第28話 手合わせ

 手合わせをすることになったシルフィーネとシオンは訓練場に向かっていたが――


「シルフィーネは強いから覚悟しとけよ?アレク」


「おいおい。シオンに勝てる奴なんて見たことないぞ」


 何故かギルベルトとアレクが付いてきていた。

 国王であるギルベルトは政務があるのにも関わらずだ。

 ギルベルトが言うには『才能がある子供を確認するのも仕事だろう』ということらしい。宰相のシュゲルが苦労している姿が目に浮かぶ。


「(陛下ってシルフィーネのこと好きなんだね)」


「(恥ずかしい……人前でやめてほしいわ…)」


「(うちの父さんもそんな感じだからわかるよ…)」


 大人二人が言いあっているのを尻目に、シオン達は自分達の父の発言に対して恥ずかしがっていた。


「シルフィーネが勝つに決まっておるだろう」


「いいや、シオンだ」


 未だに大の大人の言い合いが通路に響く。


「「(やめてくれ)」」


 同じことを呟いた二人だった。





*****





 広大な敷地に作られた、直径四百メートルほどの円状になっている訓練場。


 そこには楽しそうに次から次へと火の玉、火の壁、火の槍、………楽しそうに魔術を使うシルフィーネの姿があった。


「いつもの感覚だわ!本当に治ってる!」


 今まではこの程度の魔術でも暴走してしまっていたが、目の前の様子から見るに、本当に今まで暴走していたのかと疑うほど滑らかな魔力操作だった。


 魔術を学び始めて五年。シオンは前世の記憶があったので他の子どもたちよりアドバンテージがあったが、シルフィーネはそんなものはない。


 それなのにもかかわらず、その魔力操作、保有魔力量、素質、がシオンに匹敵している。シオンはそんな光景を見て、自分のようなズルではなく本物の天才だと再認識した。


「じゃあシオン。勘も戻ってきたし早速始めましょう!」


 嬉しそうな顔をして話しかけてくる。


「そうだね。ルールはどうする?」


「手合わせだから軽くが良いのかしら?」


「じゃあお互い怪我しない範囲でやろうか。合図は父さんにやってもらおう」


 シオンはアレクに審判役をしてほしいと伝え、お互い五十メートルほど離れる。


「おーし、じゃあ行くぞー。怪我だけは気をつけろよな。はじめ!!」


 アレクが上空に火の玉を打ち出し破裂させ、手合わせが始まった。




 シルフィーネは素早く詠唱し、『炎槍』を五本作りだして発射。

 それをシオンは『水盾』で相殺。


「『撓れ―水鞭みずむち×六』」


 火と水の接触により水蒸気が発生し、その視界の悪さを利用して『水鞭』を発動する。


 それを予測していたシルフィーネは自分の周りに『炎壁』を作り出し蒸発させる。


 シオンは魔術を発動しようとして―――――




 その場から離れる。


 その瞬間さっきまで自分がいた地面から火柱が噴き出した。


「よく避けたわね」


「このくらいは当たり前だよ『氷槍×十』」


 一本一本が致命傷の『氷槍』を的確に炎で相殺するシルフィーネだが、


「『雷撃』」


「くっ……」


 間髪入れずにシオンは雷撃を放つ。

 

 シルフィーネはそれを寸前のところで横跳びで躱し、お返しといわんばかりに『火球』を放つが『水盾』で消される。


「『炎壁』」


 シルフィーネは突破口を作るために自分とシオンの間に巨大な『炎壁』を作る。


 それを見てシオンは水で消火して――――



「『灼熱の業火よ収束し敵を穿て―業火の一撃—』」


 巨大な魔力が渦巻く。


 それを感知したシオンは瞬時に極厚の『氷壁』を展開。


 瞬間、一直線となった灼熱の渦が氷の壁と衝突。



 高温の炎が氷を融解し、昇華させ、

 氷から昇華された水蒸気は瞬く間に辺りに満ちる。


「『降り散らせ―天雨そらあめ—』」


 シルフィーネの頭上から豪雨が迸りる。


 すぐに炎で消し飛ばしたが、体を少し濡らしてしまった。


「『炎よ伝え広がれ満ちろ―炎濘えんねい—』」


 シルフィーネから前方一帯の地面が炎で満ちる。


 水蒸気が晴れてシルフィーネの目に映ったのは、同じく氷を地面に張って佇むシオンの姿だ。


「シルフィーネはまだまだいけそうだね。もう少し上げるよ?」


「上等よ!」


 その言葉が合図となり、


 地面から氷を飛び出させ、灼熱の炎により地面が融解し、風の渦が炎を打ち返し、氷の華を咲かせる。

 雷を穿ち、氷を地面に張り巡らせ、風の不可視の刃を飛ばす。それに土で防御し、炎で溶かし、炎で焼く。


 一見二人の実力は拮抗している。

 しかし、シオンは余裕そうな表情で、片やシルフィーネは必死の表情だ。


「『炎壁』!『炎槍』!『灼熱波』!」


 シルフィーネは集中の極致に至り、詠唱破棄に成功する。


 が、次第に形勢はシオンの方に傾いてく。


 少しずつ少しずつシルフィーネが押され始める。


 シルフィーネは自分の周囲を高温の炎で満たす―———


「『其れは冷域。凍らせ、全てを停止させよ。—氷結領域フリーズゾーン』」


 シオンから漂う冷気が急速に炎を沈下させていく。


「…っ!『炎纏————」




「俺の勝ちかな?」


 シルフィーネの首元にはいつの間にか地面から生えていた氷の槍が突きつけられていた。


「参りました……」


 シルフィーネが悔しそうに降参をする。



「そこまで!勝者シオン!!」


 審判のアレクが宣言した。





「悔しぃぃぃいい!!」


 悔しさのあまり地団太を踏むシルフィーネ。


「いやー強かったねシルフィーネ」


「慰めはいらないわよ……」


 恨めしそうにこちらを見るシルフィーネだが、シオンは本音だ。


「いや、うちの家族以外とだったらシルフィーネが一番強かった。久しぶりにこんなに戦えて楽しかったよ」


「嘘じゃないでしょうね……」


「本当だよ」


 そこにアレクとギルベルトがやってきた。


「シルフィーネ。素晴らしかったぞ」


「お父様…でも負けてしまいましたわ」


 そんな会話を横目にシオンはアレクと話していた。


「シオンどうだったシルフィーネ様は」


「強いね。俺を抜いたら世代最強じゃない?」


「ははは、シオンを抜いてか」


「そりゃね、俺が負けるわけないから」


 シオンの言葉は傲慢に聞こえるかもしれないが事実だ。

 シオンはすでに王国魔術師団と同じ力量があるので同年代に負けるわけがない。


 本気じゃなかったとはいえ、シルフィーネはシオンと互角に戦えたのだ。それだけでシルフィーネの強さが分かる。


「学園は楽しみになったか?」


「さらにね」


 こうしてシオンとシルフィーネの手合わせが終わった。



 これを見ていた騎士や使用人から話が広がり、一時期話題となったのはここだけの話だ。

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