第15話 これがSクラス②
「やっぱりレベル高いね」
何組かの模擬戦を見終えたところでシオンは感想を述べる。
「そうね。流石はSクラスといったところかしら」
基本的に、魔術師は魔術師と、剣士は剣士といった組み合わせだ。
魔術師同士はもちろん、兄たち(主にアル)に何故か剣術を仕込まれていたシオンは剣士同士の模擬戦の内容も理解できるようになっていた。
「次はカイゼル君とイーサン君!」
カイゼルの順番になった。
「頑張ってねカイゼル」
「負けるんじゃないわよ」
「怪我しないでね…!」
三者三様の激励の言葉を送る。
「おう!」
訓練場の真ん中で一定の距離を保って相対する二人。
「準備は良いか~?———始め!!」
開始の火蓋が切れると同時に両者とも身体強化を発動。
そのまま接近して衝突する。
イーサンより体躯が大きいカイゼルの方が有利だと思われたが―――
受け流し、躱し、と思ったらカウンターを放つ。
それをカイゼルが後ろに飛んで躱す。
「やっぱり強いな!」
「………」
カイゼルは嬉しそうに、イーサンは表情を変えることなく再び切り結ぶ。
「うぉぉぉ!!」
「———フッ」
カイゼルの袈裟切りを冷静に受け流すイーサン。
そのまま一文字斬り―――を間合いからずれて躱し突きを放ち――
半身になって避けて左逆袈裟斬りを放とうとしてキャンセル。
死角から近づいてくる蹴りを防御。
相手との距離的に剣で斬りかかるのは難しいと判断した両者は、拳をと脚を互いにぶつけその隙に距離をとる。
この一瞬の攻防でお互い理解した。
力はカイゼルが勝り、技ではイーサンが勝る。
正に動のカイゼルと静のイーサン。
「いいねいいね!」
「……脳筋が」
そういうイーサンだが、彼もまた若干口角が上がっていた。
いつもは自分より圧倒的な格上としか模擬戦をしてこなかったが、今回は自分と同等の実力者。
楽しくならないわけがなかった。
その一瞬後、示し合わせたかのように両者から魔力が激しく溢れ出す。
「『纏え―岩装』」
「『纏え―雷装』」
カイゼルの握っていたロングソードが次第に大きくなって大剣に変化し、体には岩を纏う。
イーサンは全身にバチバチと白雷が迸り、髪の毛がふわふわと揺れる。
一瞬の静寂の後、カイゼルとイーサンの剣が衝突する。
「おおォォォ!」
「ハァァァ!!」
雷魔術によって強化された瞬発力によってその軌跡は白色に光り輝き、対して土魔術によって強化されたカイゼルはの姿はまるで装甲。
一合、二合、三合、四合……
剣と剣がぶつかり合う度に雷光が瞬き剣戟が耳を
カイゼルの大剣が激しい風切り音を出しながらイーサンへ向かうが―――
「シッ―——!」
受け流しながら回転。
遠心力によって増加された斬撃がカイゼルを襲う。
「ふんッ!」
それを岩の装甲で受け止め、戻してきた大剣を横へ薙ぐが素早い動きによって躱される。
「速いな!全然当てれないぞ!」
「お前は硬すぎだ」
二人とも軽口を叩くが、互いに勝利への道筋を探していた。
「『石厳よ。集まり穿て―岩槍山』」
「っ!——」
一瞬の隙にカイゼルが紡いだ詠唱によりイーサン周辺が針山地獄と化す。
イーサンは咄嗟に高く跳躍して躱すことに成功するが、
「もらったッ!!」
カイゼルは予測していたのか、空中にいるイーサンへ向かって跳躍し大剣を振り下ろした。
「そういうことかッッ!」
カイゼルの意図を理解し、顔をしかめる。
空中なので回避しようがないからだ。
だが彼は焦っていなかった。
(いける!)
カイゼルは自分の勝利を確信していた。
どうあがいてもこの攻撃を回避できるはずがない。
そう思って全力で大剣を振り下ろすが――――
「はっ?」
結果は空振りに終わる。
カイゼルは何が起こったか理解できなかったが、一瞬イーサンが何かを蹴ったのは見えた。
カイゼルとイーサンは重力に従って地面へ着地する。
「イーサン…何をしたの…?」
「それは教えられないな。知りたいなら自分で考えてみろ」
イーサンはそう切り捨てて剣を構える。
その様子を見てカイゼルも構える。
再び始まる剣戟。
「なっ⁉」
しかしここでイーサンがあり得ない動きをした。
空中を蹴っているのだ。
驚くカイゼルだが、瞬時に空中で自分の大剣を避けた動きだと確信する。
どういう理屈でその動きをしているのか分からないが、ただ脅威だということは理解していた。
「フッ―—!」
「くっ…!」
空中でも方向転換できるので四方八方から剣閃が飛んでくる。
今はまだ『岩装』によって守れているが、このままだと押し切られるのは明確だった。
そんな状況を理解しているカイゼルは一つの思い切った選択をする。
(なんだ…?)
イーサンは急に大人しくなったカイゼルを不審に思った。
(諦めた…?いや、それはない)
イーサンはそれはあり得ないと一蹴する。
なぜなら、カイゼルの目がまだギラギラと光っていたからだ。
(わからんが…、俺のすることは変わらない。確実に勝つだけだ)
カイゼルは集中していた。
イーサンの雷光のようなスピードを目で追うのは難しい。
なのでそのリズムを覚えようとしていた。
(まだ…まだ…まだ…)
そして数秒後————
「今ッ!!」
大剣を虚空に振った。
「がッ…!」
その時タイミングよくイーサンに当たる。
カイゼルの読みが勝ったのだ。
(クソッ!!!)
刃は潰れているとはいえ、重量のある大剣で斬られたイーサンは吹っ飛びながら心の中で吐き捨てた。
そして容赦なく追撃してくるカイゼルの姿を見つけて、空中で体勢を整え、空中に作った足場を蹴って追撃から逃れた。
イーサンは自分の状態を確認して安心する。
鈍痛はするが、動けないほどではない。
そしてすぐさまカイゼルに向けて紡ぐ。
「『穿て―雷撃』」
まず一つ。
魔術の中で最速で単純な雷を放った。
その隙に、
「『我が身は雷神。宿りて敵を殲滅せよ。その名は――……。―雷神憑依』」
イーサンは代々マグエル家に伝えられてきた魔術を発動させる。
イーサンの父のような達人が使えば、通常よりあり得ないほどの強化を可能とする魔術。
だが、イーサンはまだ完璧にはできなかった。
発動を継続できるのは精々剣一振りというわずかな時間のみ。
そして消費魔力量も膨大。
だから次の一撃に賭けた。
カイゼルはそんなイーサンの姿を見て全身の血が沸き立つほどの興奮を覚える。
また、おそらくイーサンは次の一撃に賭けるはずだ、と確信した。
「『願うは大地の一振り。我が敵を穿て。我が敵を沈めよ。—岩砕ノ剣』」
発動するのは剣士が使う最高峰の土魔術の一つ。
ただ巨大に、ただ重く、まるで大地そのものが降ってくるような強烈な魔術だ。
刹那にお互いの姿を確認して―――
「おおォォォォオオ!!!」
「ハァァァァアア!!」
雷剣は天を劈くような雷鳴を迸らせ、岩剣はその巨体を落下させ――――
衝突した。
轟音を齎し、衝撃を辺りに散乱させ、土煙が充満する。
数十秒後、生徒たちが見たのはフィオナ先生に抱えられたカイゼルとイーサンだった。
それを見たシオン達は駆け寄る。
「先生!カイゼルは―――」
「大丈夫。ただの魔力切れだ」
「よかった…」
幸いにもただの魔力切れによる気絶で三人はホッとしたのだった。
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