第12話 スタンピード④

 シオンが広範囲に雷の魔術を使い、Dランク以下の魔物たちはほぼすべて倒れる。


 今のシオンの体内魔力量はいつもの二倍なので、魔力切れはあまり心配する必要はない。


 しかしまだCランクとBランクの魔物がいる。


 シオンはいままでBランクの魔物とは相対したことはなかったので経験不足で慎重にならざるを得ない。


 そして目の前にはCランクの魔物が五体とBランクの魔物が二体いる。


 Cランクの魔物はオークジェネラルが二体、クマのような見た目のアーマーベアーが三体でBランクの魔物は二体ともオーガだ。


「アル兄さんどうする!?」


「Bランクは片方受け持つ!もう片方は頼むぞ!Cランクは騎士たちに任せとけ!」


「わかった!気を付けて!」


 そう言ってアルはCランクの魔物をすり抜けながら片方のオーガに接近する。


 それを見たほかの魔物がアルに標的を移したようなので、氷の壁を無詠唱で発動させ、アルとオーガの一騎打ちの邪魔をさせないようにした。


「騎士の人達はCランクの魔物をお願い!」


 そう言い残し、自分ももう一方のオーガに『氷槍』を飛ばす。


 しかし流石はBランク。時速二百キロを超える『氷槍』を余裕で見切ってよける。


 そして間髪入れずにオーガが突っ込んでくる。

 魔術師は近寄られたら負けなので距離をとる戦い方をしなければならない。


「『沈め―泥沼どろぬま』『纏え、凝固せよ―土鎧つちよろい』」


 地面を泥に変えて足止めをし、その泥を体にまとわせて固め、身動きをとれなくさせるが、かなり魔力を込めたそれを筋肉だけで破られてしまう。


「この脳筋めっ……!」


 このままじゃ接近されてしまうので身体強化を使い距離をとった。


 しかし思ったより素早く動かれたので魔術を使う暇がない。


 オーガが手に持っていた巨大な石斧をこちらに向かって叩きつけるのを間一髪で横跳びをして逃れる。


「ちっ…!早い…!」


 身体をとらえそこなった石斧は地面を穿ち、クレーターを作る。

 もしまともに当たったらミンチにされそうだとくだらないことを考えたが、すぐに思考を切り替えた。


「『風よこの身に纏え―風纏ふうてん』」


 身体に風を纏わせて機動力を上げる魔術を使いオーガの接近を躱していく。


 しかしこのままでは埒が明かない。


 なのでシオンは出し惜しみをしないことにした。


「『飛翔』」


 そう、追われるなら物理的に追えない所に逃げればいいじゃない作戦だ。

 正直空中移動の『飛翔』は魔力消費量が多く、魔力操作が難しいのでコスパが悪い魔術なのだが仕方がない。


 届かない距離に逃げられたオーガは立ち尽くす。


「『穿つは一条の…———あぶな!!」


「ガァァァ!!!」


 詠唱をしていたが、常時展開していた五重の魔力障壁が三枚破られた。

 それをやった犯人は地面にいるオーガだ。


 オーガは届かないと悟った瞬間手に持っていた石斧を投げつけてきたのだ。


 これはさすがにびっくりである。


「さっさと倒そう…!『水球×五十』飛んでけ!」


 五十個のバスケット―ボールほどの大きさの水球を次々とオーガに向けて飛ばしてく。


 オーガも次々とかわすのだが、コントロールされた水球を全て躱すのは難しいので十個ほど当たる。


 しかし水球自体はあまり攻撃力は高くないのでイラつかせるだけで終わってってしまうが、シオンの狙いは別だった。


 無詠唱で水の壁でオーガを包む。


 そして杖に魔力を込めながら言葉を紡ぐ。


「『永遠の邂逅。停止せよ。汝は永なり―氷魔の二—『氷棺こおりひつぎ』』」


 魔術が発動しオーガを氷漬けにする。


 徐々に氷漬けにする『氷結』とは違い、一瞬で氷漬けにするのがこの魔術のいい所だ。


 シオンが作ったこの魔術は相手の血液に瞬間的に干渉しないといけないので普通は時間をかけるものなのだが、今回はオーガの体が濡れていたのであまり時間がかからずに発動できた。


「ふぅ…さすがに死んでるよね…?」


 残心を忘れずに警戒して近づくが、しっかりと倒し切ったようだった。


 しかしここであることに気づく。


「あ!魔石取れるかな…」


 氷漬けにしたので魔石が取り出せるかわからない。


「うーん…。とりあえず真っ二つにしてみるか。『風刃シェイド』」


 風の刃で上半身と下半身に分ける。


「これで生き返ることはないな」


 絶命を確信して『氷棺』を解除する。


 そしたら真っ二つにされた生々しい死体に変わった。


 オーガは食べてもおいしくないので手を汚さないように、極小の気流の刃で少しづつ切り裂ていき、心臓部分にある魔石を取り出す。


「さてと…アル兄さんは終わってるかな?」


 そう呟いて『念動』でオーガの死体を動かしながら『飛翔』で飛んでいく。

 そして目線の先では―――たった今アルがオーガの首を跳ね飛ばし、決着がついた。


「おーい!怪我はない?」


「お!もう終わったのか。はやいな。後ろにあるやつか」


「オーガは近接だからね。最初こそ戸惑ったけど空から一方的に攻撃できたよ」


「うわ、それは相手がかわいそうだなー。俺はバチバチに近接でやりあったから楽しかったぜ!」


「いやBランクをソロで切りあうって楽しいですむのか…」


「いや、俺の方のオーガは若かったからBランクの下位だったと思うぜ」


「まあそれでもおかしいけどねー…。とりあえず怪我がなさそうでよかったよ」


 周りを見渡すと騎士団の方も粗方討伐が終わっていた。


「父さん大丈夫かな」


「大丈夫だと思うが…一応この辺で待機しとくか」


 今後の森の中ではどんな戦いが行われているのか想いを馳せながら休息をとった。

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