第27話 定期試験⑦

「『氷槍』」


 一本の氷槍がキュプテス目掛けて飛んでいく。その圧倒的な速度で放たれる氷槍は先程のオークなら避けることは不可能。


―「ギュガァ!」


 しかし、流石はCランク上位の魔物なだけあってその巨体に見合わない軽やかな動きで躱されてしまった。


 だがそれは想定内。

 四人とも氷槍の一発で終わるとは微塵も思っていない。


「フッ――!」


 間髪入れずにクロエが接近して剣を一閃。

 それをキュプテスは腕を振るい、爪で剣を受け止めそのまま振り抜いた。


 その衝撃によりクロエが吹っ飛ぶ、


 が、シオンが直ぐに風魔術を発動してクロエが吹っ飛んだ先に空気のクッションを作り、クロエを受け止める。


 やはりクロエとキュプテスの間には圧倒的な体格差があるので、もっと身体強化の強度を上げないと太刀打ちできないみたいだ。


「『風刃×三』」


 そのままシオンが詠唱破棄で風刃を三本飛ばし、


「オッ、ラァァ!!」


 フレイヤが大剣に炎を纏わせながら、シオンが飛ばした風刃を炎で打ち消したキュプテス目掛けて振り下ろした。


 のをキュプテスはバックステップで回避、大剣によって大きく陥没した地面を気にせず、先の尖った尻尾をしならせてフレイヤの腹を穿とうとするが、


 ノアの土壁によって防がれる。


「あ、危ないよぉ…」


 ノアは気弱だが決して実力は低くない。

 その小柄な体から繰り出される土魔術は生成速度と魔力密度共々一級品。


 伊達にSクラスに在籍していないってことだ。


「はっ、助かったぜぇノア!」


 フレイヤはそのまま炎をキュプテスに飛ばす、


「あ、」


 が、キュプテスは火魔法を扱う魔物なのでその炎を気にせずそのままフレイヤに襲い掛かって噛みつこうとした。


 フレイヤは刹那に死んだと思ったが、


「馬鹿っ…、『氷壁』っ!」


 咄嗟にシオンが氷壁をフレイヤとキュプテスの間に形成。


 間一髪キュプテスの牙はフレイヤの十センチ前で止まった。だが咄嗟に発動したので耐久性は低く、キュプテスの鋭い牙が氷壁を徐々に貫いていく。


「―――『土縄』…!」


 その隙にノアがぼそぼそと詠唱をして土でキュプテスの四肢をつかみ取り拘束する。


 だが拘束が甘かったのか、キュプテスは四肢に絡まった拘束を引きちぎり一旦引こうと足に力を入れた、


 瞬間、


「―ギャオッ!」


 いつの間にか近寄ってきたクロエに右後ろ足を切り飛ばされバランスを崩した。


 一拍遅れて切り落とされた足から鮮血が飛び散る。


 キュプテスに限らず、機動力のある魔物と相対するときは足を狙うのが定石だ。クロエは筋力で敵わないと悟った瞬間、この一瞬を虎視眈々と狙っていた。


 クロエは自分の魔力によって切れ味が向上された剣ならキュプテスの足を容易に斬り落とすことができるという判断によるものだった。


 といっても相手はCランク上位の魔物。

 かなりの技量が無ければそのような芸当は出来ない。


 だがクロエは剣の技量なら既に熟練の域なので心配は無用なのだ。


 それでもキュプテスは周囲に炎を撒き散らそうと魔力を練ったのでクロエは飛び退くが、


「ほい、『天雨』」


 シオンの水魔術によって引き起こされた局地的な豪雨がキュプテスが練った魔力を拡散し、


「――『土槍』…!」


 ノアがキュプテスの左右の地面から石槍を発出してキュプテスの両脇を抉り、


「オッ!ラァァア!」


 フレイヤの大剣が石槍によって地面に固定されたキュプテスの顔面右半分を削ぎ落した。



「ふぃー…今回は少しやばかったぜ」


 キュプテスに背を向けてフレイヤは汗を拭ったが、他の三人はキュプテスの体が僅かに動いたのを見逃さなかった。


「フッ――!」


 一番近かったクロエが剣を一閃。

 

 魔力を纏わなくなって柔らかくなったキュプテスの首を綺麗に跳ね飛ばした。


「フレイヤ油断するな。まだ生きてたぞ」


 クロエは剣についた血と油を綺麗にして鞘に収めながら呆れたようにフレイヤに注意する。


「うっ…すまねぇ…」


 自覚があるのか何時もの豪気さは鳴りを潜めてしおらしく肩を落とした。フレイヤも今回自分が足を引っ張ったのを自覚していのだ。


 キュプテスという炎を扱う魔物に対しての火魔術の使用と最後の油断。これは脳筋だからというわけではなく、ただフレイヤが未熟なだけだろう。


 その証拠にシオンの兄のアルトは自他ともに認める脳筋であり勉学の方面は点で駄目だが、戦いという面においては違う。


 相手の分析から始まり戦いの進め方、戦闘判断や戦況判断といったものについては頭が回る。


 フレイヤもSクラスに在籍しているので最低限の頭脳はあるはずだ。

 そもそもまだ十二歳。これからの学院生活で学んでいけばいいだろう。


 そう思ってシオンはフレイヤに声をかける。


「まあ次から気を付け――――」



 その瞬間、四人は氷の球体に包まれた。

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