第25話 一人の騎士

 Sクラスの野営地から数キロ離れた場所。


 そこには二十名の鎧を着た騎士の姿があった。


 そしてそこから少し離れたところには二名の騎士の姿が見える。



「副団長。これでよかったんですかね…」


 その中の一人の騎士が副団長と呼ばれている男に話しかける。


「まーだ気にしてんの?そんなんだと老けちゃうよ」


「それは気にするでしょう…!あんな作戦を我々は実行するんですから」


 副団長の飄々とした態度とは反対に、その騎士は気に悩んでいた。


「まー、君の気持ちもわかるよ、うん。さすがの俺でも初めて聞いたときは耳を疑ったし」


「それなら…」


「拒否権なんてあると思う?」


「いえ……」


「そーゆーことよ。俺らは上の指示に従って最善を尽くすだけさ」


 そう言って副団長の男は立ち上がり、


「君もそろそろ戻りなよ。明日は早いからさ」


 歩き去った。





「くそっ…!」


 彼はまだ自分の中で納得できていなかった。

 

 彼も理解している。

 自分は国に忠誠を誓った騎士だ。


 だから上層部の指示は絶対であり、その指示を完遂するのが自分たち騎士団である。


 理解している。


 理解しているのだが……、


「危険だろう…!まだ子供の…学園の生徒を囮にするなんて…!」


 以前、マリナが違和感を抱いたのは正しかった。


 確かにSクラスが優秀なので特別に学外試験になったのもあるが、それは理由の一つでしかない。


 その本当の理由は囮。


 正確には、帝国の諜報員、及び暗部をSクラスの生徒達を囮にして、そこを騎士団が一網打尽にする。


 そんな作戦だった。


 しかし、この作戦は上層部の全員が賛成していたわけではない。


 その中で、国王であるギルベルトは反対していた一人だった。

 それもそのはず、自分の命より大切な娘であるシルフィーネをそんな危険極まりない作戦に組み込む訳にはいかない。


 だが、いくら国王であっても私情を持ち込むことはできなかった。


 彼は一人の親でもあるが、その前に一国の王。

 文字通り、国の象徴であり、国を背負っているのだ。


 そんな自分が、娘可愛さで国の重要な決定を左右させるわけにはいかない。


 それにこの作戦はリスクもあるが、成功したときのリターンも大きいのだ。


 だからギルベルトは―――————最終的には賛成したのだった。



「これでいいのか…?」


 しかしここに一人、理解はしているが納得していない男がいた。


「いざとなったら俺が守らないと…!」


 彼の名はイグナーツ。


 正義感の塊のような男だった。


 そんな彼の存在が、吉と出るか凶と出るか―――――



 まだわからない。

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