第14話 これがSクラス①
大浴場を堪能した次の日、遂に学園生活が始まった。
シオン達Sクラスは一人も欠けることなく、教室でそれぞれの友人と会話をしている。シオンもシルフィーネとカイゼル、マリナの三人と談笑をしていた。
「皆おはよう!授業始めるから席に着け~!」
鐘がなると同時にフィオナ先生が教室に入ってくる。
「んーっと、よし!全員いるな!さて、改めておはよう君達!今日から授業が始まるんだが―――取り敢えず訓練場いこうか!」
「「「「え?」」」」
突拍子もない言葉に教室の面々の呆けた声がそろった。
「まさか初日から訓練場を使うとは思わなかったわ」
「まあでも納得の理由だけどね」
生徒同士がお互いの実力を知ったほうが良い、という理由から訓練場で模擬戦をすることになったのだ。
そしてこれはシオンの想像だが、模擬戦を通じて生徒たちの交流を深めようという裏の理由もあるのだろう。
「ようやくシオンと戦えるな!」
「そういえばなんだかんだ言ってカイゼルとは戦ったことないね」
あの社交界が終わってもカイゼルと手紙のやり取りは続いていたが、実際に顔を合わせる機会はなかった。
お互いの領地が辺境同士なので気軽に遊びに行けるような距離じゃなかったからだ。
「ちょっと!シオンは私と戦うんだからね」
「まあまあ…。別に一人だけって何て言われてないし順番にやればいいじゃん」
「そうそう!殿下も俺とやろうよ!」
「当たり前よ。ボコボコにしてあげるから覚悟していなさい!」
「楽しみだな~!」
シルフィーネの喧嘩を売っているように見えるこの発言を何も気にしていないカイゼル。
「や、やりづらいわ……」
そんなカイゼルに調子を崩されるシルフィーネ。
カイゼルは貴族に向いていないほど鈍感で性格が良い。
今のシルフィーネの言葉にも何も反応していないことが最たる例だ。
「カイゼルってあのままで大丈夫かな?」
シオンはマリナに聞く。
鈍感はともかく逆に性格が良くて悪いことは何もない。
カイゼルが貴族で次期当主でなければ。
貴族というのは時に権謀術数を計ったりなど、綺麗ごとだけでやっていける身分ではないからだ。
そして鈍感なのは特に不味い。
世間の情報、貴族間の情報、など様々なことに敏感でなければいけないからだ。
シオンはそのことが心配だった。
「カイゼルは大丈夫です」
マリナは断言する。
「……言い切るね。それほどの理由があるの?」
シオンは少し驚きながらもその根拠を聞く。
「カイゼルは底抜けのお人好しで凄い鈍感ですけど……、彼は人の悪意や敵意、害意といった負の感情を読み取るのがすごい得意なんです」
「へぇ…意外だな」
カイゼルにそんな能力があったとは、とシオンは内心思う。
「それなら大丈夫なのか」
「はい。ただ鈍感なのがちょっと……」
不服そうに言うその顔にシオンはピンとくる。
「もしかしてマリナってカイゼルのことが好き……?」
「っ――!」
その瞬間、マリナの顔が真っ赤に染まる。
「あ、あの、そんなことはなくて、えっと……」
「なるほどなるほど」
「あぁ……あの、このことは秘密にしてくださいぃ……」
初めはしどろもどろに否定していたが、言い逃れできないと諦めたのか消え入るような声で懇願してきた。
「もちろん言わないよ」
「よかったぁ……」
もちろんシオンはそんな外道なことをするつもりはない。
これは今後が楽しみだな、と思っていたら前を歩いていたシルフィーネに睨まれた。
「ちょとシオン。マリナと何話してたのよ」
ちょっと怒り気味のシルフィーネ。
「いや、ちょっとね」
いくらシルフィーネとはいえ、ついさっき言わないと約束したので答えることができない。
「いいから言いなさいよ」
「えぇ…」
シオンは考える。
シルフィーネの質問には答えることができないが、答えなかったら彼女の機嫌がすこぶる悪くなるのは明らかだ。
そこでシオンは放り投げることにした。
「そんなに聞きたいならマリナに聞いて。俺から言うことはできない」
「ふーん……まあいいわ」
若干不服そうだったが、しぶしぶ納得してくれたのでシオンはほっと一息ついたのだった。
シオン達含め、Sクラス一同は訓練場に着いた。
今回は剣術用の訓練場で授業をするようだ。
「今から一人何回か模擬戦をしていくわけなんだが、最初私が決めた相手とやってもらうぞー!」
フィオナ先生が決めた相手と最初はやっていくらしい。
「じゃあ初めは――――—」
それからフィオナ先生によって戦う相手と順番が決まった。
カイゼルは三席のイーサンと、マリナは四席のミアと、そしてシオンはシルフィーネとだった。
「ふふっ…。楽しみだわ」
「散々やったのに?」
「模擬戦は何度やっても楽しいものなのよ」
「そんなもんなのか......?」
シオンはそんなことを言っているが、自覚していないだけで内心では楽しみにしている。
お互いにワクワクしながら目の前で今まさに繰り広げらんとする模擬戦に集中するのだった。
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