迫る軍靴の音

第1話 年月が経ち、、、

 日が陰り、雲行きが怪しくなってきたあくる日。


 シオンとシルフィーネは学園の廊下を歩いてフィオナを訪ねようとしていた。


「先生いるかな?」


「この時間帯だったらいるはず。何にもなかったらね」


 シオンとシルフィーネが並んでいる様子は何時もの事。

 だが、その姿は数年前とは打って変わり、二人共身長が伸びていた。


 彼らは現在十六歳。

 入学してから既に四年の月日が過ぎており、その年月に相まって二人の体は大人の姿へと成長している。


 シオンはその腰まで伸びた銀髪は変わっていないが、身長は一七〇センチ。

 

 シルフィーネは体つきが少女から大人の女性へと変化しているが、炎のような髪と猫のような顔立ちは変わっていない。


 また、成績もシオンが首席でシルフィーネが次席なのは変わっていなかった。


「そういえばシルフィーネって卒業したらどうするの?」


 目線が高くなったシオンが、シルフィーネを少し見下ろして尋ねる。


「色々考えてはいるけど…やっぱり魔術師団に所属すると思うわ」


「ふーん…でも近々戦争が起こるかもしれないから危なくない?」


 王女としても身分という公的な視点と、幼馴染という個人的な視点からシオンはシルフィーネの考えに否定的だった。


「確かに危険性はあるわ。けど私は王族で民を守る立場にあるわ」


 キリっとした顔をしてシルフィーネは続ける。


「エーリッヒ兄様は王太子で政務を、ジークベルト兄様は騎士団でアイーシャ姉様は貴族の纏め役。それぞれが国のために行動してるのに私だけ何もしないっていうのはあり得ないのよ」


 ずっと身近にいると時々忘れてしまうが、シルフィーネは王女だ。


 普段は年相応の女の子なのだが、時折このような王族としての顔を見せることがある。


 シオンはそんな彼女のことを誰よりも知っているので、これ以上反対しても無駄だと悟った。


「それで魔術師団?」


「そうよ。私の何が一番国の為になるか。そんなの魔術一択でしょう?それに私の得意な属性は火だから戦闘向きだわ」


 魔術を使う仕事といっても多岐に渡る。

 その中でも火属性の魔術は戦闘用、もっと言えば多数の人を殺傷するのに一番向いている属性だ。


 シルフィーネもその事実は重々承知しているため、魔術師団に所属することに決めていた。


「そこまで考えてるなら俺は何も言えないよ。でも陛下は猛反対しそうだなぁ…」


 シルフィーネの選択は命を落とす危険性が十分にある。


 ギルベルトは基本的に親バカなので、シルフィーネが魔術師団に所属することを聞いたら卒倒しそうだ。


「そうなのよね…だからシオン」


「ん?」


「お父様の説得を頼んだわ」


「へ?」


 シオンはシルフィーネの言葉に素っ頓狂な声を上げる。


「私だけだと絶対無理よ。だから頼むわよ」


「えぇ…その大変さ分かっていってる?」


「もちろん」


「まあやらないことはないけどさぁ」


「よろしくね♪」


 あざとくウィンクをしてくるシルフィーネにシオンは苦笑いをする。


 どこで覚えてきたのか知らないが、時折彼女はあざとくなるのだ。


 

 そんな会話をしながら二人はフィオナがいる部屋に辿り着いた。


 シオンがノックをしようとした瞬間、


「うわっ!」


 勢いよくドアが開きシオンは慌てて飛び退いた。


「わっ、すまんなシオン!あとせっかく来てくれて悪いが学園長から呼ばれているんだ。話はあとで聞く!」


 ドアから飛び出してきたフィオナは口早に喋ると、風のように走り去っていった。


 僅か数秒の出来事に二人は目とパチクリさせる。


「な、なんだったんだろ…」


「学園長から呼び出しって…今まであったっけ?」


 二人が知っている限りでは、今までフィオナが学園長に呼び出されたことはない。


 しかも慌てて走っていったということはかなり緊急だったのだろう。


「まあ後で聞いてみよっか」


「そうね……じゃあこの後どうする?」


 シルフィーネの言葉にシオンは頭を捻った。


 フィオナを訪ねるという目的が潰れたいじょう、特に用事があるわけではないので正直何もすることがないのだ。


「んー…取り敢えず訓練場にでもいく?」


「そうね」


 城下町へ出かけるというデートじみたものはなく、訓練場に行くことが決まった。




――――――――――――


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