第17話 明かされる魔族の真相

「も、もっと色々と話すことがあるじゃろ!?」


 少し前までの丁寧な口調は何処に、スーティアは目を見開いて再び叫んだ。


 そこまで驚くこともないが、もっともな疑問である。シオンとイシリアは初対面なので、まずは雑談から入るのが一般的だろう。


 しかし、シオンもイシリアも雑談をすっ飛ばして、最初から本題に入ろうとしていた。何も分からない蚊帳の外にいたスーティアには、急すぎる展開だったのだ。


「まあ、少し急すぎるけど……気になってた力量は分かったし」


「スーティア。静かにしていなさい」


 世間一般的にはスーティアの感性が正しい。だが、シオンとイシリアがさも当たり前かのように振る舞うので、スーティアは自分がおかしいのではないかと錯覚して混乱し始めた。


「……は、はい」


 良く分からないままスーティアは頷く。何がともあれ、彼女はイシリアに逆らうことは出来ない。これは物理的にという訳ではなく、ただ単にイシリアがスーティアの師匠だからだ。


 スーティアが静かになると、何事もなかったかのように、シオンとイシリアは再び向き合った。


「私の曾孫……弟子がお騒がせしました」


「いえいえ。何も問題はありませんよ」


 まずは軽く言葉を交わす。別にイシリアが本気で謝罪しているわけではない。ただの社交辞令的なものだ。シオンも理解している。


「では本題に入りましょうか。シオン様はスーティアからどこまで聞きましたか?」


「エルフの大森林の存在意義……精霊武器の詳細……厄禍の詳細……女神について……ルイズ・アルベルトが異世界転生者だということ……こんなところですね。あと、シオン様は止めて下さい」


「お断りします。でしたら……その辺りの補足と、魔族に関して……あとは今後の行動についてお話ししましょう」


 シオンとイシリアの目線がぶつかって火花を散らす。本題とは別にある、様を付けるか付けないかの攻防はイシリアの勝利だった。


 前世がただの一般人であるシオンは、年長者に敬われるのは居心地が悪い。だが、何を言っても無駄だと悟ったので、それ以上言うことは無かった。


「魔族の話は最後にして、まずは……今後の行動についてです」


「はい」


 空気が切り替わり、シオンは姿勢を正して気持ちを入れる。当事者であるシオンにとって今後の行動は一番重要なものだった。


「承知していると思いますが……最終的には厄禍をこの世から消し去る必要があります。故に、シオン様と弟子のスーティア以外の契約者を見つけなければいけません」


 これはスーティアからも聞いた話だ。理屈は分からないが、全ての属性ごとの契約者が集まらないと、厄禍を消し去ることが出来ないらしい。ふと疑問に思って、シオンは口を開いた。


「一つ疑問があるのですが……なぜ全ての契約者が集まらないと消し去ることが出来ないのですか? 何か特別なことがあるのでしょうか」


 少し考えてイシリアは口を開く。


「詳しいことは伝わっていませんが、全ての精霊によって次元を超越する何かが可能になると言われています」


「次元を超越する……」


「その鍵はシオン様が握っているとのことです」


「……俺は心当たりがないですけどね」


「あら……」


 意外そうにイシリアは口元に手を当てる。蚊帳の外であるスーティアは独りでに頷いていた。


 そう、シオンには本当に心当たりがなかった。転生前にルイズ・アルベルトと会話した記憶の中にもない。もしかしてまだ記憶が封印されているのではないかとシオンは考えた。


「まあまだ時間はあります。探していけばいいでしょう。それで……スーティアから聞いたのですが、シオン様に契約者の心当たりがあるのですか?」


「はい。俺の出身国……アルカデア王国には剣聖が三人いるのですが、そのうちの一人が契約者です。確か無属性でしたね。あと……これはまだ不明ですが、第二王女も火属性の契約者だと思います」


「ならば……残りは五人ですね。思ったより短縮できそうです」


 契約者は幼少期に体内魔力量が異常に多い、という仮説が正しければ、シルフィーネは契約者だ。よって、見つかっていない契約者は残り五人。イシリアの想像より早く進んでいた。


「スーティアから共鳴の話は聞きましか?」


「聞きました」


 シオンが答えるとイシリアは頷く。


「今後、契約者を探す際にはその共鳴を使います。私の予想では、帝国に一つ、魔大陸に一つ、アルマテレス教国に一つあると考えています」


「なるほど……」


 イシリアの予想は何らおかしなものではない。アルカデア王国が二つも精霊武器があるのだ。同じくらい強国である、帝国とアルマテレス教国にあると考えるのが普通だった。


「この流れで魔族について話しましょう」


 世間一般的に言われているのは、魔族は悪ということだけだ。因みに、魔族が悪というのはアルマテレス教の根底部分でもある。


 それに対してシオンはかなり懐疑的だった。正しい歴史というのは常に勝者がつくるものであり、宗教に至ってはご都合主義の最たるものだからだ。


 魔族とは何なのか。


 シオンは真実を知りたかった。


「この話をするには、千五百年ほどさかのぼる必要があります。千五百年前、魔族で構成された一つの組織が結成されました。名を『救済の教団』。彼らはヒト族、獣人族、エルフ族、魔族、関係なく全ての人間はこの世界には不要だという考えの下、活動を始めました。目的はただ一つ、厄禍によって世界を浄化すること、つまり人間を滅ぼすことです」


 部屋に静寂が訪れる。呼吸や服が擦れる音がやけに響いた。


「幸いにも女神の使徒によって救済の教団による凶行は止められました。そして、この事態を重く見た女神の使徒がアルマテレス教を作り出したのです。一連の騒ぎは広がり、自然と魔族に対するうわさが広がりました。そこから魔族は迫害の道を辿って行ったのです」


 つまり今の状況は一部の魔族によるものだ。関係ない魔族からしてみれば、理不尽だと思うが、客観的に見たらそうおかしなことではない。


 前世でもそうだったが、人間の心は強くない。例えば日本に来ている外国人が何か迷惑なことをしたら、他の関係ない外国人も同一視されてしまうことがある。


 社会というコミュニティーにおいて、噂が広がるのは早く、完全に消えることは不可能だ。


 また、厄介なのは、『魔族は悪だ』という情報が全て嘘ではない事だった。


 複雑に絡まっている真実。


 シオンは溜息をつきながら納得した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る