第30話 定期試験⑩ それぞれの戦い
シオンが突如覚醒した暗殺者と戦闘している頃、シルフィーネも暗殺集団と対峙していた。
シルフィーネは森の中では火魔術を使わないようにしていたが、こんな状況になってしまったので躊躇なく使っている。
彼女の班に襲い掛かった暗殺者は四人。
その内三人は既に丸焦げになって、もう一人も今まさに力尽きようとしているところだった。
「これで終わりよ!」
大粒の汗を額に浮かべながらシルフィーネは白炎の槍を相手に放ち、最後の暗殺者の身を燃やす。
「はっ、はっ、はっ……」
シルフィーネは息を荒げる。
四人の暗殺者を一斉に相手したことによる疲労もあったが、何より初めて人の命を奪ったことにより精神的にも消耗していた。
戦闘中は無我夢中だったので気にならなかったが、全て終わり冷静になってくると腹の底から込み上げてくるものを感じる。
自分は王族としての務めを果たした。
頭では理解しているがどうしても割り切れない。自分の身、そしてクラスメイトの身を守るためには仕方がなかったとはいえ命を奪ったことには変わりないのだ。
「殿下大丈夫ですか…?」
必死に自分を落ち着かせているシルフィーネに班員の少女が心配そうに、そして申し訳なさそうに声をかけた。
「ええ大丈夫よ…心配してくれてありがとう」
「いえ…私何もできませんでしたから…」
その少女、第十二席のリーシャ・ジェルティックは沈んだ声で言う。彼女はシルフィーネを一人で戦わせてしまったことに対して申し訳なく思っているようだ。
「気にしなくていいわ。私はたまたま動けただけよ」
シルフィーネも本来は動けなかっただろう。だが、百を超えるシオンとの模擬戦が今回の襲撃に生きた。
数多な攻撃の回避方法、戦術パターンの確立。自分より先を歩いているシオンをいつも見て、そして競ってきたから急な襲撃への対応を可能にしたのだ。
「それより…早く森から出るわよ。十中八九暗殺者はこいつ等だけじゃないわ」
シルフィーネは一抹の不安を心に宿しながら呟いた。
***
爆速で森の中を駆けていく影が一つ。
「だから反対したんだ…くそっ、無事でいてくれっ」
それはシオン達Sクラスの担任であるフィオナだった。
彼女は集合地点で待っていた時に暗殺者が襲撃。もちろん暗殺者たちは一瞬で消し炭にしたが、彼女は焦って森の中に駆けだした。
元々今回の外での試験は帝国の間者を炙り出すために行ったものだ。フィオナはその計画に強く反対したが、王国の上層部の指示だったので逆らうことができなかった。
だからせめて少しでも安全性を高めるために実力者であるレニーに同行を依頼したのだ。
暫く走っていると左右から暗殺者が急に飛び出してきた。
二人とも両手にナイフを持ちながらフィオナに接近する。
「邪魔だ『紅蓮』」
両手から放たれる紅蓮の炎は一瞬で二人の暗殺者を焼き殺す。
二人の暗殺者はシオンが戦った暗殺者の実力と同程度。それにも拘らずフィオナは一瞬で殺して見せた。
これが『紅炎』の異名を持つフィオナ・マギストである。
そしてフィオナは殺した暗殺者の事を気にも留めず心配を胸に抱き走り続けた。
***
「おおぉ!」
雄叫びと共にロングソードが暗殺者の胸を突き刺した。暗殺者の生命活動が停止したことを確認するとロングソードを胸から引き抜く。
糸が切れた人形のように暗殺者は地面へ崩れ落ちた。
「おしっ!状況報告ー!」
「敵七名の死亡を確認!こちらの被害は軽い怪我のみです!」
一人の騎士が大声で報告する。
「じゃあさっさと次行くぞー」
副団長を先頭に二十名の騎士は森の中を進む。互いの距離を一定に保ちながら広い範囲を探索するように進行する姿は独特の雰囲気を纏っていた。
歩くこと数分。
「学園の生徒を発見!暗殺者と戦闘状態になっています!」
一人の騎士が声を張り上げる。
「至急騎士五名が救助に行け!他の騎士はその周辺を探索しろ!」
副団長が指示すると五人の騎士は身体強化を掛けながら飛び出していった。
「ふー…これで一つ。まだ奥に居んのか…」
副団長は細めた目の奥を光らせながら呟た。そして彼は脳をフル回転させながら次の行動とそれに伴うメリットとデメリットを計算していく。
事前に聞いた情報では首席のフォードレイン家三男と次席の第二王女は既に魔術師団員を超える実力らしい。
そして慢心をしない慎重な性格だとも聞いている。
「そ、し、た、ら…範囲を広げるか」
副団長は優先順位を決めた。
「いっちょ全滅させるか」
王国第二騎士団副団長ヒンメル・ヴァイザー。
普段はどこかやる気なさそうな男だがその実力は第二騎士団の中では知れ渡っている。
そんな彼もフィオナと同じ異名持ち。
異名は『邪知』。
相手の立場や心理を見抜き徹底的に嫌がることをすることに関してはヒンメルの右に出る者はいない。
騎士としてはあまり外聞はよろしくないが味方に居ればこの上ないほど頼もしい。
そんな彼が帝国の暗殺者を全滅させるために動き出したのだった。
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