第29話 定期試験⑨ シオンの戦闘

 上空で悠然と浮かんでいるシオンに四人の暗殺者たちは警戒して身構えた。


 恐らくシオンの実力を悟ったのだろう。

 そしてこう思ったはずだ。

 一人では勝てない、全員でかかるしかない、と。


「『氷槍×十』」


 先手を取ったのはシオンだ。

 十の氷の槍が暗殺者目掛けて飛んでいく。


 一本一本が子供の身長ほどの長さがある氷の槍は螺旋回転しながら暗殺者たちの足元に突き刺さり、横の木を穿ち、後ろの岩を粉砕した。


 なんとか避けた暗殺者、その内の一人が風の刃を放つ。シオンは目に飛び込んでくる僅かな空間の歪み、そして耳に届く風切り音を確認し自分に直撃することを察知。


 その直後に発動していた飛翔魔術を解除。


 重力に従って落ちることで風の刃を回避した。


 同時に他の二人の暗殺者が接近。

 二人とも手には毒のついたナイフを持っているのが見える。


 シオンは氷の壁を左右に発動しようとして―――


「ちっ」


 もう一人が炎の槍を飛ばしてきたので咄嗟に横に風魔術を発動させ方向転換。


 衝撃に内臓を揺らし、熱気を全身で感じながらも一回転して着地。


 最初に風の刃を放ってきた暗殺者が背後から接近してきたのを『探査』の魔術で確認すると振り返らずに紡ぐ。


「『唸れ囲え拘束せよ―水牢』」


 暗殺者の体に水が巻き付き瞬きをする時間で全身を水に閉じ込めた。そして間髪入れずに魔術を発動。


「『電撃』」


 シオンの手のひらから眩い光が生じ、一筋の電撃が暗殺者を閉じ込めている水球に直撃。


「―――ッ!!!」


 閉じ込められていた暗殺者は口から泡を吹き、白目をむきながら感電して気絶した。


「『氷壁』」


 シオンは連続で巨大な扇状の氷の壁を三人の暗殺者との間に生成する。


 一拍遅れて氷の壁に魔術が直撃。三つの魔術を受け止めた急ごしらえの氷の壁は崩れた。


 そしてシオンは一人の暗殺者がクロエの方に向かっているのを目にする。


 一瞬思案したがクロエと目が合い決断。シオンはその一人の暗殺者はクロエに任せることにした。


 思考を切り替え残った二人の暗殺者に集中する。単純に考えれば負ける道理はない。だが、シオンは何か嫌な予感がした。


 しかし二人の暗殺者が左右同時に接近してくるのを見て切り替える。


 片方は風の刃、もう片方は炎の槍を飛ばしてくるのに対して、シオンは足元に風魔術を発動させ高く跳躍。


 一秒後に元居た空間を風の刃で斬り裂き炎の槍が穿つ。


 正面を向くとクロエと暗殺者が切り結んでいるのが見えた。状況から察するにクロエが優勢のようだ。


 これならば安心だとシオンは思い、斜め背後から迫ってくる暗殺者に向かって一瞬で作った氷の剣を振る。


 辺りに甲高い音が響くと同時に氷の槍をもう片方の暗殺者に射出。


 咄嗟に体を捻ったので氷の槍は脇腹を少し抉るのにとどまった。

 が、その暗殺者は自分の足元に風の足場を作りもう一度接近。


 急なことにシオンは驚くが宙に作った氷の板を足場に体を一回転させ氷の剣を叩きつける。


 遠心力によって威力が増大された斬撃は暗殺者が持っていたナイフを叩き落とした。


 しかし暗殺者は瞬時に新しいナイフを取り出して着地。もう一人の暗殺者と連携して再びシオンに襲い掛かった。


「ふっ――!」


 シオンはクロエと剣を合わせた時のように身に降りかかる攻撃を氷の刀で冷静に捌いていく。相手はナイフという間合いが狭い獲物、対してシオンは氷の刀。


 取り回しはナイフの方が有利なので、シオンは懐にはいられないように間合いを保ちながら切り結ぶ。


 数合切り結んで分かったことは近接戦闘はシオンの方が優勢だということ。だが相手は二人、そして連携はかなりの水準に達しているので徐々に押されていった。


「『風衝』」


 シオンは一人の体を風魔術によって吹っ飛ばす。


 そもそもシオンは魔術師だ。例え近接戦闘で押されていても魔術を使えば問題ない。


「『電撃』」


 続いて電撃をもう一人に浴びせる。

 一瞬痙攣した瞬間シオンは接近し袈裟斬りにバッサリと切り捨てた。


 同時に地面を足で踏み鳴らし後方に地面から氷の槍を突き出す。


「がっ……」


 音もなく近寄ってきた暗殺者の腹を貫いた。


 クロエの方を見ると暗殺者が地面に倒れている。どうやら無事に倒したみたいだ。 


 また、クロエは傷らしい傷は付いていないみたいなのでシオンは安心した。


「―――っ!」


 瞬間、シオンは強大な魔力を感じ、その方向を見る。


「なにそれ…?」


 そこには先程電撃を浴びせて刀で切り伏せた一人の暗殺者が佇んでいた。しかしその様子がおかしい。


 シオンは人が気絶するには十分の威力の電撃を与えたはずだ。だが、その暗殺者は今まさに動いている。


 いや、それだけならまだいい。問題なのはその暗殺者から感じる魔力が異常なほど大きいことだ。


 その脅威度は大体シルフィーネの一つ下ぐらいで、先ほど感じた脅威度とは全く違うという事実にシオンは混乱する。



 突然、佇んでいた暗殺者の体から蒸気が立ち昇った。


「えぇ…?」


 シオンがさらに混乱していると暗殺者の姿が掻き消える。


 と、同時に見失いながらも右手に持った氷の刀を右に振った。振り抜いた先で暗殺者の二本のナイフと衝突する。


 シオンはさらに警戒を上げて集中した。先程掻き消えたかのように見えたのはただ暗殺者のスピードが上がっただけ。


 その速さは今までとは比較にならないほどだ。


 原理や理由は分からないが、超スピードに変則的な動きを織り交ぜながら攻撃してくるせいで魔術を発動する暇がない。


「ふぅーーー…」


 間合いが空きシオンは息を吐いて集中を深めていく。


 そして再度接触。


 他の暗殺者は動かないことは確認済みなので余計な思考を割く必要が無い。

 だから目の前の暗殺者だけに集中して、四方八方から降りかかる斬撃と刺突を冷静に氷の刀で防いでいく。


 右からの斬撃を後ろに一歩下がって回避。

 左手で繰り出される刺突を半身になって避け、その左腕を狙って刀を振る。


 暗殺者はそれを体を捻じりながら躱してそのまま宙で回し蹴り。


 シオンはその回し蹴りを状態を反らして難を逃れ紡ぐ。


「『風刃』」


 一筋の風の刃は地面に着地した暗殺者に向かってその体を斬り飛ばさんとする。


 だが暗殺者は紙一重で回避した。


 しかし―――



「これで俺は負けない」


 暗殺者が目を向けた先に見えたのは無数の水球を周囲に旋回させているシオンだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る