第22話 社交界②
突然、侯爵家の長男が決闘宣言をしたので会場は騒然となる。
「決闘……?」
「(ねえシオンこの人頭大丈夫なのかな)」
カイゼルもこの言いっぷりである。
「貴様らに拒否権はないからな!!」
しかも拒否権無しときた。
貴族間での決闘はただの手合わせと訳が違う。故意に殺すことは禁止されているが、事故で相手が死んでしまっても罪に問われない。そして、その決闘では両者ともに何か賭ける必要がある。
この決闘という制度は馬鹿馬鹿しいと昔に自然に消えていっただけなので決闘自体がなくなったわけじゃない。
そして決闘を持ちかけられて断るというのは、逃げていると思われる。なのでこれを受けないという選択肢はないのだ。
父と母の姿を見つけ目が合う。
目で助けを求めると、父と母はそろって親指で喉を切る仕草をした。
(ああ…売られた喧嘩は買えってことか……)
どうやらうちの両親は好戦的なようだ。
「わかりました。お受けしましょう。」
「え⁉シオン⁉」
俺が了承するとカイゼルが驚いた声を上げる。驚くのもしょうがない、普通こういう時は親が止めに来る。しかしうちの両親はちょっと頭がおかしいので、やっちまえというスタンスなのだ。
「ふん、潔いことは認めてやる。俺が勝利したら貴様ら二人は一生俺の奴隷だ」
(ほんとに侯爵家長男なのかこいつ)
だんだん馬鹿らしくなり、こいつに思考のリソースを裂くのが勿体ないので無視することにした。
「では私が勝利したら……そうですね…貴族の身分を平民に落としてもらいましょう」
おそらくこういう奴は小さいころから甘やかされて育って、何でも自分の思い通りになると思っているのだ。そして貴族という身分に執着し、平民を見下している。
ではこういう奴は何をされたら一番嫌がるのか。
それは自分が見下している平民という身分の仲間入りをすることである。こいつは貴族である自分だから何しても許されると思っているので、平民に身分を落ちることは自分の根幹が無くなるのと同義だ。
「なっ…それは…」
グスタフは平民に身分が落ちるということを聞いて臆した。
「あれ?もしかして負けるのが怖いんですか?」
ここぞとばかりに俺は煽る。
「調子に乗るな貴様!いいだろう受けてやる!」
思い通りに行き過ぎて口角が上がりそうなのを必死に抑える。
周りは夜会から決闘に発展するという前代未聞な事態に騒めいている。
―——「静まれい!!!」
突然の一喝に会場全体が静まる。
「国王様……!」
「陛下…!」
どうやらあの人は国王らしい。
幅の広い階段を上った先に登場した国王はまだ二十代で国王としての経験はまだ浅いが、清廉さと威厳さを兼ね備えているように見える。
「先ほどの話は聞かせてもらった。ゲルガー侯爵家長男グスタフとフォードレイン辺境伯三男シオンの決闘を認める。場所は王城の訓練場を使うことを許可する」
なんと国王主導で決まってしまった。
そして貴族たちの中に一人、明らかに顔色が悪い貴族がいる。恐らくあの人がゲルガー侯爵当主なのだろう。
(ああ、災難だろうなー)
と、のんきに思うのだった。
*****
夜会が終わり、うちの両親とハーデン一家でお茶をすることになった。
うちの母とカイゼルの母は別室で談笑中だ。
「シオン大丈夫なのか?」
カイゼルが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫大丈夫、あんな奴には万が一にも負けないよ」
俺が自信満々なのはグスタフの体内魔力量が、俺の施錠している状態の体内魔力量の十分の一以下だったからだ。それに、自分でいうのもなんだが同年代で俺に勝てる貴族令息令嬢はほぼいないと思っている。
「シオン君は随分自信があるんだね」
少し驚いた表情をするゼルダス。
「まあ物心ついてからずっと魔術の修行をしてましたし、うちの両親があれですから……」
「ああ…なるほど…」
どうやらうちの両親の好戦的な性格は知っているようだ。
「何を言っているんだシオン。お前も俺らと同類だぞ」
「いやいや…そんなわけ…」
「実際楽しみなんだろう?俺にはわかるぞ」
父が核心をついてくる。
事実、俺は同年代の相手とはやったことがないのでずっとやってみたいと思っていたのだ。けど父に理解されるのは複雑な気持ちである。
「……まあ、同年代の子供がどの程度か見てみたかったからね」
「なるほど…シオン君もフォードレイン家ということか……」
ゼルダスが少し遠い目をする。
いやいや勘違いしないでもらいたい。俺はそんなに好戦的ではない。少し好奇心があるだけだ。
「シオン!今度俺と試合しようぜ!」
「いいね、カイゼルは強そうだから楽しみだな」
カイゼルの体内魔力量は、俺の今の体内魔力量の七割ほどだ。それに歩く時の重心も綺麗だったので相当鍛えてることが分かる。同年代では間違いなく上位に入るだろう。
「シオン、明日は周りの貴族たちにお前の魔術を見せつけてやれ」
「でも全力でやったらすぐ勝っちゃいそうだけど」
「まあそこはシオンの工夫次第だ。なんか考えてみろ」
「はーい…。というか俺が負ける想定はしてないんだね」
「当たり前だろ、お前が同年代に負けるなんてありえん」
そう言い切った父に感心してしまうと同時に、俺のことを信頼してくれているのを感じてむず痒くなる。
「俺はシオン君が明日何を見せてくれるか楽しみだな」
そう言って楽しそうなゼルダスにシオンは微妙な気持ちになる。
(実際どうしようか……。まあ何とかなるっしょ)
意外と行き当たりばったりなシオンだった。
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