ。


 目の前の少女にとっては、息子を支えるなど児戯だろう。それどころか、公爵家が乗っ取られる可能性も十二分にある。そう思いはしたが、本人たちに特に問題がない以上、一方的に断ることはできない。

 以後公爵は、家を乗っ取られないための対策を迫られることになる。



(お父様に聞いていた通り、あまり優秀ではないのね。利用するのは簡単そうね。)

 ローネは父親から聞いた通りの様子のライムに、内心呆れていた。


 ライムは公爵家の嫡男でありながら文武のどちらも目立った成果は上げられない。劣等生ではないが、特別優秀ではないのだ。優しさが表に出ている顔も悪くはないが、ローネの好みではなかった。

 対するローネは、文武両道でありながら、誰もが息を呑むほどの美貌を併せ持っている。家格を除けば、ローネがライムに劣っているところはなかった。


 それでも、ライムの婚約者である以上はある程度は尽くさなければならない。ローネは、ライムに取り入るため、策を練り始めるとともに情報収集を開始するのだった。



「ライム様、いかがですか?お口に合うと良いのですが。」

 ローネはまず食事会という名目でライムを自宅に招き、手料理を振る舞うことにしたのだった。


 普通、料理は使用人の仕事であり、貴族の令嬢がすることはまずない。だが、ローネはそれを逆手にとった。ライムに「自分の婚約者は、貴族令嬢で唯一手料理を振る舞ってくれる。」という優越感を与えることで、取り入る算段だった。


 そしてその目論見は成功した。

「とても美味しいです。ローネ様の手料理を食べられるなんて、僕は幸せです。」

 ライムは本心を伝え、屈託のない笑みを浮かべる。それを見たローネの胸が高鳴る。


 ローネは、自分自身の心の変化に戸惑っていた。ただ、気に入られるために、メイドからも賞賛される程度の出来の料理を振る舞っただけなのだ。だが、美味しそうに料理を食べるライムを見て、心が満たされる感覚を覚えた。そして、礼を述べるライムの笑顔に、思わず見惚れてしまった。

(私はどうしてしまったの.....?)


 内心では不安の火種が広がっていたが、表に出すことなく

「良かったです。また今度、別の料理にも挑戦してみますね。」

 そう言って微笑んだ。



 その後、食事会はつつがなく終えられた。この前はあまり話せなかったから、というライムの言葉によって、暫くの間談笑が続いた。話は弾み、ライムは楽しそうに笑っていた。その笑みを見たローネの胸の高鳴りは、収まることを知らなかった。

 そのうちにローネの不安は、隠すことが難しいほどに膨れ上がっていた。あと少しでも長く話していれば、不安が顔に出てしまったことは想像に難くない。そのため話に区切りがついたときに切り上げ、予め用意しておいた土産を渡し、ライムを見送ったのだった。



(失敗したわ.....)

 ローネは、自らのかつてないほどの失態に落胆していた。内心の不安を隠すために、彼女の方から話を切り上げてしまったのだ。

 彼女はそもそも失敗することそのものが非常に稀なのである。それ故に心が乱れた、というだけの理由で、話を切り上げることを選択したことを悔いていた。

 もしライムが気難しい少年であれば、ローネの方から話を切り上げることで気を悪くしかねない。そうでなくとも、もっと多くの話をしたがっていたかもしれない、と考えると、いくら話に区切りがついたときとはいえ、切り上げたことは完全に悪手だった。


 だが、いつまでも落ち込むローネではなかった。今回の失敗を踏まえ、次こそは完璧に取り入らなければならないのだから。彼女は、失敗の発端となった、心の不安の原因を探ることにした。


 彼女は紙に書き出すことで心の整理を始めた。普段は紙に書き出す必要などないのだ。あらゆることを完璧にできるうえ、頭の中だけで整理がつけられるのだから。だが、今回ばかりは、自分の脳内だけで完結させることはできなかった。流れを思い出すにあたって、ライムから満面の笑みで礼を言われたときを境に、考えが纏まらなくなるのだ。

(確実に、彼にお礼を言われたことが原因。......いえ、それとも笑顔を見たことかしら?)

 彼女は、頭の中で彼の礼だけを反芻した後に、笑顔を思い浮かべた。それを何度か繰り返した末に、胸の高鳴りは笑顔によるものと結論づけた。ただ、お礼を言われたために心が弾むことも判明したため、それを気取られぬための対策も練らなければならなかった。



 食事会から数日後、ローネのもとにライムからの手紙が届いた。内容は、食事のお礼と、それに影響されて料理を始めた、というものだった。ローネは不安を気取られていなかったことに安堵した。それとほぼ同時に、自らの口元が綻んでいることに気付いた。


 普段ローネが笑うことは殆どない。公的な場面では、自身を魅力的に見せるためや相手に警戒されないために笑顔を作ることはあるものの、喜びに思わず笑みが溢れることなどないのだ。まさしく、異常と言ってもいい事態だった。

(手紙ですらこうなってしまうのだから、実際に会ったら抑えるのは無理ね。)

 ローネはそう結論づけると、ライムを前にしたときに心を抑えるのを諦めた。

 そして、心が躍るままに、手紙の返信を書き綴ることにしたのだった。



 翌日、起床したローネは頭を抱えていた。手紙を読んで冷静さを欠いた挙句、心のままに返信を書いてしまったのだ。幸いにして手紙はまだ出していなかった、そのはずだった。

 だが、机の上に置いておいたはずの手紙はどこにもなかった。ローネは驚きながらも頭を働かせる。そして、ベッドに入った頃に専属使用人のサラが部屋に入ってきたことを思い出した。ローネはすぐにサラを探すと、問いただした。

「サラ、私の手紙はどこ?」

「え、あ、ローネ様。おはようございます。あの手紙なら、丁度出したところですが......」

 サラは、普段冷静沈着なローネが焦っていることに困惑した。

「何故私に確認を取らなかったの!」

「そ、それはローネ様が、寝る頃に手紙を取って出すように、と言っていたからでしょう?どうされたのですか?様子がおかしいですよ?」

「そ、そうだったわね。変なことを言ってごめんなさい。」

 ローネは、サラの返答を聞いて、昨夜そう命じたことを思い出し、それすらも忘れていた自らに呆然とした。

 ライムに関することだけ全く頭が働かなくなっていたのだ。そもそも、こんな状態になったことそのものが初めてなのだ。対処法など思いつかなかった。ローネは迷った末に、サラに相談することを決意した。

「ねぇ、サラ。相談に乗って欲しいの......。」

 サラはただならぬ様子のローネに困惑しつつも、相談に乗ることにした。

「分かりました。では、ローネ様のお部屋に行きましょう。」


「では、聞かせてください。一体どうされたのですか?」

 サラは部屋に入ると鍵をかけ、ローネに問いかけた。

 ローネは、ベッドに腰掛けると、ゆっくりと口を開いた。

「その......先日の食事会のときから、おかしくなってしまったようなの。ライム様が、私の作った料理を、美味しそうに食べてくれたの。その後お礼を言われたのだけど......そのときの笑顔に、思わす見惚れてしまって......しかも、胸が高鳴ったのよ。そんなことは初めてで、どうしたらいいか分からなかったの。すごく不安だったわ。食事会のときは、何とか抑えることができていたのだけど...ライム様からの手紙を読んだだけで、とても嬉しくなってしまったの。ねぇ、サラ。私は、どうしてしまったの?こんなに不安になることも、心が躍ることもなかったのよ。なのに.....。」

 サラは、ローネの告白を聞いて、一つの結論に達した。

「ローネ様、それは恋の病です。声を聞くだけで心が躍り、笑顔を見ると心が満たされ、少しのことでも嬉しくなってしまう。恋の病とは、そういうものです。」

「...そんなこと...」

 ローネは、サラの言葉に愕然とした。優秀である自分が恋に現を抜かすなど、考えもしなかったのだ。

 ローネにとって感情とは完璧に制御できるものであり、表情は相手に好感を抱かせるためのものでしかない。勝手に心が躍り、口元は綻ぶことなど、ありえない話であった。

 時々使用人の恋愛話を耳にすることはあったが、縁遠い話であると切り捨てていた。

 だが、実際に恋をしてしまったのだろう、と悟った。故に、ローネはサラの話を否定することができなかった。サラの言っていることは正しい、と勘が告げていたのだ。なにより、今挙げられたことには覚えがあった。

 そのうち、ローネの中で一つの疑問が生まれた。

「それは、どうすれば治るの?」

「そうですね。無事に思いが通じるか、逆に玉砕するか。もしくは、何らかの理由で冷めてしまうか。いずれにしても、今のローネ様には縁遠い話ですよ。」

「......どうやらそのようね。」

 ローネはサラの話を力なく肯定した。彼女としては今すぐにでも、この状態を脱したいのだ。だが、何度考えても、短期間でその3つに行き着くことはできないと思えた。

 そんなローネに、サラが笑顔で語りかける。

「良いことではないですか。ローネ様の初恋の相手は、他ならぬローネ様の婚約者なんですよ?このまま何事もなければ、いずれは結婚できるんです。平民や他国の王子のような、一緒になるのが難しい恋ではないのですから、慌てず、一度冷静になるべきです。」

 ローネは、サラの言葉を反芻すると、大きく頷いた。

「......そうね、サラの言う通りだわ。私としたことが、冷静さを欠いてしまうなんて。ごめんなさい、みっともないところを見せてしまったわ。もう大丈夫よ、私は優秀なのだから!必ずライム様を私の虜にしてみせるわ!」

 サラは強く言い切ったローネを見て微笑み

「恋愛は駆け引きですよ。決して無理を通そうとしてはいけません。......また何か困ったことがあれば、遠慮なく相談してくださいね。恋愛に関しては、私の方が先輩ですから、心置きなく頼って下さい。では、私は残した仕事をしてきますね。」

 そう言い残すと、一礼して部屋を後にするのだった。



 サラは、ローネの部屋から出ると、顎に手を当てて唸った。

(まさかあのローネ様が、色恋ひとつでこうも人が変わったようになるとは。驚きです。)

 サラのローネの印象は近寄り難い少女、その一言に尽きた。彼女は12歳にもかかわらず伯爵の政務の一部を担当し、実際に成果を上げている。常人を遥かに凌ぐ優秀さを誇っているのだ。加えて、少女離れした美貌の持ち主だ。サラの評価も当然であった。

 だが、今日のローネは違ったのだ。焦り、動揺、驚き、羞恥。様々な感情が表に出ていた。別人とも思えるような、年相応の少女がそこにいたのだ。そして、その理由を聞いたローネは再び驚いた。だが、同時に納得もした。たとえ真面目な少女でも、恋する乙女になれば、全てを捨てる選択をすることもあるほどなのだから。それをその身をもって知っているサラは、ローネを同じ歳の頃の自分に重ねる。だが、決定的な違いに気づくと、それを止めた。

(ローネ様の恋した相手は、自分の婚約者。そして、ローネ様自身がとても優秀。......私と同じ轍を踏むことは、まずありませんか。)

 サラはその結論に至ると、手を止めていた自らの仕事を再開したのだった。



 サラと話をした少し後、ローネは今後の方策を練っていた。

 婚約した際の大きな目標は、ライムに気に入られることだった。それは、伯爵家の令嬢としての責務から来るものだ。だが、それだけでは満足できなくなってしまった。恋をしてしまった以上は、真にライムの心を掴みたいのだ。恋心を成就させるためには、気に入られることなど通過点でしかないのだから。

(恋愛をするには、今の私では、まだまだ未熟ね。経験がない以上、せめて知識を仕入れなければ。)

 そう考えたローネは、数日の間恋物語を読むことに勤しんだのだった。



 それから暫くが経った頃、ローネは公爵領に二度目の訪問をすることになった。元々は伯爵も同伴する予定だったのだが、仕事が立て込んだためにローネだけでの参加となった。


 ローネは、気づかれぬように深呼吸をした後、ライムへと挨拶をした。

「こんにちは、ライム様。本日はお招きいただきありがとうございます。」

「ローネ様、こちらこそ来てくれてありがとうございます。さあ、上がってください。今日は僕が料理を作ったんです!」

 ローネはライムの笑顔に、心が弾むのを感じながら、部屋への案内を受けるのだった。


「......その、どうですか?お口に合いますか?」

 ライムは、ローネがゆっくりと黙って食べているのを見て不安が募っていた。美味しいことには美味しいが、使用人の作るものには届かないものだ。ましてや、以前のローネの料理には到底及ばない。ライムの不安も当然であった。


 一方、ローネはライムの手料理に感動していた。だが、それ故に真顔になってしまっていた。普段であれば、相手を不安にさせないよう、笑顔で話を交えつつの食事をしているところだが、舞い上がっているうえに感動しているローネは、表情を作ることをすっかり忘れ、食べ進めてしまっていた。


 半分ほど食べたところでふと顔を上げ、ようやくライムが不安そうに見ていることに気づいた。

「ら、ライム様?どうかされたのですか?」

 ライムから普段の笑顔が消えていたことに動揺し、思わず驚きを口に出す。

「その、ローネ様があまりに真剣そうに食べているから、美味しくなかったのかな、と......」

 ローネは普段の冷静さなど忘れ、ライムの言葉に強く反論した。

「そんなことはありません!とても、とても美味しいです!」


 ライムは、普段と大きく異なるローネの様子に驚愕した。ライムが抱いていたローネのイメージは、とても年下とは思えないほど丁寧で落ち着き払っている、笑顔の可憐な少女だ。だが、今目の前にいるローネは、これまでのイメージからかけ離れた、年相応の姿を見せている。ライムは戸惑いつつも、ローネに対して親近感が湧いたのを感じた。


「......今日のローネ様は、今までとは全然違いますね。」

 ライムの言葉にローネははっとすると、すぐに頭を下げる。

「ライム様のお料理が食べられることで、すっかり舞い上がってしまいました。恥ずかしいところを見せてしまい、申し訳ありません。」

「あ、いや、そんなことはないよ!今までと違うローネ様が見られて嬉しいです。」

 ローネはライムの言葉に顔を赤らめた。照れ隠しに食事が冷めてしまいます、と小さな声で言うと、食事を再開した。

 ライムもそんなローネの言葉に促され、同じように食事を再開したのだった。



 ローネは焦っていた。それはライムの言葉に起因するものだ。

 お互いに食べ終えてからも、会話はなかった。ライムはそれを脱するべく、意を決して話しかけたのだが、それがライムのことをどう思っているか、という内容だったため答えに困ったのだ。幾ら考えても普段のように回っていないローネの頭では、『良い』答えが思い浮かばなかった。だが、その代わりに何度も読み込んだ恋物語のことを思い出した。それと同時にローネの勘が今思いを伝えるべきだ、と言っていた。そしてローネは、一世一代の告白を決意した。


 深呼吸の後、ローネは口を開いた。

「私は、ライム様のことを、とても......とてもお慕いしています!」

 目を合わせて紡がれた、短い言葉。だが、それに込められた思いは、ローネのこれまでのどの言葉よりも重みがあった。


 ライムは、ローネの答えに驚くとともに、ひどく困惑した。

 そもそも、どう話しかけるか迷った末に思いついた、半ば冗談の質問だったのだ。そして、答えに窮するローネを見て、それを撤回しようとした矢先の告白だった。

 ライムは、ローネに思い慕われるような自分の魅力は思い当たらなかった。だが、ローネの目と言葉が嘘だとは思えなかった。

(本当に慕ってくれているんだ。)

 ライムの中で、驚きと嬉しさがないまぜになる。そして、敬語を取り繕うことをせず

「ローネ、本当にありがとう!僕も君が好きだよ!」

 そう告げて、満面の笑みを浮かべるのだった。


 ローネは、ライムの言葉を何度も反芻すると

「そんな...とても嬉しいです!私たち、両思いだったのですね!」

 そう言って、ライムに勝るとも劣らない満面の笑みを浮かべたのだった。

 そして感激のあまり、ライムに抱きついた。ライムは驚きながらも、ローネを抱きしめる。

 二人の抱擁は、暫くの間続くのだった。



 それから数日の間、ローネは公爵家に滞在した。それは王都周辺に山賊が出たため、帰るのを遅らせたためではあったのだが、ローネはライムとの仲を深めることに費やすのだった。



「ねぇ、ローネ。ローネは何故、僕を慕ってくれたの?」

 ライムは、隣に座るローネの頭を撫でながら話しかける。

「ライム様の笑顔が、とても魅力的だからです。」

「そうだったんだ......。嬉しいな。」

 ライムは、何度目かとなるローネへの抱擁を行う。ローネは何も言わず、ライムの温もりを感じることに集中する。

 少しの間を置き、今度はローネがライムへと問いかける。

「ライム様は何故、私を思ってくださったのですか?」

「それは......。そうだね。この際だし、全部話すよ。自分で言うのもなんだけど、僕は、公爵家の嫡男としてはあまり相応しいとは言えないと思ってたんだ。小さな頃、何をやっても能力が伴わないことが、とても苦痛だった。だからかな、いつしか僕は、挑戦することを止めてしまったんだ。......この前、君は料理に挑戦して、そしてとても美味しいものを作ってくれたよね。僕はそれを食べて......いや、違うな。そんな君を見て、挑戦しないといけないって、そう思ったんだ。そして、君に喜んで貰えるような料理を作りたいと思ったんだ。だから、僕が君を好きになったのは多分、自分に自信がなかった僕を奮い立たせてくれたからだと思うんだ。」

 ライムはゆっくりと言い終えると、照れ笑いを浮かべる。そして、ローネに向き直り

「ローネ。僕は、君が自慢できるような立派な公爵になってみせるよ。だから、その、これからもよろしくお願いします。」

 そう言って、頭を下げた。

 そんなライムを見たローネも同じように頭を下げると

「こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします。」

 そう言って、微笑を浮かべた。


 少しの後、ライムは顔を上げると声を上げて笑った。ローネもそれにつられるように声を出して笑う。二人の笑顔は、一日中消えることはなかった。

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