第9話 スタンピード①
その日、いつも通り部屋で本を読んでいたらリコがやってきた。
「シオン様。リコです。入ってもよろしいでしょうか?」
「リコ?うんいいよ。」
リコが扉を開けて入ってくる。
いつもはこの時間には訪ねてこないので何かあったのだろうかと考えた。
「それでどうしたの?」
「旦那様から至急執務室に来るようにと仰せられました。」
「父さんが?わかったすぐ行くよ。」
何が起こったのかわからないが、至急となるとただ事じゃないのだろう。シオンは幸いにも身だしなみは整えていたのですぐに執務室へ向かった。
シオンは執務室に着いてドアをノックする。
「シオンです。呼ばれた件について来ました」
「入れ。」
ドアを開けて入ると、自分以外の家族が全員いた。
「すみません。遅れました」
「いや、いい。他もさっき来たばかりだ」
そう答える父には普段のおちゃらけた様子は鳴りを潜めて、真剣な雰囲気だった。
「さて、先ほど連絡が入った。どうやら魔の森でスタンピードが発生する兆候があるようだ」
「「なっ……!」」
シオンとアルは驚いているが、母が驚いていないということは事前に聞いていたのだろうか。
驚くシオンたちを一瞥して再度口を開く。
「幸いにもうちはいつ起きてもいいように準備をしてきたからあまり慌てることはない。まだ正確な日時は分からんが、おそらく五日以内に起こるだろう」
「父さん。その時俺らはどうするの?」
思わずシオンは聞いた。
「まず俺はスタンピードの親玉をつぶしに行く。恐らく敵の親玉は最低でもAランク以上だ。そしてセリーは城壁あたりで回復担当だ。アル、シオンはもうある程度は戦える。だから、騎士団の中に混じってくれ」
「魔物とめっちゃやりあえるんだろ?学院に行く前でよかったぜ。」
そう言って喜ぶアルだが、あと数週間したら学院に行くことが決まっている。ついこの間試験を受けてきて実技は主席、筆記は十位の総合で三席だったらしい。
因みにお世辞にも頭が良いと言えないアルが筆記でこの順位をとれたのは、母に無理やり勉強させられたからである。
そして三年前に一足先にレイは学院に行っている。実技、筆記ともに主席だったことや、次期領主ということもあり、相当人気らしい。学院は十一歳から十六歳の六年間であるのであと三年したら俺と入れ違いに帰ってくることになる。
「アルは相変わらずだな…。まあ正直言ってこの領地の戦力は充実してるからあまり心配する必要はないんだけどな」
そう、この領地は魔の森が隣にあり、国境でもあるので戦力は過剰といえるほど充実している。高ランク冒険者も他より多いし、フォードレイン家の騎士団も精鋭ぞろいだ。
「俺のほうにつく騎士団の人数少なくしてくれない?正直俺の場合、周りに味方がいると全力で魔術使えないからさ」
相手が単体でかつ高ランクなら、狙うのは一体だけでいいので魔術を使うにあたって周りを気にする必要はあまりない。しかし今回のスタンビートのような、ランクが入り混じった魔物の群れが相手となると、どうしても広範囲に魔術を使う必要が出てくる。
「え!そしたら俺の方も少ないほうが良い!」
「それは危ないわ!さすがにそれはダメよ!」
「いや、正直アルとシオンは下手に守るよりも自由にさせたほうが良いかもしれん。そしたらアルとシオン二人で組むか?さすがに少しは騎士に随行させるが」
「お!シオンとか!いいぜ!これで気にせず突っ込めるな!」
「いや、少しは気にしてほしいけどね。でもまあ、後ろは任せてよ。」
今まで散々アルとは共闘してきたので、連携はお手の物である。アルは剣術主体の前衛でシオンは魔術主体の後衛なのでバランスもいい。
「いいあなたたち!怪我したら承知しないんだからね!」
「「りょ、了解です!!」」
母は強し。
二日後、ふいに屋敷の中が騒がしいことに気づいた。
そしてリコがこっちへ走ってきて、
「シオン様!スタンピードがあと二時間後ぐらいから始まるみたいです!」
「ーーっ!わかった!すぐ準備する!」
シオンは急いで自分の部屋に戻り、自分の装備を整えていく。
シオンは魔術師なので、付けるのは魔術師用の装備だ。
準備が終わったので急いで部屋を出てエントランスに行ったら父がすでにいた。
「父さんいつここ出る?」
「シオンか。セリーとアルはもう行ってもらってる」
そして続けて、
「シオンに渡すものがある。これを使ってみろ」
そう言って父が渡してきたのは長さ1mほどの全体に幾何学模様が入った銀の棒だった。
「これは…?」
シオンは尋ねた。
「これは契約武器だ。昔からうちにあったんだが、如何せん契約武器だから今まで使えたやつがいない。シオンならできるんじゃないかと思ってな」
「契約武器⁉」
シオンが驚くのも無理はない。契約武器とは他の武器とは違い、その武器と契約することによって、破格な機能を持った武器なのだ。
「これを俺に?」
「ああ、試してみろ。ただ魔力を込めるだけだ。」
シオンは渡された契約武器を受け取ると僅かに躊躇いながらも魔力を込めた。
その瞬間手にしていた契約武器が輝くと突然消えて、頭の中にその武器に関する情報がなだれ込んできた。
「シオン。契約できたのか…?」
「うん…。契約できた…」
「そうかそうか!さすがはシオンだな!まさかできちまうとは!」
「いや、俺もびっくりしたよ…。契約できたってことはずっと使っていいんだよね?」
「おう。当たり前だ!その武器はシオンを選んだんだからな!」
そう言って笑う父に続きシオンは家を出た。
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