第10話 スタンピード②

 城壁に着くと騎士や冒険者たちが忙しなく動いていた。


 その中、一人の騎士がこちらに気づく。


「領主様、シオン様お疲れ様です。」


「おう、お前もお疲れさん。どの程度準備が終わってる?」


「回復薬などの消耗品はあらかた運び終えました。もうそろそろしたら全員集まるかと。」


「お、早いな。じゃあ準備が終わったら呼んでくれ。」


「承知しました。」


その後も父は他の騎士や冒険者に呼び止められていたので先に行くことにする。

 城壁を登り一番上につくと、アルと母のセリーがいた。


「アル兄さん、母さん。」


 シオンが声をかけると二人は振り向く。


「やっと来たな!」


「お待たせー」


「あら、シオン。アレクは?」


「騎士たちに捕まってたから置いてきた。」


「あらあら〜。人気者ねあの人は。あ、そういえば契約できたかしら?」


「ばっちし契約できたよ。」


 母が契約武器のことについて尋ねて来たので出来たことを報告した。


「流石シオンね。」


「いいなー!俺も契約武器欲しい!」


「契約武器はなかなかないからね〜。アルもいつその時が来てもいいように鍛錬は続けるのよ〜。」


「それは当たり前!」


 実際のところ契約武器はどのようにして作られたか未だに分かっていない。確かなのは古代からあるということだけだ。


 それから父が解放されてシオンたちのとこにやってきた。


「やっと解放された…。お前たち準備はいいか?」


「ええ。」


「早く戦いてぇ!」


「もちろん」


 「うし!じゃあ出発前の演説かますか!」


 そう言って周りを見渡せるように城壁の縁まで歩いていく。そして姿を現した途端、喧騒が途端に静かになった。




 「皆知っての通り今まさに魔物の群れがこの町に襲い掛かろうとしている。しかし心配することはない!それはここがフォードレイン領であるからだ!ここは常に危険に晒されていることは百も承知だろう!ここにいる冒険者、騎士団の人間はその危険なとこにわざわざいるのは何故か!…それは諸君らが確かな実力者であり、皆戦うのが好きだからだ。」


 そこまで言って一息つく。


「さて、諸君らに問おう。魔物が怖いか?」


「「「「否!!」」」」


「傷つくのが怖いか?」


「「「「否!!」」」」


 「では戦うぞ!俺は敵の親玉をぶち殺しに行く!命知らずの馬鹿どもは俺に続け!俺の息子達はここに向かってくる魔物の群れを堰き止める!守りたいものがあるやつはこの街を守れ!怪我をしたらここに戻ってこい!いくらでも回復薬がある!それ以上もう何も言うことはない!勇敢で無謀で命知らずな戦士たちよ!殺し尽くせ!殲滅せよ!一匹たりとも逃すな!さあこの街に向かってくる不届き者達をぶち殺しに行くぞ!!!!」


「「「「おう!!!」」」」


 シオンは驚愕した。

 真の実力者がする演説はこれ程のものなのかと!

 そして自分の体が震えているのがわかる。これは恐怖からではない。先程の演説に自分も当てられて興奮しているのだ。それは隣のアルも同じだった。


「アル兄さん、ヤバいねこれ…。」


「ああ…。ヤベェ。そして最高だ!!」


 続々と城門から出てこようとしている。


「俺たちも行くぞシオン!」


「うん。行こうアル兄さん!」


 そしてシオン達は無属性魔術の『身体強化』をかけて、城壁から飛び降りた。

 続いてシオン風魔術の『追いブースト』をアル兄さんと自分にかける。


「ははは!いいね!最高だ!」


 領地と魔の森までが約三kmで、シオンとアルが迎え撃つ平原まで約二km。その二kmを二人は一分半で走り抜けた。


 シオンとアルは周りが見渡せる丘の上に登る。そこから前方の平原は魔物の海と表現してもおかしくない光景だった。普通の感性ならこの光景に恐怖するだろう。しかし彼ら兄弟は違う。


「「フフフ…。ハハハハハ!!」」


「最高かよ!好きなだけ暴れられるぞ…!」


「いろんな魔術試せる」


 そう、片方は生粋の戦闘狂。もう片方は魔術狂いだった。いつの間にか追いついてきた騎士の顔が引きつっている。


「ねえアル兄さん。初撃は俺がやっていい?」


「うーん。任せた!」


「よし!」


「ちょ、ちょっと大丈夫なんですか?」


 新入りの騎士が隣のベテラン騎士に聞いた。


「ああ、お前はまだ知らないのか。まあ心配するだけ無駄だ。今この場にいないレイ様もやばいが…、この二人が一番ぶっ飛んでやがる」


 そう後ろで話しているがシオンは気にしないことにした。


「来い―『白銀杖』」


 シオンが一言呟くと何もない空間から白銀の杖しろがねのつえが姿を現した。


「「「おお…」」」


 そして杖を地面に突き立てながら、詠唱を始める。発動するのはオリジナルの魔術だ。


「『望は幾千の磔。氷神の追撃。厳寒の獏。不変の命よ。集い・凝固し・螺旋せよ。それは葬るもの成—氷魔の一『氷天月白ひょうてんげっぱく』』」


 その瞬間、空に広がった幾千もの氷の槍が螺旋しながら超速度で魔物の群れに飛んで行った。


 一拍遅れて辺りに舞い上がる土煙。


「はは、すっげ…」


「な…」


 ランクは低いとはいえ、手前側にいた三百体以上の魔物を串刺しにして殺した。

 しかしそれに気にせず奥からどんどん魔物が飛び出してくる。


「アル兄さんどうぞ!」


「よっしゃー、行くぜぇぇぇぇ!!」


 高レベルの身体強化と火魔術で起こした爆風により、目で追うのがやっとの速度でアルは魔物の群れに突っ込んでいった。


 そして剣を巧みに使い、切って、突いて、躱して、蹴り飛ばして、魔術で燃やして…。とにかく暴れまわっている。


 それを見てシオンも魔術で援護した。


「『穿て―氷槍アイスランス—×七』『巻き上がり切り刻め―風巻断空かざまきだんくう』『降ろ―いかづち—×七』」


 氷の槍が貫き、気流の刃が暴れる竜巻を放ち、雷を落とす。


 二人の献身によって防衛がただの虐殺に変わった。


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