第23話 馬鹿貴族との決闘
馬鹿貴族に難癖付けられた挙句、決闘騒ぎになった翌日、俺は王城に来ていた。
これからゲルガー侯爵家長男グスタフとの決闘が行われる。
「父さん、グスタフって実際強いの?」
隣にいる父に聞く。
昨日のグスタフの自信満々な態度を見て、少し疑問に思ったのだ。
「実際のとこは知らんが…どうやら火属性の素質が高いらしい」
「素質が高いってことは七ぐらいあるってこと?」
「いやいやそれはないと思うぞ」
「え?素質が高いんでしょ?」
「あー、たぶんシオンの認識が違うのか。素質が七って限りなく少ないからな?」
今まで自分の知っている人たちが両親と兄たちだけだったので感覚が麻痺していたようだ。貴族の中でも素質の平均は四から五で、六もあれば十分才能があるらしい。
「そういえばそうだ。うちの家族基準で考えちゃった」
「素質が六もあれば国に仕えてる魔術師の中でも上の方だ。まあ、シオンには関係ないと思うけどな」
「慢心はしないけど、素質が七とか八じゃない限り大丈夫かな」
さすがに素質が七、八もあってしっかり鍛錬していると負けはしないが簡単に勝つのは難しい。素質が一つ違うだけでかなりの差がある。
「ゲルガー侯爵はあまりいい話を聞かないから徹底的にやっていいぞ」
「そんな良くない家なの?」
「証拠がないから何も言えないんだけどな」
父が顔をしかめて言う。
どこの世界でも貴族といった特権階級による黒い行いはあるのかと納得する。しかも侯爵家なので貴族階級でも上位だ。なので簡単に証拠を出さないし、裁けない。父も何か思うことがあるのだろう。
会話をしているうちに決闘する王城の訓練場へ着いた。
ここは騎士たちが鍛錬したりする場所なのでとても広く場所をとっている。
「なんでこんなに人がいるの……」
「あれだけ目立ってたから当たり前だろう。皆興味があるんだぞ」
訓練場につくと、周りに数多くの人達がいる。この全員が今回の決闘を見に来たのだと思うと少し胃が痛い。
「決闘の武器って自前のを使っていいの?」
「ああ、模擬戦では駄目だが決闘では使って大丈夫だ」
「契約武器も使っていいってことだよね?」
「あー…大丈夫なはずだ」
といったはいいものの正直この決闘で契約武器を使うつもりはあまりない。
いや、使う必要がないといったほうが良いだろう。
契約武器を使うとすれば、基本的に自分と同格か格上との戦闘だけにしようと決めている。そうしないと魔術の腕が上がらないからだ。
人混みを掻き分けて中心部に出ると、グスタフが腕を組んで待っていた。
「ふん、逃げ出さなかったのは褒めてやろう」
「ええ、勝てる決闘を逃げ出すわけないでしょう」
ここでさらっと挑発するのがこの先有利に進めるコツだ。決して馬鹿にしてその反応を楽しみたいといった理由ではない。決して。
「貴様……覚悟しろよ…」
額に青筋を立ててこちらをにらんでくる。
一発触発になりそうになったところに、国王がやってきた。
「静粛に!これからゲルガー侯爵家長男グスタフとフォードレイン辺境伯家三男シオンとの決闘を始める。ルールは相手の意図的な殺害以外だったら何でもありだ」
グスタフとシオンはお互い三十メートルぐらい離れる。
グスタフの装備は高そうなプレートアーマーにこれもまた高そうな剣だ。それに対してこちらはいつもの魔物討伐の時の恰好である。そして素手だ。
「…おい、武器は持たないのか?」
「素手で十分ですよ」
最後にここぞとばかりに挑発する。
グスタフの顔が憤怒に染まって爆発しそうになり――――
「はじめ!!」
国王が決闘の開始の合図をする。
「『炎よ。巨大な球となり爆発せよ―火球』!」
詠唱とともにグスタフの前方に直径一メートルほどの火の玉が形成され、高速で飛んでくる。
「『水盾』」
魔術名だけ口にして自分の前方に水の盾を形成し、完全に防ぐ。
防がれたと気づいたグスタフは、『火矢』を十本同時に形成し時間差で飛ばしてくる。
素質が六なだけあってなかなか優秀だなと感じた。
『火矢』を発動した後、グスタフが身体強化を使って接近してくるのを見て、まずは『水盾』で『火矢』を防御。それから無詠唱で通常の五倍の魔力を込めた『突風』をグスタフの前だけに発動する。
「グアッ…!」
無詠唱で発動された『突風』をまともに受けてグスタフは十メートルほど吹っ飛ぶ。
ここで追撃を駆ければここで終わる。
しかし今回は最初は攻撃するつもりはない。
相手に攻撃されたものを全て防いだうえで叩きのめすと決めているのだ。
「どうしたグスタフ。これで終わりか?」
敬語でしゃべるのが面倒くさくなったのでため口に戻す。
「調子に乗るなァァァ!!」
「へぇ…」
怒りによってグスタフの魔力が身体から漏れ出て、その魔力が火属性に変換されて体に炎を纏っている状態になる。
「『炎よ。我が剣に宿れ―火炎剣』!」
剣にまで炎を纏わせてさっきよりも速いスピードで突っ込んでくる。
「『反発せよ―斥』」
「ガッ……クソが!」
『斥』、これは重力魔術の一つ。
一定の空間に薄く相手と反対のベクトルの引力を形成し、疑似的な斥力場を発生させる魔術だ。これのいい所は視覚に映らないことにある。
不可視の斥力の盾に衝突したグスタフは諦めずに切りかかってくる。
(つまんね……)
さっきからやっていることは、グスタフが切りかかってくるのをいろんな魔術で防ぐ。
それだけだ。
「くそっ…!くそ!」
なんだかボロボロになりながらも切りかかってくるグスタフを見てかわいそうだと思ってしまったので、ここで終わらせることにした。
「『氷霧よ。集いて穿ち、咲き誇れ―氷槍華』
地面から氷の槍と華が融合された広範囲の魔術が発動する。
さすがに殺す気はないので槍の穂先はすべて丸くしてあるが―――
「グオッ……!カハ……」
凄まじい勢いで地面から飛び出した氷の槍はグスタフの体を吹っ飛ばし、気絶させた。
訓練場の真ん中に咲く氷の槍の華。
今にも気絶しそうなゲルガー侯爵以外の貴族は、グスタフが気絶したというのにその美しさに見入った。
「んん!!この決闘はシオン・フォードレインの勝利とする!!」
国王が俺の勝利を宣言したのをきっかけに喧騒が生まれる。
巻き込まれたくない俺はすごすごと父と母の元へ避難した。
「圧勝だったなシオン」
「兄さんたちとさんざんやってたから相手にならなかったよ」
実際二人の兄とやるときは本気を出さないとすぐに負ける。
その時の緊張感に比べると酷く退屈だった。
「けどシオン。退屈だとは言え決闘中につまらなそうな顔をしちゃだめよ?」
「え、顔に出てた?」
「ええ、分かりやすかったわよ」
「ハハハ!まあ気持ちはわかるけどな」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。でも相手が弱くて退屈だったのがいけないんだと自分を正当化することにした。
「これで帰れるんだね」
決闘自体はたいして疲れなかったが、精神的に疲れたので、さっさと帰って自分の部屋で寝転がりながら本を読みたい衝動に襲われる。
「ああ、俺とセリーはゼルダス達と一緒にこの後王城にいる友人に会いに行くが、シオンは好きにしてていいぞ」
「ゼルダスさんもってことは学園の時の友人?」
「おう、お互い忙しくてな中々会えなかったんだ」
「へー」
その友人は偉い人なのかなーと考えながら屋敷に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます