第26話 魔道具作り①
煌びやかでありながらも荘厳さを感じさせる王城の目の前に来るといつ見ても圧倒される。
馬車に揺られること数分。
王城の入り口につき、以前案内してくれた使用人が待っていた。
「おはようございますフォードレイン辺境伯様、シオン様」
王城の使用人らしく美しい礼をとり、シオン達を案内する。
今日、母であるセリーはゼルダスの妻オフェリーに久しぶりに会ってくると言ってたのでここにはいない。
案内された所は昨日と同じ部屋だった。
相変わらず高価そうなティーカップに紅茶が目の前に用意され、一口飲む。
舌が肥えているわけではないので、他のと比べても香りが多少良いということぐらいしかわからない。
紅茶を飲みながらのんびりしていると誰かが部屋に入ってきた。
「昨日ぶりだなアレク、シオン」
親しげに話しかけてくるのはこの国の国王であるギルベルト。
そして昨日とは違い、ギルベルトの後ろに炎のような綺麗な赤髪を持つ女の子がいた。
(あの子が第二王女なのかな)
「おっと、挨拶が先だったな。この子は俺の娘で第二王女のシルフィーネだ」
「初めましてシルフィーネです。今日は私のために来てくださって感謝します」
流石は子供といえども王族だ。
立振る舞いや挨拶が他の貴族令嬢とは格が違うことを感じさせる。
「お初にお目にかかります殿下。アレクサンダー・フォードレインと申します」
「お初にお目にかかります殿下。シオン・フォードレインと申します」
シオンとアレクがそろってお辞儀をし、挨拶をする。
「うむ。時間が勿体ないので早速シオンには作ってもらおう」
「畏まりました」
「ではシルフィーネ、連れて行ってあげなさい」
「え⁉お父様⁉」
シルフィーネはさっきの態度が崩れ、素が出てしまう。
「まだ魔石は決めてないのだろう?一緒に決めるといい。シオンもかまわないね?」
「は、はい…」
ギルベルトからお願いという名の命令を受けて、シオンはシルフィーネと二人きりになることが確定したのであった。
*****
(気まずい…)
あの部屋を追い出されてシルフィーネがずんずん先へ行く。
シオンとシルフィーネの間には一言も会話がなかった。
「ねぇ」
「なんでしょうか殿下」
急に立ち止まってシルフィーネが後ろを向いたままシオンに声をかける。
「殿下っていうのやめて」
「え、しかし…」
「シルフィーネって呼んで」
「シルフィーネ様」
「様も禁止。あと敬語も禁止」
「え……」
いきなり次々と禁止令が出された。
流石に王族相手にため口は不味いと思っているが……
「シオン様。姫様は茶会など興味もかけらもなかったので友人がいないのです。ですからどうか姫様のためと思って下さると嬉しいです」
シルフィーネのお付の侍女からトンデモ発言が飛び出した。
「ちょ、ちょっとリン!何言ってるのよ!」
「何を言ってるって……姫様も昨日『ねえリン。私あのシオンっていう子と仲良くなれるかしら?大丈夫よね?』って言っていたじゃないですか」
「っ………!リン!」
更に侍女のリンに暴露されたシルフィーネは顔をリンゴのように真っ赤にした。
シオンが仲がいいんだなと思っているとシルフィーネの顔がぐるんとこっちに向く。
「忘れなさい…」
「え?」
「忘れなさいと言ってるの!今ここでリンが言ったこと!全て!」
相当恥ずかしかったようで王族の振舞などどこかにすっ飛んで取り乱している。
「返事は?」
「前向きに検討することを善処します」
「それ絶対忘れないじゃない!よく役人が言ってるの知ってるんだから!」
どうやらこの世界でもこの文句は通用するらしい。
そんなことに感心しながら、このままからかっていると噴火しそうなので鎮圧することにした。
「わかりました。忘れますよ」
「ふん。はじめからそういえばいいのよ。それから敬語禁止!」
「わかり…わかったよシルフィーネ。これで不敬罪とかやめてね?」
「もうっ!そんなことしないわよ!」
長い赤髪をばさりと風を切らせて改めてこちらに向く。
近くで見ると猫のような大きな目にすらっとした鼻筋、ピンク色の薄い口はとてつもない美少女だということを強制的に認識させられる。
シオンがそんなことを思っているとシルフィーネがまじまじとこちらを見つめてくる。
「どうかした?」
「作ってくれる魔道具ってそのイヤリングよね?」
「そうだよ別の形がいい?」
「ううん。それが良いわ」
そういって再び歩き始めた。
*****
「ここよ」
そういってシルフィーネは王城の中心部から少し離れたところに位置する一角へ案内した。
警備をしていた一人の騎士がこちらに近づいてくる。
「シルフィーネ様。その方が……?」
怪訝そうな眼をして問う。
「ええ、私のために魔道具を作ってくれるフォードレイン辺境伯家のシオンよ」
それを聞いた騎士は慌てて頭を下げた。
「っ…。失礼しました!無礼をお許しください」
「いえ、俺のような子供が作るといっても普通は怪しいですもんね」
「寛大なお心に感謝します。ではこの先にあるのでご自由にお使いください」
シオンは日本での常識がまだ抜けていないので未だに大人が子供に頭を下げるということに慣れない。
少しむず痒さを覚えながらもシルフィーネの後についていく。
試験管、薬品、魔物の素材、錬金術書……
施錠されたドアを開いて入った先にはいかにも錬金術の作業場のような部屋だった。
「お父様が材料は用意してあるって言ってたわ」
確かにこの魔道具を作るのに必要な、ミスリル、シルバーウルフの毛、Aランクの魔石が複数ある。
「しっかりそろってるね。魔石はどれにするか選んだ?」
ここには沢山のAランクの魔石があるので選び放題だ。
「これとこれで迷ってるのよ」
そういって手に持って見せてくるのは、おそらく俺と同じブラックオーガの魔石と青色の魔石だ。
「どっちにする?」
正直なところどちらでも似合うとは思う。
「(シオン様。恐らく姫様はシオン様と同じ色にしたいけど、変に思われないか不安なのだと思います)」
侍女のリンがシオンの耳元でコソコソと囁く。
「(そういうのって王族的に大丈夫なの?)」
「(大丈夫でございます。陛下も了承済みです)」
規則的には問題ないらしい。陛下も了承しているなら更に問題ない。
「シオンはどれが良いと思う?」
さてどうしようか。
俺と同じ色を提案してもしり込みしてしまう可能性があるので何か名目が必要だ。
「シルフィーネって俺と友達?」
「え、うん……私はそう思ってるけど……違うのかしら…?」
不安そうな表情をしておずおずと上目遣いをしてくる。
やはり美少女がやるととてつもない破壊力がある。これを受け流せるものなどいるのだろうか。
「俺も友達だと思ってるよ。だからその記念に俺と同じ色の黒色の魔石でどうかな?」
その瞬間シルフィーネはとても分かりやすく満面の笑みを浮かべる。
「そうよね!じゃあこれにするわ!」
「(姫様……ようやくお友達が……)」
リンの囁きは聞こえないふりをして、シオンは早速作業に取り掛かった。
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