深まる絆
第20話 定期試験①
学園が始まって早三か月が経過した。
その間は特に何かあるわけでもなく、座学でカイゼルが偶に寝ていたり、模擬戦はいつも大盛り上がりしていたぐらいだ。
そして今日という日が始まり、いつものようにフィオナ先生が教室に入ってきた。
「おはよう君達!うーんと、よし!全員いるな!では早速授業を始める……前に。来週に行われる定期テストの話をしよう!」
定期テスト。
その言葉を聞いてクラスの生徒たちは一気に集中する。
「まずは座学!これは今までそれぞれの担当の先生の授業でやったところが出題されるので、授業の復習をしていれば問題ない。まあ、具体的な範囲はあとでプリントを配るから安心してくれ。そして君たちが一番気になっているであろう実技!」
さらに生徒たちは前のめりになる。
「他のクラスは例年通り、訓練場で行うのだが……。君達Sクラスの生徒は特別に『キュプロスの森』で実技試験を行うことになった!」
「「「「えぇぇぇええ!!」」」」
まさかの宣告にクラスは騒然となった。
通常一年生は、全てのクラスの実技試験を訓練場で行うことが決まっている。
そして『キュプロスの森』は王都から馬車で一日走った所に位置する森だ。
そこに生息する魔物はEランクからCランク下位までといった、凄い危険ではないが、かといってぬる過ぎるわけではないといった試験を行うにあたって最適な場所だった。
「まあ理由を言ってしまえば、君たちが例年より全体的に優秀だということだ。君達の実力ならそのくらいはできると私も思っている。」
実際、今年のSクラスは非常に優秀なのだ。
首席から十席はもちろん、十一席から二十席も初めて模擬戦をして日からメキメキと実力が上がっていた。
「必要なものもプリントで配るからしっかり受け取るように!まあ連絡はそのくらいだ。じゃあ今日も張り切っていこう!」
こうしてビッグニュースをぶちまけられたまま一日が始まった。
嗅いだら腹が鳴ってしまうような美味しそうなにおいが充満する場所は、生徒たちで賑わっている。
「おー!今日もうまそうだな!」
そんな中、そう言ってガツガツと食べ始めるのは、エネルギー溢れてそうな空気を出しているカイゼル。
午前の授業が終わったシオン達はいつもの四人で食堂で昼食をとっていた。
会話の内容はもちろん、今朝聞いた実技試験の話についてだ。
「にしても実技が『キュプロスの森』でやるなんてね」
シオンが呟く。
「いきなりで驚きました…」
「私は楽しみよ。ようやく実践ができるもの」
シルフィーネはそれほど楽しみなのか、ずっと喜色の面を浮かべていた。
だが、シオンは一応シルフィーネに注意する。
「言っておくけど初めてならそう簡単にいかないよ」
「どういうことよ?」
「シルフィーネは生き物を殺したことはある?」
「ないけど…」
「なら、覚悟しておいた方が良いよ。多分気持ち悪くて吐くかもしれないから」
「そんな大袈裟な…」
シルフィーネは大袈裟だと思っているが、決して大げさではない。
シオンは自分の初めてを思い出す。
最初は彼も実践ができると思ってすごく楽しみだった。
だが、蓋を開けてみればどうだ。
魔物の迫力に圧倒され、殺気に膝が震え、魔術を発動しても恐怖でうまく当たらない。
そしてようやく殺したと思ったら、その生々しさとグロさに吐いてしまう。
今でこそ慣れたが、個人差があるとはいえ、自分が実際に殺すとなるとそうなるのだ。
「まあ、パニックになって危険に身をさらしたりしなければ大丈夫だと思うよ。それに、先生たちもついてるしね」
教師たちもそうなることは分かっているので、通常より多めに同行する予定になっている。
なのでその辺の危険は無いと思って大丈夫だろう。
「カイゼルは経験あるでしょ?」
シオンは横で黙々と口に料理を運んでいるカイゼルに聞く。
カイゼルも辺境に領地があるので、シオンはカイゼルにも経験があると考えた。
「ん…んん!…、うんあるよ?」
カイゼルは口に入っていた食べ物を飲み込んでから話す。
「初めての時はどうだった?」
「シオンが言った通りだよ。魔物と対面すると凄い怖くて足が震えちゃって動けなかったんだ」
カイゼルはその時のことを思い出しているのか、苦々しい表情だった。
「カイゼル、そうだったの?」
マリナはカイゼルも恐怖を感じたということを知らなかったようで、驚きの声を上げる。
「うん。だって、マリナには言いたくなかったんだもん」
「え!どうして…」
マリナは一瞬悲しそうな顔をするが、
「だって、恥ずかしいじゃん…」
「えっ……」
カイゼルの珍しい言葉と反応に、マリナも恥ずかしそうにもじもじする。
それを隣で見ているのはシオンとシルフィーネ。
「ねえ、シオン」
「うん、シルフィーネ」
「「あれ両想いじゃない?」」
二人の言葉が重なった。
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