第27話 魔道具作り②
このイヤリング型の魔力封印の魔道具は、形を作るのはあまり難しくない。
魔石とイヤリング本体に錬金術で術式を刻み込む作業が難しい且つ時間がかかる。
シルフィーネは製作が終わるまで側にいると言っていたが、数時間見ているだけなのは退屈なはずなので、それまでは違うところに行ってもらっていた。
まずミスリルを高温で熱し、液体にさせる。
このミスリルという金属は魔力伝達のラグがほとんどゼロに近く、すべての金属の中で一番伝導率が良いと言われているので用途は多岐に渡るのだ。
液体にさせたミスリルに魔力を流し込み、イヤリングの形にある程度整え、次に魔物の素材に取り掛かった。
*****
製作開始から四時間、自分のとそっくりなイヤリング型の魔道具が出来上がった。
銀色のミスリルの装着部分に、一粒の魔石の黒色、そのすぐ下にはシルバーウルフの白色の毛がついている。
後はシルフィーネの魔力を通してもらえば、体内魔力の半分をを封印する。
「完成したよ」
シオンはいつの間にか部屋にいたシルフィーネに告げる。
「本当!これがそうなのね!」
犬のごとく素早く寄ってきてシオンの手元にあるイヤリングをまじまじと見る。
「これを左右どちらかの耳に装着して魔力を流してみて」
手に持っていたイヤリングをシルフィーネに渡す。
「わぁ……!」
おずおずと受け取ったイヤリングを見て嬉しそうにはにかみ、シオンと同じ左耳につける。
「ひゃっ!」
勝手に装着されて驚きで声を上げる。
「別に驚いたわけじゃないんだからね……」
恥ずかしいのか、無理がある言い訳をするシルフィーネ。
ここでからかっても面白そうだが、やめておいた。
「自動で装着する術式を組んでるから外れる心配はないよ。外したかったら魔力を流して外すと念じれば外せるから」
「ほんとだ…凄い…」
実際にシオンがやって見せるとシルフィーネもそれに倣って外したりつけたりしている。
「じゃあつけた状態で魔力を流しながら『—
「わ、分かったわ…『—
戸惑いながらもシルフィーネは魔言を口にする。
「え?え?魔力が少なくなってる……」
シオンが魔視を使い見てみると確かに膨大な魔力が半分に減っていた。
失敗したとは思わなかったが改めて成功したのを見ると安心する。
「成功だね。これで暴走しないよ」
そういってシルフィーネの顔を見ると―――――
ぐしゃぐしゃになっていた。
涙や鼻水で。
「な、何で泣いてるの⁉」
突然泣き出したシルフィーネに動揺するシオン。
「だ、だっでぇぇ……きゅうにまじゅつつかえなくなって…いっしょうつかえないままだとおもってぇ……うっうっ…」
「姫様…よかったですね…」
今まで相当な不安をずっと抱えていたのだろう。
その不安がなくなり、今までため込んできた感情が一気に溢れたのだ。
シルフィーネが泣き、リンが宥め、シオンがオロオロする。
そこにはカオスな空間が出来上がった。
「改めて本当にありがとうシオン」
あれから十数分後泣き止んだシルフィーネは感謝の言葉を口にした。
「どういたしまして。これで元通りに魔術が使えるから」
「うん。あ、そうだシオン!お互いに魔術見せ合おうよ!」
「魔術を?」
「シオンの魔術見たいなって思ったから…」
「別に良いけど……じゃあその後軽く手合わせしない?シルフィーネ相手ならある程度全力でできそうだし」
「いいわね!あ、先にお父様のとこに行かないと」
「あ、そうだった。じゃあ行こうか」
そのまま訓練場に行く勢いだったが、シルフィーネの言葉で思い出す。
そしてシオン達はギルベルトのところへ向かった。
*****
「お父様!完成しましたわ!」
シルフィーネは部屋に入るなり開口一番に言った。
部屋の中ではまだシオンの父であるアレクサンダーがいた。
「おお!よかったなシルフィーネ!」
ギルベルトが嬉しそうにシルフィーネの姿を見る。
今までのどこか不安が見えるころの姿は跡形もなく、今は希望に満ち溢れているようだ。
「お、結局シオンと同じ魔石にしたのか」
「お友達になった記念にお揃いのにしようと……」
はにかみながら嬉しそうに父に報告するシルフィーネ。
そんな娘と父のにぎやかな会話の外でシオンとアレクは空気だった。
「なぁシオン…。いつの間に友人になったんだ?」
ぽつりとアレクが呟く。
「どうやらシルフィーネには今まで友達がいなかったらしい」
「だから友人になったのか?第二王女と……。しかもため口だし…」
いずれ仲良くななるだろうなと思っていたアレク。
しかし予想に反してこの数時間だけで王女と友人になった息子に少しばかり呆れる。
「でもシルフィーネは俺と同等の魔力があるし火属性の素質が八もあるからね」
「お前から見てどうだ?」
自惚れではなく、シオンは自他ともに認める魔術の天才だ。
前世の記憶というチートがあるが、前世ではそんなものなかったのでそれはあまり魔術には関係ない。
そんなシオンにアレクは聞いているのだ。あの王女はどうなのかと。
「天才だね。将来は最低でも魔術師団団長にはなれるでしょ。いや、個の力が強すぎるから組織には属さないほうが良いかもね」
「そんなにか……」
アレクはシオンの推測に唖然とする。
本人には言っていないが、全員が実力者のフォードレイン家の中でも圧倒的な才能がシオンにはあると常々思っていた。
アルやレイも勿論才能はある。
しかしそれは理解の範疇に収まる才能だ。
比べて、シオンは理解できるという領域を完全に逸脱している。年齢の割に大人びた思考、発想の柔軟さ、努力の継続……。
どれをとっても素晴らしい才能だが、天才だと思ったのは新しい魔術を作り出すということだ。
王都に来る途中で見せた重力という概念を使った魔術。
シオンは概念さえも生み出し、言語化したのだ。
その知識を前世の記憶のおかげだということを知らないアレクは、そんなシオンのことを本当の天才だと思ったのだ。
話を戻すとそんな天才のシオンの口から"天才"という言葉が出たのだ。
それはもう唖然するだろう。
「まあ…仲良くな」
「勿論。同年代でこんな才能がある人がいてよかったよ」
この後、シルフィーネから手合わせをするということをギルベルトに報告し、訓練場に向かった。
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