第26話 定期試験⑥
試験が始まり、シオン達四人は森の中を進んでいた。
「正面三十メートル先にオーク四体」
クロエが木の上に登って偵察の結果を報告する。
どうやらオークがいるみたいだ。
「了解。じゃあフレイヤとクロエで手前の二体。俺とノアは奥の二体。後は臨機応変に」
「っしゃあ!」「うん…」「了解」
クロエは剣を抜き、フレイヤは大剣を背負い、オークに向かって走った。
オークまで十メートルを切ると同時に、四体のオークがクロエとフレイヤに気が付く。
「フゴォオ!」「プギィ…」
手前の二体のオークは棍棒を振りかぶって振り下ろす、
が、クロエは半身で躱し、速度を落とさずオークに接近。
そのまま斬りつけた。
「チッ…」
しかし、傷は負わせたもののオークの厚い脂肪に遮られたので、一撃で仕留められず、クロエは舌打ちする。
その時、奥にいたオークがクロエに接近。
だが、それに気づいたクロエは焦ることなく無視して自分が仕留めそこなったオークに意識を向けた。
瞬間、クロエの横を氷槍が超速で通過。
そしてそのままクロエに接近していた奥のオークの胸を貫通する。
オークが倒れると同時に、クロエがオークの首を斬り裂き、仕留めたのが見えた。
「お疲れ。Dランクぐらいなら問題ないね」
シオンはクロエに声をかける。
「いや、一度で仕留めれなかったからまだまだだ」
「ストイックだねぇ」
そう苦笑しながらフレイヤの方を見ると、丁度フレイヤの大剣がオークの体に大きな裂傷を作り、もう一体もノアの土魔術によってズタズタに体を貫かれていた。
「弱すぎてつまんねぇ!」
「僕にはこのくらいが丁度いいよ…」
「何言ってんだよ。おめぇも余裕だったじゃねぇか!」
「イタタタ!ちょっと叩かないでよ…」
うむ。
あの感じだと意外と仲がよさそうだと、シオンは一人ごちる。
そして、フレイヤは協調性はないが、戦闘のことになると途端に連携が出来るようになるのかと感心した。
また、ノアも気弱の性格に似合わない戦闘力で、これならばこの先も大丈夫だと安心する。
「魔石取り出しちゃうからオークをここに運んできて」
シオンがそう言うと、三人はオークの巨体を一カ所に集めた。
「ほいっと『風刃』」
今回は素材を気にしなくていいので雑に切り刻んでいく。
取り出した四つの魔石を水魔術の水で綺麗にする。
「うん。これで良し。じゃあそろそろ行こっか」
「了解」
「おう!」
「うん」
そんな返事と共に、近接担当のクロエとフレイヤが先頭を歩き、その後ろをシオンとノアが続いた。
(なんかいるな…)
さっきから無魔術で周囲を警戒していたシオンは違和感を覚える。
彼が秘かに発動していた無魔術は『
この魔術は周囲の魔力を識別し、その情報を感知するというもの。
それをシオンは違和感を抱かれないように、最小限の魔力で薄く展開していたのだが……、
巧妙に隠蔽されているのからなのか、何かがいるのは分かっているが、その正体が掴めないのだ。
発動範囲はシオンを中心として半径五十メートル。
(この距離なら教師か…?)
今は試験の最中なので、成績をつけるために教師が隠れて監視をしている可能性が一番高いし、シオンもそう思った。
(ん…この先にいるな…)
そう思っていると、シオンは『
「む…この先にいるな…慎重に進め」
そのすぐ後にクロエも気が付き、後ろにいる三人に注意喚起をした。
そろりそろりと四人はできるだけ音を立てないように足を進めていく。
十数メートル歩いて、木々の影から四人は地面に寝そべっている魔物の姿を視認した。
それはライオンのような体躯に、顔に目が三つついている異形の魔物。
「(キュプテスだ)」
誰かの囁き声が聞こえる。
キュプテスのランクはCランク上位。
この森の中では一番ランクが高いであろうと予測される魔物だ。
「(キュプテスってどんな魔物だ?)」
フレイヤが小さな声で尋ねた。
彼女はいつも声がでかいが、こういう時はしっかりと音量を下げる辺り、ただの戦闘馬鹿でないことが見て取れる。
「(気を付けるのは、爪による攻撃と火魔法。それに俊敏性もあるから厄介な相手だよ)」
ノアが饒舌に解説する様子を見て、三人は驚いて目を見開いた。
が、こんなところでツッコミをする余裕はないため、一旦スルーして目の前に集中する。
「(戦術はさっきと同じ。ただ、オークとは比べ物にならない程強いから気を付けてね)」
実際、Cランク上位の魔物はかなり強い。
シオンは現在、命をかければAランク下位の魔物の単独討伐が可能なほど戦闘力がある。
だが、そんなシオンであってもCランク上位は油断をしていると余裕で死ぬレベルなのだ。
そして、恐らくシオン以外の三人はまだ単独では討伐できない。
だからより一層集中する必要がある。
しかい、血の気が多いフレイヤや、バトルジャンキーなクロエは勿論、気弱なノアでさえ目の前の強敵に心躍らされていた。
「(じゃあ行くよ)」
「「「(おう)」」」
そんな四人はクロエとフレイヤを先頭にキュプテスに向かっていったのだった。
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