第33話 エピローグ シオンと新しい愉快な仲間たち

 穏やかな風が吹き木々を揺らし、日の光が地上を照らして建物によって影ができる。


 時間は昼時から少し外れた午後二時。

 王都にあるアルカデア学園の訓練場には魔力がぶつかり合っていた。


 冷気と熱気が入り交じり辺り一帯はカオスのごときの空間と化している。地面が凍っていると思えば高熱によって溶解しているところもしばしば。


 氷の槍が飛んだと思ったら白炎によって溶かされ、炎の渦が咲き乱れた。


 と、同時に氷によって銀世界が創り出される。


 両者は激突。


 何時ものごとく水蒸気が発生し辺り一帯を白く染めた。


「うん。いい感じだね」


「調子は完全に戻ったわ!ありがとうシオン」


「どういたしまして。シルフィーネ」


 シオンとシルフィーネは彼らにとっての準備運動を終えて訓練場を後にする。勿論壊した箇所は直した。


「前よりキレが増したんじゃない?」


「まあ…あんなことがあったら嫌でも感覚が研ぎ澄まされるわね」


 二人は数日前に起こった定期試験での暗殺者襲撃事件を思い出しながら苦笑いを浮かべる。


 己に向けられる敵意と突き刺すような殺気。

 シオンは経験あったが、シルフィーネは今回の暗殺者襲撃事件が初めてだ。


 しかも適当な相手ではなく帝国の暗殺者というプロの相手。


 気を緩めていたら死んだかもしれないという文字通りの死線を潜り抜けた人は、そうでない人より比べ物にならないほど強い。


 だからシルフィーネは今までより強くなっていた。


「あ、陛下はあの報告について何て言ってた?」


 シオンは突如強くなった暗殺者の事について国王であるギルベルトに報告していたのだ。


「まだ詳しいことはわからないみたい。だけど…何かしらの帝国の技術じゃないかとも言ってたわ」


「なるほどね…」


 あの時の通常状態の暗殺者の強さはシオンの体感でフレイヤやノアと同等。それが覚醒した状態だと、一気にあの時のシルフィーネに迫るほどの強さだった。


 それが何か帝国の手によるものだったら……いや、帝国によるものであることは確定しているが、それが何なのか突き止めなければならない。


 なぜならその原因がわからないと対策のしようもないからだ。


 人を大幅に強化する技術。

 これをどうにかしないと王国は更に不利な状況に陥ってしまう。


「何がともあれもっと強くならないとね」


「そうれは同感だわ。怪我無く倒せたとはいえ手間取ったのは事実だもの」


 この前の襲撃事件では強化された暗殺者と対峙したのはシオンだけだったが、次もそうなるとは限らない。


 シルフィーネが相対することは十分あり得るのだ。


 だから何時その状況に陥ってもいいようにシルフィーネはもっと強くなりたかった。


「あ、それならさ」

 

 シオンは何か思いついたのかシルフィーネに顔を向ける。


「フィオナ先生に戦い方教えてもらったら?弟子って言ったら大層かもしれないけど先生も火属性が得意だし。しかも戦争経験者だし」


 素質だけで言えばシルフィーネのほうが高い。


 しかしフィオナは数多もの実戦を経験して、更に戦争によって二つ名を授与されているほどだ。


 言うなればシルフィーネの完全上位互換。

 フィオナに師事して損は何もない。


「え、フィオナ先生に?大丈夫かしら…」


「まあ聞くだけ聞いてみれば?」


「そうね…」


 二人はそんな会話をしながら学園から出て大通りに入った。


 昼時を過ぎているからか、大通りや店にいる人は比較的少ない。これならば丁度いいとシオンとシルフィーネは一つの店に入った。


「あ、」


 シオンは店の奥の座席にいる人を見て声を漏らす。


「どうしたの?」


「いや、あそこにクロエがいるんだよ」


 そう言ってシオンは奥の座席に座っているクロエを指さす。


「確かこの前の定期試験の時シオンと同じ班だったわよね?」


「そうそう」


 シオンは頷きながらクロエ居るところまで歩いていき声をかけた。


「クロエ」


 クロエは急に自分の名前を呼ばれたので驚いて肩をはねさせた。


「シ、シオン…急に声をかけるのはやめろ」


「ごめんごめん…ん?これクロエが全部食べたの?」


 シオンはクロエの席のテーブルに所狭しと置かれた空の皿に目を向けて聞いた。


「な、あ、それは…」


 わかりやすく慌ててしどろもどろになるクロエにシオンは口元を緩ませる。

 

「シオン、何やってるの!早く座りなさいよ」


「ああ、ごめんごめん」


 シルフィーネに急かされたのでシオンはクロエの隣の席に座った。


「いやーびっくりしたよ。クロエって結構食べるんだね」


「うぐっ…」


 シオンの一言にクロエは声を詰まらせる。彼女はまさかここで同級生と顔を合わせるとは思っていなかった。しかもそのうちの一人は同じ班だった人という不運っぷり。


「あ、そういえばこの前ありがとうね。フレイヤとノアを守ってくれて助かたよ」


 シオンは口の中のものを飲み込んでクロエに感謝を伝える。


「別に気にするな」


 クロエは気を持ち直したのか不愛想に答えた。


「ん?クロエが守ったってどういうこと?」


「あれ、話してなかったっけ。俺が暗殺者たちと戦っている間クロエがほかの二人を守ってくれてたんだよ。だから集中できたんだ」


「ほえー」


 シルフィーネは口をもぐもぐさせながら目をぱちくりさせる。


「んんっ…となるとクロエは強いのかしら?」


「うん強いよ。近接戦闘なら俺勝てないし」


「うそっ⁉」


「ほんとだよ。ねえクロエ」


 驚くシルフィーネ。

 シオンはクロエに同意を求める。


「勝ったのは剣での戦いでの話だけどな。魔術もありとなったら私は一方的に負ける」


「でも模擬戦を思い出すと納得するわ。確かに強かったわよね」


 いつの間にかシオンとシルフィーネとクロエの三人が一緒になって会話を弾ませていた。


 そんなところに――


「あ!シオンとクロエじゃねーか!しかも王女殿下も!」


「ちょ、声が大きいよ…」


 フレイヤとノアが入ってきた。


「あ、二人共」


 シオンが二人に向かって手を振る。


 暗殺者襲撃事件の一件からシオン達四人は必然と話すようになっていた。


 クロエもあの月明かりの元で決闘をしてから雰囲気が柔らかくなった気がする。その理由はシオンには分からないが良いことだとは思っていた。


 また、今回の定期試験でSクラスは一つに纏まったように感じる。


 これから六年間、彼らがどのように成長するかはまだ分からない。だが、今回の一件で徐々に暗雲が近づいてきているのは明白だった。


 


――――――――――――


こんにちは文月です。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

フォローと★評価していただけると嬉しいです。


さて、ここで第二章は終わりです。

ですがまだまだシオンの物語は続きます。


ぜひ次章からもよろしくお願いします。(._.)

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