第31話 定期試験⑪ 王国の掃除
キュプロスの森で王国騎士団が暗殺者の殲滅を始めたのと同時刻、王都でも次々と帝国の間者が摘発されていた。
結果は大成功。
第二騎士団と第三騎士団の中の精鋭部隊総勢百名という少ない人数により行われた水面下での捜査だったことにより、敵に悟られることなく摘発することを可能としたからだ。
「まさかこんなに潜り込まれていたとは…」
王城の一室で国王のギルベルトが苦い顔をしながら溜息をついた。
商会や軍の兵士に紛れていたのはまだいい。しかし、幾つかの貴族とも繋がっていたことはギルベルトとしても予想外だった。
「やはり俺だと弱いのか……」
ギルベルトは先王であり彼の父でもあった男を思い浮かべる。先王が没したのは丁度二十年前。
扉の前で呼びかけても返事をしないことに不信を持った使用人が執務室の扉を開けると机に倒れ込んでいる先王を発見した 使用人は半ばパニックになりながらも宰相に連絡。
宰相は混乱を防ぐために連絡してきた使用人には誰にも話さないことを命令し、直ぐに信頼の厚い治癒師に事情を説明。
その後、治癒師が死亡を確認した。
死因は不明。
実は先王は少し前から体調が芳しくなく、偶に寝込むこともあったのでそれが原因ではないのかと言われている。
そして先王が急死したことによって急遽王に即位したのが当時の第一王子で現王のギルベルトだ。
急遽即位したギルベルトは父譲りの才覚はあったものの、まだ若いため経験も浅く上手くいくわけがない。何とか宰相のシュゲルに支えてもらいながら日々成長しながら王としての仕事をこなすのがやっとだった。
そんな状況だったのでギルベルトは貴族との関りを疎かにしてしまっていたのだ。
勿論ほとんどの貴族はギルベルトに協力してくれた。しかし、いくつかの貴族は不安定になった王国に、そしてまだ若いギルベルトにあまり信頼はしていなかったのだろう。
だから帝国に付け込まれ、大量の間者や裏切る貴族まで出てしまった。
二十年前、先王が急死したことによって今日まで蓄積されたものが溢れてしまったのだ。
ギルベルトがネガティブな気持ちになっているとドアをノックする音が聞こえた。
「シュゲルです。報告に参りました」
「入れ」
許可されたのでシュゲルは部屋に入り頬杖をついているギルベルトの前に立って報告をし始める。
「水面下で進めていた今回の作戦ですが、結果としましては成功しました」
ギルベルトはその報告を聞いてほっとする。まずはリスクを冒したに見合うメリットはあったようだ。
「今回の作戦で全てではないですが帝国の間者の九割以上を処理、そして繋がっていたと見られる貴族を捕縛しました」
「そうか…貴族はどこの家が繋がっていた?」
ギルベルトの問いにシュゲルは表情を変えずに答える。
「二つの男爵家に一つの子爵家、そして一つの伯爵家の計四家が帝国と繋がっていました。これがその詳細です」
シュゲルは椅子にもたれ掛かって天を仰いでいるギルベルトに詳細な情報が記された書類を渡した。
「はぁーーー……」
書類に目を通した瞬間、ギルベルトは苦悩と安堵の入り混じったため息を深く吐いた。
「ひとまず二つの男爵家と一つの子爵家は大丈夫そうだな……だがこのオスケル伯爵家はだめだ。帝国との国境線に近い」
男爵家と子爵家は特に重要でもない普通の場所を領地として持っているのであまり影響はない。
しかしこのオスケル伯爵家は違う。
帝国との国境線を維持しているのはカイゼルの父が当主のハーデン辺境伯家だが、オスケル伯爵家の領地はそのハーデン辺境伯家の領地の隣に位置している。
ハーデン辺境伯家ほどではないが十分重要な役割を担っているのだ。
「陛下どうなさいますか?」
渋い顔をしているギルベルトにシュゲルは尋ねた。
「取り敢えず帝国と繋がっている家は取り潰し。それから一族郎党斬首だ。領地の運営は当分代官を立てることになるがな」
ギルベルトは冷徹な顔をして言い放つ。
当主だけならまだしも一族郎党なんて酷い、と思う人もいるかもしれないがこれは必要があってのことだ。
彼ら四つの貴族が行ったのは国家反逆罪に当たる。国家反逆罪は王国では最も重い罪の一つであり、遺恨を残さないため、そして危険分子を断つためにもその罪人の一族は生かしては置けない。
確かに何も関係ない子供を処刑するのは可哀そうだ。だが、一時の甘い考えで特別扱いをするわけにもいかない。
一人の子供のために王国の民に降りかかる災いが生じる可能性を許容することを否とするのは為政者として当然のこと。
ましてや、今まさに帝国の影がチラついている状況で甘い考えをするのはあり得ないのだ。
「オスケル伯爵家はどうしますか?」
「そこが問題だ。帝国が王国に進行するためにはあの国境線を超えるしかない。そう考えると帝国の本命は伯爵家だ。恐らく男爵家と子爵家はどうでもいいのだろう」
ギルベルトは顎に手を当てながら思考する。
帝国に潜り込ませている王国の諜報員から帝国では不穏な空気が漂っていると報告が来ていた。十中八九それは王国への戦争の準備だろう。
理由はわからないが、なぜか帝国は度々王国に侵略行為をしてくるのだ。
「そうだな…まずは伯爵家の屋敷を隈なく調べるように言ってくれ。そして…もっと帝国への警戒を強めろともな」
「かしこまりました」
シュゲルは背筋を正したまま礼をする。
「なあ…」
そんなシュゲルをギルベルトは瞳に移しながら続ける。
「俺はしっかりやれていると思うか?」
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