第11話 スタンピード③
アレク一行は今回のスタンピードの原因の魔物を見つけるために魔の森深くまで潜っていた。
森に入ってからひっきりなしに魔物が襲ってくる。その襲ってくる魔物はDランク以上だ。
中にはBランクの魔物も襲ってきたが、この討伐部隊は元王国騎士団長のアレクを筆頭に、Aランクパーティーの冒険者、この領地最強の騎士団といった誰を見ても圧倒的強者の集団なのでBランク程度の魔物であればさほど危険はない。
しかしそれでも過去のスタンピードと比べると魔物の強さが上がっているとアレク達は感じていた。
「旦那ー、なんか全体的に強くないっすか?Bランクの魔物がこんなに余裕がないなんておかしいっすよ。」
Aランクパーティーのリーダーのドリスがアレクに疑問の声を上げる。
「確かにドリスの言う通りだ。もしかすると今回の魔物はAランク……いや、Sランクに届いてる可能性がある。」
「うわっ!Sランクは勘弁してほしい…」
ドリスが嘆きの声を上げる。
「何言ってるんだ。単独なら確かに勘弁してほしいが、ここにいる全員でかかれば可能だろう。」
「ハイレイさんは相変わらず自信満々っすねー。まあでも俺も否定しないっすけど!」
「ちょっとドリス!まじめにやんなさいよ!」
「へいへい…」
襲い掛かってくる魔物を切り伏せながら、ドリスはこの領地の騎士団長のハイレイに同意する。
そして軽口を叩いているドリスに注意するのはパーティー仲間の魔術師のサーニャだ。こうしていつもの掛け合いができているのはだてにAランク冒険者じゃないだろう。
そしてしばらく奥へ進んでいくとアレクは濃密な魔力を感じ取った。
ここにいる者は全員実力者なので、同じようにこの魔力を感じ取ることができていただろう。
「皆各自気をつけろ!この先に奴はいる!」
「「「了解!!」」」
もうすっかり周囲には魔物はいなくなり、それに反してずっと感じる魔力はどんどん濃密になっていく。
そしてついに奴の姿が見えた。
体長は十メートル以上。全身は真っ黒でその鱗は艶やかに黒光りをしている。
そして二本の太い脚は大きなかぎ爪がついており、大きな翼をたなびかせて、赤い蛇目と鋭そうな牙は獰猛さを表していた。
「黒竜か……」
誰かがつぶやく。
黒竜は竜種の中でも最も獰猛といわれている。
その危険度はAランク上位からSランク下位までの間ぐらいだ。
スタンピードが起こることも稀だが、その主の魔物は基本的にはBランクか高くてもAランクとなっている。だから今回の黒竜は例を見ない強さだということだ。
「よしお前らなら俺からは何も言うことはない!こんなとこで死ぬなよ!」
アレクが叫び、各自戦闘態勢に入る。
そして黒竜との戦いが始まった。
*****
アレク達が黒竜と邂逅しているとき、シオン達の方もある問題に対峙していた。
「アル兄さん!森の奥からなんか強いの出てきてない!?」
そう、森の奥からC~Bランク相当の魔物がたくさん出てきたのだ。さすがのシオンでも制限した状態では勝てない。
「じゃあ俺たちで倒すぞ!流石に俺でもあれはきつい!シオンははずせ!」
「え、はずすの!?まだ完璧に制御できてないんだけどなぁ」
そういいつつもシオンは自分の左耳についているイヤリングを触り言葉を紡いだ。
「—
その瞬間シオンの体内魔力が激増した。
「この感覚久しぶりだね……。さすがに前よりできると思うけどいけるかなー……」
シオン三歳から毎日魔術の修行をしてきた。
その中で少し前、体内魔力量が多すぎて現在のシオンの魔術制御や魔術操作ではうまく魔術が発動しなかったり暴発したりしてしまう状態になってしまったのだ。
それによってシオンはうまく魔術が使えなくなってしまい、落ち込んだ。
しかしシオンは考えた。
現在の体内魔力量が多いなら、その一部を閉じてしまえばいいのではないかと。
ではどうしようか。そこで思いついたのは錬金術だ。
五歳ぐらいからちょくちょくと錬金術の勉強をしていた。
錬金術とは魔術と体系が違い、素材を用いて何か物を作ったりするものだ。
それを魔道具という。
そこでシオンは体内魔力を分けて、片方を封印する魔道具を作ろうと思ったのだ。
その魔道具を作るためには、
①自分の体内魔力に干渉しても大丈夫なような素材の発見
②その素材と他の素材をうまく組み合わせる
③自分の体内魔力をわけて封印する術式の開発
この三つが課題となった。
まず素材だが、耐久値が高く魔力との親和性も高いミスリルという金属を。
そしてAランクのブラックオーガの魔石、シルバーウルフの毛を使いイヤリングの形にすることに決める。
組み合わせはあまり苦労しなかったが、術式の開発には一番時間がかかった。
まず既存の術式を全て調べ、その術式の部分部分を組み合わせたりするのを繰り返し、または新しい術語を開発したりして新しく作る必要がある。
そして開発した術式は、『—分割—』『—施錠—』の二つだ。
正直シオン自身でも天才なんじゃないかと思ったほどに完成度の高いものができたのだ。
これには家族にも驚かれた。
そしてイヤリング状に形成したものに、『—己—魔力—二分割—一方施錠—自動装着—』といった意味の術式を書き、ようやく完成したのだ。
そして母と同じ体内魔力量を二分割して片方を施錠したおかげで、十分に魔術を使うことができるようになった。
因みに完成するまでに半年かかったのは、それほど難しかったからだ。
それから度々解錠しては魔力操作・制御の訓練をしていたのだが、体内魔力量もさらに増えるのでイヤリングを外す時がいつ来るのか定かでない。
そしてシオンは施錠していた体内魔力を解錠し、全身に魔力を滾らせながら何の魔術を使うか考える。
「アル兄さん準備できた!」
「おう!とりあえず手前の雑魚共をやってくれ!」
さて、先ほど魔力が多すぎるとうまく発動しなかったり暴発してしまったりするといった。
シオンはそれから修業し、自分の魔術制御を暴発の方に全振りをしてそれを可能な限り制御するように努めたのだ。
つまり魔力を解錠したシオンは手加減ができないのである。
「『降るは幾千幾万の雷霆。裁きの鉄槌。天の傲慢な嘆き。迎合せよ刮目せよ其を見つめるのみ―雷魔の二—
空から数えきれないくらいの雷が前方の魔物の集団に降り注ぐ。
一つ一つの雷は単体の時より威力は低いが、その分数が多いので広範囲を殲滅するときにのために開発したものだった。
この魔術一発で広範囲に渡って魔物に損害を与える。
「ふぅー……。あぶねっ、暴走しそうになっちゃった」
その本人は暴発しそうになり冷や汗をしていたのは秘密だ。
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