白銀ノ短編

短編4 シルフィーネの気持ち

*これはシオン達が二年生の頃の話です。


――――――――――――――――



 あくる日の午後、シルフィーネとマリナは王都の喫茶店でゆっくりと時間を過ごしていた。互いに向き合って座り、ほのかに湯気が立ってるティーカップに口を付ける。王城で出される紅茶と比べると質は低いが、十分美味しいものだ。


「……ねえマリナ」


 弛緩した空気の中、シルフィーネは唐突に桜色の口を開く。


「知り合い…友人…親友…恋人…。これって何なのかしら」


 どこか目を遠くしながら、シルフィーネは物憂げな表情を浮かべる。窓から差し込む日差しが横顔を照らし、何だか絵画のようだ。


「何なの…とはどういうことでしょう?」


 質問が抽象的過ぎて良く分からなかったので、マリナは首を傾げて尋ね返す。


「そうね……例えば、マリナはカイゼルとは何の関係だと思ってる?」


「か、カイゼルとですか……ええっと、幼馴染?です」


「幼馴染ということはまだ親友かしら?」


「まだって…。いえ、多分そうだと思います…」


 再び沈黙が場を満たす。マリナはシルフィーネが何を悩んでいるのか良く分からず、頭に疑問符を浮かべるばかりだった。


「あの…シルフィーネちゃんは何に悩んでるのですか?」


 気になってしまったのでマリナは思わず尋ねる。そんなマリナの質問に、シルフィーネは少しもじもじしながらも口を開いた。


「わ、私とシオンの関係って何なのかって思ってて…」


「わぁ…」


 少し頬を染めて言うシルフィーネにマリナは目を輝かせる。なぜなら、シルフィーネの表情や姿が凄く可愛らしかったからだ。しばらくマリナがニマニマしていると、シルフィーネが睨むような目をマリナに向けた。


「…なんか言いなさいよ」


 これは怒っているのではなく、恥ずかしさを誤魔化しているだけだ。そのことがマリナは分かっているので、特に焦ることなく少し考えてから言う。


「そうですねー…私からしたら恋人…いや、夫婦みたいですよ!」


「ふ、夫婦⁉なに言ってんのよ⁉」


 マリナからの返答にシルフィーネは慌てながら身を乗り出す。まさか夫婦なんて言われるとは思わなかったのだ。


「ふふっ、冗談ですよ」


「なぁっ…!」


 クスリと笑いながら言うマリナに、シルフィーネは謎の敗北感を覚えて悔しそうに歯軋りする。初めの頃はオドオドしていたのが、今となってはこれだ。冗談言えるほどに仲良くなった証である。


「でも…二人はいつも一緒にいて凄い仲いいし…息もバッチリだし…親友とも少し違うと思いますよー。あっ、相棒って感じがします!」


「相棒…」


「相棒にしてはちょっとあまあまですけど」


「あまあま?」


「はい。お二人が話してるときがですね…なんというか、甘いんですよ」


 良く分からずシルフィーネは首を傾げる。


「もしかして無意識にやってたんですか…?」


 何も理解していないシルフィーネにマリナは戦慄した。


「二人で並んで歩くときに袖を掴んだり…シオン君が集中してるときにシオン君の髪をいじったり…草原で寝転んでるときに膝枕したり…シオン君の肩に頭を乗せたり…二人してお互いの頬をつねったり…」


 どんどん濁流のようにマリナの口から言葉が出てくる。その勢いにシルフィーネは暫しの間、圧倒された。


「そんなことをずぅぅっとしてたんですよ⁉」


 言い終わり、マリナは一つ咳払いをする。久しぶりに言葉を垂れ流してしまったと少し恥ずかしく思いながらシルフィーネへ目を向けた。


「そ、そんなことを私はしていたの…?」


「はい」


 呆然としながら言うシルフィーネにマリナは激しく頷く。シルフィーネは今まで何も意識していなかった。しかし、マリナの言葉を聞いてこれまでの記憶が頭の中を駆け巡り、両手で顔を隠した。


「ちょっと待って……なにをやってるの私は…っ⁉」


 両手で顔を隠しているが、隙間から真っ赤に染まっている顔が見える。


「無意識だったんですねー…」


「シオンもシオンでなんで何も言わなかったのよ…」


 両手をずらして顔を挟むようにしながら、シルフィーネはここにはいないシオンを恨めし気に責めた。


「だからシオン君とシルフィーネちゃんは夫婦みたいに見えてたんですよ」


「うぐ…返す言葉もないわ…」


 記憶の中にある数々の恥ずかしい行為を本当にしているのならば、夫婦と言われても不思議じゃない。その事をシルフィーネも理解しているので、言い返すこともなく項垂れた。


「実際のところ、シルフィーネちゃんってシオン君のことどう思ってるんですか?」


 マリナは紅茶を一口飲んで、机に突っ伏しているシルフィーネに尋ねる。


「……よくわからない」


「よくわからない?」


「もちろん良い感情は抱いてるわ。ただ…偶に壁を感じることがあるのよ」


 シルフィーネは突っ伏していた顔を上げてマリナへ目を向けた。


「一歩引いてるというか…自分の本当の心を見せないというか…。思い上がりかもしれないけど…私がシオンと一番仲いいわ。けど、そんな私でも偶に感じるのよ」


「へー…そうなんですかー…」


 予想しないシルフィーネの言葉にマリナは目をパチクリとさせる。マリナにとってシオンは友人だが、まだ一年ほどしか共にいない。


 対してシルフィーネは八歳のころに知り合い、再開してからも可能な限りは毎日一緒にいるのだ。外から見ていても、シオンと一番仲がいいのはシルフィーネといっても何らおかしくなかった。


「じゃあシオン君が他の子と恋人の関係になっても大丈夫っていうことですか?」


「え、それは…」


「ふふっ」


 言葉に詰まるシルフィーネを見て、マリナは柔和に微笑む。


「想像してみてください」


「…?」


「シオン君の隣に他の女の子がいます。いつも仲良しで腕を組んだり手を繋いだりしています。そして――――――」


 言いかけたところでマリナはシルフィーネに目を向ける。


「なんだ。ちゃんと好きじゃないですか」


 シルフィーネの顔を見たマリナは、そう言って口を押えて笑った。






―――――――――――――


短編って何を書けばいいんですかね……。

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