第21話 定期試験②
しんと静まり返る教室に鳴り響くのは、ペンで文字を書く音。
現在、ここ、Sクラスでは筆記試験が行われている。
教科はまだ一年生なので数学、地理、歴史、魔術理論の四教科だけとなっていて、今は最後の魔術理論の最中だ。
入学してから初めての試験なので、勉強する範囲も狭く、試験問題もさほど難しくない。
これなら皆いい点数を取れるだろう、と早々に終わったシオンは考えていた。
「やっと終わったー!」
場面はまたもや食堂。
午前中に行われた筆記試験が終わり、無事に乗り切ったカイゼルは喜びを露にしていた。
「そんな難しくなかったとはいえ、やっぱり終わると開放感があるね」
「わかるわ。四時間ずっと集中したの初めてだもの」
シルフィーネが頷く。
教科と教科の間に休憩時間があったとはいえ、椅子に座って四時間も集中するのは誰でも疲れるのだ。
「でもこれで後は実技だけですねっ」
「誰と同じグループになるか楽しみだな!」
実技試験は四人一組で合計五グループで行われる。
内容は四人一組で森に入り、魔物を討伐、それだけだ。
しかし、当然その魔石の量とランクだけで成績がつけられるわけではない。
グループでの協調性、連携、といった他要素も含まれる。
といっても、森の魔物のランクは最高でもC。
Sクラスの生徒が四人で戦えば十分勝てる相手なので危険性も少ない。
今回の試験の本当の目的は、魔物を殺すことを経験させるのと、クラスの生徒同士の仲を深めることだろう。
「皆誰と組みたいとかってある?」
シオンが三人に聞く。
「んー…特にないわ。まあ、あなたたち三人の誰かと組めれば気が楽だけど」
シルフィーネはここ数か月で他のクラスメイトとも友達になり、完全にボッチ属性が消え去っていた。
「私はミアちゃんと組んでみたいなぁ」
「俺は誰でもいいや」
マリナとミアはあれから何度も模擬戦を行っており、勝ったり負けたり繰り返していて良いライバルとなっていた。
そしてカイゼルは色んな奴に模擬戦を吹っ掛けている。
そのおかげか、いろんな人と仲良くなることに成功していた。
カイゼルのその貴族らしからぬ性格によって、いつの間にか相手の懐に潜り込んでいるのだ。
「野営とか大丈夫かしら…」
「私、一度もそんな経験ないです…」
シルフィーネとマリナは不安そうに言う。
「思ったより難しくないから大丈夫だよ」
「そうそう!自分一人だけじゃないし周りを警戒する必要も少ないし」
シオンとカイゼルのその言葉は経験から来るものだ。
実際、野営時には二十人の生徒と数人の教師という大所帯なので、危険性はほぼない。
「二人がそういうなら大丈夫ね、良かったわ」
シルフィーネの不安そうな表情が消える。
そしてふとマリンがポツリと疑問を口にした。
「というかなんで私たちだけ例外なのでしょうか?」
「例外というと?」
「いえ、私たちの代だけいきなり外での試験じゃないですか。それは何でだろうって……」
「私たちの代が優秀だからじゃないの?」
シルフィーネの言葉にシオンとカイゼルも頷く。
「だとしてもいきなり魔物討伐なんてさせると思いますか…?」
「「「うーん…」」」
確かにマリナの疑問には一理ある。
「じゃあマリナは何だと思ってるの?」
「私にもはっきりとは分かりません。ですが…何かしらの理由があると思います」
シオンはこれまでマリナと接していく中で、彼女の思考能力が天才の域だということに気が付いていた。
軍事的にいえば参謀に相当する能力を持っている。
そのマリナが違和感があると言っているのだ。
「なんだろう…」
だが、情報が少なすぎるので何も分からず、うんうんと唸ることしかできなかった。
「まあ大丈夫でしょ!そんな大したことないんじゃない?」
カイゼルの一言で氷解する。
「それもそうか」
「私達は試験でいい成績を取ればいいのよ」
「そうだね…」
この時の疑問にもう少し深く考えておけば良かったとシオン達が後悔するのは、まだ先であった。
「やあおはようSクラスの諸君!」
時刻は朝の八時。
学園の一角でフィオナ先生のバカでかい声が響き渡る。
「これから君達は各々のグループに分かれてもらい、そのグループごとで馬車に乗ってもらう!そのグループはこれから発表するが、その前に―――」
そう言いながらフィオナ先生は後ろに立っている三人の教師へ振り替える。
「今回同行してくれる教師を紹介しよう!まあ、見知った顔もいると思うが一応全員紹介してくれ」
フィオナ先生は端へ移動すると、一番左の熊みたいな大男が口を開く。
「ご存じの通り、お前たちの剣術の授業を担当しているアグニスだ。まあ何かあったら遠慮なく言ってくれ。お前たちは試験に集中しなければならんからな」
次は眼鏡をかけたひょろっとした男。
「えー、皆とは初めましてですね。僕は今三年の魔術理論を教えてるフィクスといいます。何でも気軽に声をかけてくださいね」
そして最後は尖がった帽子をかぶっている、いかにも魔女のような女性だ。
「初めましてガキども。レニーだ。貴重な研究時間を削ってきてるんだから感謝しなさいよ」
その言葉に生徒たちは呆気にとられ、教師陣は呆れの溜息をつく。
「レニー…その言葉遣いは何とかならんのか…」
「うるさいわねフィオナ。あんたが私に頼んできたんでしょ」
「わかってるが…」
「まあ、請け負った仕事はしっかりとこなすから安心しなさい」
「……感謝する」
フィオナはレニーに頼んだこともあって頭が上がらないみたいだ。
「よし!じゃあこれから組み合わせを発表する!!」
こうして、波乱万象な実技試験が始まった。
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