第29話 帰還
シルフィーネのための魔道具も無事作り、レインフォード家は領地に帰還することになった。
昨日、ハーデン家がうちにあいさつしに来た時にカイゼルが、
―—「学園まで強くなっておくからな!!」
と宣言をしてきた。
カイゼルのことはアル兄さんと似ていることもあって好ましく思っているので、学園に入学するのがさらに楽しみだ。
彼はきっと強くなることだろう。
そして領地に帰ろうと荷物を纏めていたら慌てている様子のリコがやってきた。
いや、慌ててるのはデフォルトか。
「し、シオン様!第二王女殿下がいらっしゃいました!!」
「シルフィーネが…?」
何が目的で会いに来たのかわからないが、玄関にいるらしいので急いで向かう。
玄関にいたシルフィーネは、いつものよりとても地味な服装をしていて、顔と髪の毛を隠せば王族には見えない。そして、後ろには侍女のリンが控えていた。
「シルフィーネ、いきなりどうしたの?」
シルフィーネはこちらに気が付くと猫のような眼を釣り上げた。
「シオン!どうして今日帰るって言ってくれなかったの⁉」
どうやらシルフィーネは今日帰ることを知らなかったみたいだ。
「あーごめん…既に知ってると思ってたんだよ」
「知らなかったわよ!さっきお父様に聞いて急いできたんだから!」
そしてプリプリと怒っているシルフィーネは途端に表情を曇らす。
「本当に帰っちゃうの…?もう少しいることはできない…?」
「流石にできないかな。もともと今回は社交界に参加するために来たんだし」
「そっかー……」
子猫みたいにしょんぼりしているシルフィーネを見ると、つい残ってあげてしまいたくなるが……。
「姫様、わがまま言って困らせてはいけませんよ」
「わかってるわ……でも、せっかくお友達ができたのに…」
シルフィーネにとってシオンは人生で初めてできた友達である。
さらには自分より強い。
そんなシオンに対して恋慕こそまだ抱いていなかったものの、親愛や尊敬、憧憬の念は抱いていた。
シオンも初めて自分と対等に渡り合える存在であるシルフィーネのことは好ましく思っている。勿論シルフィーネが美少女だということもあるが。
「領地に帰ったら次会えるまで手紙を送りあおうよ」
「手紙…?」
「そう、何をしているかとか、魔術の鍛錬はどんな感じかとか」
「絶対送ってくれる…?」
「うん」
「じゃあひと月に一回送ってよね」
「ひと月に一回⁉」
「なによ…。それで我慢してあげるんだから感謝しなさいよね」
「う、うんわかった。ひと月に一回送るよ」
到底拒否できる雰囲気ではないので、つい了承してしまう。
まあ、手紙を書くだけなのでそんなに大変ではないと思った。
「じゃあ次会うのは学園だね」
「それまで精々鍛錬を怠らないことね。学園の首席は私よ」
強気に首席宣言をするシルフィーネ。
やはり魔術だけでなく座学も優秀なのかとシオンは感嘆していると、
「姫様。そんなこと仰っていますけど、勉学は苦手でしたよね?」
「え、ちょっ」
「この前も逃げだしていたじゃないですか」
「ちょっとリン!それは言っちゃダメでしょうがぁぁぁ!」
羞恥心で顔を真っ赤にして怒るシルフィーネ。
「え、それなのにあんな強気だったの?」
シオンは純粋に疑問を唱えたが、今のシルフィーネには火に油を注ぐような言葉だった。
「うるさいうるさい!とにかく!怠けていると私が首席を奪うって言ってるのよ!」
「勉強は?」
「う……これから頑張るわよ…ええ、これから頑張ればいいのよ!」
「姫様、立派でございます」
シルフィーネが勉強を頑張ると言い、リンはおよよと泣きまねをする。
「じゃあ私はもう帰るから!」
そういってずんずんと外へ歩いていき――――――
「改めて私を救ってくれてありがとう。手紙…楽しみにしてるわ」
そういってシルフィーネは真っ赤になりながら走り去っていった。
*****
王都からの帰りは何も問題が起きなくて平和そのものだった。
社交界に参加してさっさと帰る予定が、決闘やら国王の依頼やらでだいぶ遅くなってしまった。
しかし、国王から魔道具を作った報酬として、現在使っているローブより格段に良い性能の魔術師のローブを貰ったので良しとした。
因みに決闘で負けたグスタフは貴族の身分を剥奪され平民になり、その父親のゲルガー侯爵は息子の後始末に追われ、さらにはこのことがきっかけで不正していることを国王に暗に警告されたらしい。
そんな波乱があった王都の旅はここにて終結した。
―————————————
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次章は学園編です。
シオンとシルフィーネの関係がこの先気になる!と思ったり、学園ものが好きな方は是非★評価とフォローをお願いします。
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