苦い再会

第2話 冒険者の拾い者

 清涼溢れる森の中。禍々しさはまるでなく、小動物の足音や小鳥の囀りが空気に溶けていた。いつもの森のいつもの日常。


 ただ一つ違うところがあるとすると、地面に横たわっている男がいることだ。年齢的にはおそらく青年と少年の半ばくらいだろう。


 動く気配が無いので、小鳥が嘴で突いたり小動物が上に乗っかっている。よく見ると服もボロボロであり、所々に火傷を負っていた。


 そんな中、複数の足音が近寄ってきて小鳥と小動物は一斉に逃げる。足音の種類的に、近寄ってくるのは人間だ。


「あっ!誰か倒れてるよ!」


 活発そうな少女の声が響く。

 どうやら倒れている男を見つけたようだ。


「あら、もしかして魔物に……」


「んー……生きてると思う!」


「こらミーシャ。不用意に近寄ってはいけませんよ」


「はーい」


 お淑やかに見える少女が活発な少女、ミーシャに注意した。誰か倒れていたとしても、すぐに近づいてはいけない。何故なら、何者かの悪意によって仕掛けられた罠かもしれないからだ。


「まあでも大丈夫そうですね。どのような状態で……火傷…?」


 服が破損しているので、一目で素肌が見える。溶けたかのような破損によって露になった肌が火傷を負っていた。


 幸いにも後遺症や跡が残る程の火傷ではないのだが、比較的真新しい火傷にみえる。だが、ここは森の中だ。火属性を操る魔物がいたという報告はないし、今も感じられない。


「うわっ!ねぇねぇレイナ!」


 お淑やかな少女、レナがどうしようかと考えていると、ミーシャが袖を引っ張ってきた。


「ちょっとミーシャ…」


「この人すっごい顔綺麗だよ!」


 レイナの袖を引っ張りながらミーシャは言う。綺麗な銀髪で最初は見えていなかったが、髪を避けて見ると確かにすごく整っている顔だ。一見女性だと勘違いしてしまいそうになるが、体格から男だということがわかる。


「確かにそうですね…それより、意識を失ってるだけみたいですからよかったです」


「何でこんなところで倒れてたんだろー?」


「わかりませんが…私たちだけでは運べないので二人を呼んできてくれますか?」


「りょうかーい!」


 流石にこのまま放置するわけにもいかないので、安全な街に運ぶ必要がある。ただ、冒険者とはいえ少女二人では安全に運べない。だからレイナはパーティメンバーの男に頼もうとした。


 数分後、ミーシャがパーティーメンバーの男二人を連れてくる。一人は腰に剣を携えた青年、一人は背に斧を背負った青年。斧の青年の方が、幾許か他の面々よりも歳上に見えた。


「連れてきたよー!」


「ありがとうございますミーシャ」


 レイナは意識を失っている男を仰向けにして、火傷の手当てをしながら顔だけをミーシャに向ける。


「倒れてる奴っているのはそれか?」


「はい。意識を失っているみたいで…」


 腰に剣を携えた青年が倒れている男に近づき、姿を視界に映す。確かに気を失っていて、服がボロボロだ。


 そして顔を見た。


「………っ!」


 瞬間、剣士の青年は目を見開いて固まる。嫌な予感が脳裏を駆け抜け、まさかと思いながら目線を顔と左耳へ動かした。


「……っなんでこいつが…」


 小さく呟く。


「どうしたのー?」


 そんな様子の剣士の青年にミーシャは尋ねた。


「いや…なんでもない。さっさと運ぶぞ」


 ミーシャの言葉によって我に帰った剣士の青年は、膝を地面につけて倒れている男を持ち上げる。人を抱えながら歩くのは大変なので、背中に背負うことにした。これで体への負荷が少なくなる。


「帰るぞ」


 剣士の青年が一人でにスタスタと歩いて行ってしまう。他の三人はいつものように後ろをついていくのだった。




***




 昼下がりの街の一角。ミーシャとレイナは軽食をとりながら先程のことについて話していた。

 因みにパーティーのリーダーである剣士の青年は冒険者ギルドで手続きをしているところだ。


「ねえレイナー。何か様子おかしくなかった?」


「そうですね…」


「知り合いなのかなー?」


「だとしたら誤魔化す必要はないと思います」


「だよねー」


 会話の内容は、剣士の青年が倒れている男の姿を見た時の反応についてだ。彼が倒れている青年を見た時、明らかに動揺していて様子がおかしかった。


 知り合いかとも考えたが、それならば誤魔化す必要はない。では何故なのかとミーシャとレイナは頭を悩ませる。しかし、何も分からなかった。


「聞いてみるしかなさそうですね」


「うーん…でも知られたくないことだったら聞かない方がいいかなぁー」


 真実は本人しか分からない。とはいえ、誤魔化したということは何かしらの理由があると言うことだ。本人に聞いてみたいが、嫌な気持ちにさせたくない。どうしたものかと二人して頭を悩ます。


「あ、倒れていた人に聞くのはどうかな?」


「なるほど…確かにそれがよさそうですね。ただ、いつ目を覚ますかわかりませんが…」


 剣士の青年が知っているのならば相手の倒れていた男も知っているかもしれない。だから逆に倒れていた男に聞いてみようと二人は思った。


「と言うか何で倒れてたんだろ?」


「それに、あの森で火属性を扱う魔物なんて聞いたことがないですね」


 二人して頭を悩ませる。

 疑問は深まるばかりだった。


 

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