第3話 シオンの思い
「ちょっとシオン!どういうつもり⁉」
学園の廊下にシルフィーネの声が響き渡る。
「どういうつもりも何もないよ。シルフィーネに付いていくっていうだけさ」
対してシオンは冷静にシルフィーネに言う。
「だけって…死ぬかもしれないのよ⁉それなのにあなたが付いてくる理由はないじゃない!」
シルフィーネは感情が混乱していた。
自分が死ぬ危険に合うならまだいい。
それは王族としての責務であり、自分で決めたことでもあるからだ。
だが、シオンはわざわざ戦地に赴く必要なんてこれっぽちもない。
シルフィーネとしては、頼もしさを覚えたものの、そんな危険な場所についてきてほしくはなかった。
「だからだよ。死ぬ危険性があるからだよ。これは俺個人の問題だけど…シルフィーネが戦地に行ってるのに俺だけ安全なところにいるなんてことはできない」
シオンにとってシルフィーネは親友を超えた家族のような存在だ。
王族としてといった立場は関係ない。
ただ、シオンにとって大切な存在なだけ。
そんな人が戦地に行って自分だけもどかしさを感じながら待っている。
シオンはそのようなことはできなかった。
「それにシルフィーネ一人より…二人の方がよくない?二人一緒なら不可能はないさ」
少し茶目っ気にシオンはシルフィーネに言う。
「でも…」
「それにフィオナ先生もついてきてくれるし、カイゼルの父親のハーデン辺境伯もいるんだよ?そうそう危険な目にはならないと思うな」
シオンの父親は個人の武力に優れているが、それと比べるとカイゼルの父親―ゼルダスは指揮に優れている。
だから、単純な戦闘力が必要な魔の森にはアレクサンダーを、連携が重要となる国境にはゼルダスを置いたのだ。
「そうかな…」
「そうそう。学園長も言ってたけど何かあったら逃げればいいさ」
「えっ…!そんなことできるわけ…」
「最悪の場合だよ」
シオンは顔を上げたシルフィーネに続ける。
「国の為に戦死する。これは確かに名誉のあることかもしれないけど、俺はシルフィーネにそんなことは絶対にさせたくないし、させない」
「……」
「貴族としてはあるまじき考えかもしれないけど、俺は大切な人を優先するよ」
それを聞いたシルフィーネは顔を赤くした。
互いに大切な存在であることは知っているが、改めて言葉で聞くと恥ずかしいのだろう。
「はぁ…もうわかったわ。ただこれだけは約束して」
シルフィーネは真剣な目をしてシオンに向き合った。
「絶対にあなたも死なないで。絶対よ」
「それはもちろん。俺はまだまだやりたいことがあるからね」
シオンはその言葉に軽く返す。
「もう…」
二人は茜色に染まった日が差し込む廊下を寄り添いながら歩き続けた。
***
「来たか」
日が完全に落ちた頃。
ギルベルトのいる執務室にシオンは訪れていた。
「話って何でしょうか陛下」
シオンはギルベルトの横にいるシュゲルに軽く目を向けながら尋ねる。
「あー、これは私的なものだから堅苦しくしなくていいぞ」
「そういうことですか。じゃあギルベルトさん。話とは?」
改めて緩い口調でシオンは聞いた。
「戦争のことだ。もっと詳しく言うとお前がシルフィーネに付いていくことだ」
「ああ、そのことですか」
シオンは納得した。
本来行く必要のないシオンが戦争に行くのだ。
話の一つや二つあっても可笑しくない。
「今更なんだが…本当に良かったのか?いや、お願いしてる俺が言うのも可笑しなことなんだが、別に無理していく必要はないんだぞ?」
少し困ったような顔をしてギルベルトは言う。
ギルベルトとしては、シオンが行くと聞いて安心したと共に罪悪感を抱いていた。
「別に無理してませんよ。自分の意志です」
シオンとてあまり親しくない人なら付いていかない。シルフィーネという大切な存在だから付いていくのだ。
「ならいい」
ギルベルトはその言葉を聞いて顔を緩めた。
「それで…シオンには色々な情報を頭に入れてもらう」
「色々?」
「帝国の軍の編成やその内訳。こっち側の戦術や予定だったりだな」
シオンはギルベルトの言葉に疑問を持つ。
「流石に実際の指揮はシルフィーネではないですよね?」
「当たり前だ。シルフィーネには軍の指揮は教えていないからな。実際には魔術師団長が指揮をする」
「ならよかったです」
シオンは安心した。
魔術師団長なら経験も豊富なので何も問題ない。
「帝国軍の進行速度から出立は三日後。準備しておいてくれ」
「了解です」
三日後。
随分悠長な感じはするが、しっかりと計算して出した日数なのだろう。
「ではそろそろ寮に戻りますね」
まだ門限ではないが流石にそろそろ戻らないといけないなとシオンは思った。
「ああ、こんな時間に悪かったな」
「かまいませんよ」
シオンはドアを開けて出ていこうとした瞬間、振り返った。
「それと、シルフィーネのことは任せてください。文字通り命を懸けてでも守ります」
シオンの蒼眼がギルベルトの方に向いて宣言する。
「では失礼します」
それだけを言ったシオンはドアを閉めて部屋から出た。
シオンが部屋から出て数秒。
「命を懸ける、か…」
ギルベルトは広い部屋に言葉を投げる。
「なあシュゲル、なんかあいつ性格変わってないか?」
「性格ですか…生憎私はシオン殿との関わりはさほどないので分からないですね」
ギルベルトはシルフィーネやアレクサンダー繋がりでシオンとの関りは沢山ある。
だが、シュゲルはあまりない。
なので性格が変わっているかと問われても分からなかった。
「そうかぁ…でもなんか変わっている気がするんだよなー」
漠然とした疑問に、ギルベルトは首を傾げるばかりだった。
――――――――――――
追記
第一話を改稿しました。
見返してもらえると嬉しいです。
また、理由は近況ノートに記載しているのでそちらを見ていただければわかると思います。
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